「女性特有の感情論に流されやすい君のために、あえて厳しいことを言っているんだ」と説教する夫。~大人しい令嬢をやめた私と、地獄の末路を辿る彼~

水上

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第27話:強さと優しさが創り出す世界

 王都の中心部に位置するオズワルド商会の広大な展示会場は、これまでにないほどの熱気と華やぎに包まれていた。

 天井から吊るされた豪奢なシャンデリアの光が、磨き上げられた無垢の木材を滑らかに照らし出している。

 会場の中央に鎮座するのは、隣国の王侯貴族からの特注品である黒檀の飾り棚。

 漆黒の木肌に施された流れるようなカービングは、息を呑むほどに精緻でありながら、木材の反りや割れを微塵も感じさせない完璧な構造計算の上に成り立っていた。

「素晴らしい……! 黒檀でこれほど滑らかな曲線を出しつつ、重厚感を損なわないとは。一体どのような魔法を使ったのだ」

「魔法などではありませんよ。職人の血の滲むような技術と、木を知り尽くした緻密な計算の賜物です」

 感嘆の声を漏らす貴族や豪商たちの中で、エルサ・ウォルドルフは自信に満ちた声で答えていた。

 今日のエルサは、工房でのエプロン姿とは打って変わり、深い森のような彼女の瞳に合わせた、仕立ての良い深緑色のドレスを身に纏っている。

 タイトに結い上げていた亜麻色の髪も、今日は美しく編み込まれて背中に流れていた。
 しかし、彼女の両手には、貴婦人が身につけるべきレースの手袋はない。

 むき出しになったその手には、カンナを握り続けた微かなマメがあり、木屑と油による手荒れの跡がはっきりと刻まれている。

 かつて、クリスチャンやローラに「薄汚い」「下品だ」と嘲笑われ、エルサ自身も恥じて隠そうとしていた手。

 だが今、彼女のその手を「汚い」と笑う者はこの会場に一人としていなかった。

 むしろ、その荒れた指先から生み出された圧倒的な芸術品を前に、誰もが感嘆と敬意の眼差しを向けている。

「このダイニングチェアの座面の角度は、我が家の老いた母でも負担が少なそうだ。ぜひ三脚、いや五脚ほど注文したいのだが」

「ありがとうございます。座面の沈み込みは、ミリ単位で調整が可能ですので、後日ご自宅へ採寸に伺わせますわね」

 エルサは一人ひとりの顧客に対し、誠実に、そして的確に答えていく。
 その姿を少し離れた場所から見ていた職人頭のバルトは、目頭を熱くして太い腕で涙を拭っていた。

「バルト親方、泣くのは早えですよ。まだ発表会は半ばですぜ」

 若い職人がからかうように肩を小突く。

「馬鹿野郎、泣いてなんかいねえよ。ただ……、お嬢様が、あんなに堂々と笑ってらっしゃるのが……、嬉しくてな」

 バルトの言葉に、他の職人たちも深く頷いた。

 彼らは知っている。
 
 エルサがどれほど理不尽な扱いに耐え、それでも木と向き合うことを諦めず、自分たちを守るためにどれほどの犠牲を払ってきたかを。

 今、自分たちが手掛けた家具が国中の名士たちに絶賛され、確固たる地位を築き上げているのは、すべてエルサの強さと優しさのおかげなのだということを……。

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