断罪されていたはずなのですが、成り行きで辺境伯様に連れ去られた結果……。

水上

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第22話:的中する予言と狙撃手

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 先日の夜会でバーナム効果を暴かれたにもかかわらず、イザベラとマダム・ステラの勢いは衰えていなかった。
 それどころか、イザベラは過去の実績を持ち出し、さらに強気な宣伝活動を開始していたのだ。

 王都のサロンの一室。
 イザベラは貴族の婦人たちを集め、一冊の分厚い革表紙の本を得意げに掲げていた。

「皆様、ご覧になって! これがマダム・ステラの予言の書ですわ。ここには、過去にマダムが予言し、見事に的中させた数々の奇跡が記されていますの!」

 イザベラはページをめくり、大げさに読み上げた。

「『今年の春、東の空より雷鳴と共に凶事が訪れるであろう』……ほら! 実際に春に東部の領地で落雷によるボヤ騒ぎがありましたわ! それにこちら、『高貴なる青き血に、新たな出会いがある』……これはまさに、私とジェラルド様の運命の出会いのこと! 全て当たっていますわ!」

 婦人たちが「まあ、凄いわ」「やはり本物なのね」と感嘆の声を漏らす。
 イザベラは鼻高々に胸を張った。

「辺境伯様は『誰にでも当てはまる』なんて仰いましたけど、これほど具体的な事実が当たっているのですから、言い逃れはできませんわ。さあ、リリア。貴女も認めなさい。貴女が運命の邪魔者だということを!」

 サロンの隅に呼び出されていたリリアは、困ったように眉を下げた。
 確かに、書かれていることは実際に起きた出来事と合致しているように見える。

「……イザベラ様。でも、それは……」

「反論できないでしょう? さあ、跪いて謝罪を……」

「――実に興味深い創作物だ」

 リリアの隣で、紅茶を飲んでいたアルヴィスがカップを置いた。
 彼はイザベラの手から予言の書をひったくると、パラパラとページをめくった。

「返してよ! 汚い手で触らないで!」

「汚いとは心外だな。実験前には必ず消毒をしている。……ふむ。なるほど、見事なデータだ」

 アルヴィスは感心したように頷き、そして冷徹に言い放った。

「だが、これは予言ではない。典型的な狙撃兵の誤謬だ」

「そ、げき……?」

 聞き慣れない単語に、イザベラと婦人たちが顔を見合わせる。
 アルヴィスは本をバタンと閉じ、皆に見えるように掲げた。

「あるところに、銃の腕前を自慢したい男がいた。彼は納屋の壁に向かって、無作為に銃を乱射した。当然、弾痕はバラバラだ。……だがその後、彼は弾がたまたま密集して当たった箇所に、後からペンで赤丸(ターゲット)を描き込み、こう主張した。『見ろ、私は全ての弾を的の中心に命中させた天才狙撃手だ』とな」

 アルヴィスはイザベラを一瞥した。

「マダム・ステラの手口はこれと同じだ。彼女は過去に膨大な数の――おそらく数千、数万もの曖昧な予言をばら撒いている。その大半は外れたか、意味をなさなかったはずだ。だが、この本にはだけが抽出され、さも最初からそこを狙ったかのように編集されている」

 彼は本を机に放り投げた。

「君たちは、壁に残された無数のを見せられていないだけだ。大量のデータを後から囲い込み、『当たった』と主張するのは、予言ではなくただのデータの改竄だ」

「なっ、言いがかりよ! 外れた予言なんてないわ!」

 イザベラが叫ぶと、アルヴィスは懐から数枚の紙切れを取り出した。

「そう言うと思って、信頼できるルートから彼女が過去に貴族たちに送った手紙を入手しておいた」

 彼は紙切れを読み上げた。

「『今年の春、西の地で大豊作になる』……実際は大凶作だったな。『夏に国王陛下が病に伏せる』……陛下はピンピンしておられたが? 『ジェラルド殿下は赤毛の女性と結ばれる』……イザベラ、君の髪はブロンドではなかったか?」

 会場が静まり返る。
 アルヴィスが読み上げる外れた予言の山に、婦人たちの顔色がサーッと引いていく。

「これらは全てなかったことにされ、闇に葬られた予言たちだ。彼女は数千発撃って、たまたま当たった数発だけに赤丸をつけて『的中した!』と騒いでいる三流の狙撃手に過ぎない」

 アルヴィスはリリアの肩を引き寄せた。

「リリア。人間は確証バイアスの生き物だ。自分の信じたい情報(当たった予言)だけを集め、信じたくない情報(外れた予言)を無意識に無視する。だが、科学的な検証とは、外れたデータも含めた全体の統計で行うものだ」

「はい、アルヴィス様。……つまり、数打ちゃ当たる、ということですね?」

「その通り。実に的確な要約だ」

 リリアの言葉に、アルヴィスは満足げに微笑んだ。

「う……、ううっ……!」

 イザベラはわなわなと震え、マダム・ステラを振り返った。
 老婆は気まずそうに目を逸らしている。

「嘘よ……。マダム、何か言ってやって! 星は絶対なんでしょう!?」

「え、ええ……星は絶対だよ! たまたま星の巡りが悪かっただけで……!」

 苦しい言い訳をする老婆に、アルヴィスは冷ややかな視線を送った。

「星のせいにするな。都合が悪くなったら、いつもその言い訳をしているのか?」

 もはや勝負は明らかだった。
 過去の実績という最大の武器を統計的な詐欺だと暴かれたイザベラたちは、蜘蛛の子を散らすようにサロンから逃げ出した。

「……また逃げたか」

 アルヴィスは呆れつつ、リリアの手を取った。

「だが、これで証明されたな。君の運命を決めるのは、星でも予言者でもない」

「はい。……自分で選び取るもの、ですね」

 リリアは力強く頷いた。
 予言の書よりも、隣にいる彼の手の温もりの方が、よほど確かな未来への道しるべのように感じられた。
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