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第13話:妻の本音と変貌
しおりを挟むセドリックは次第に、実務に一切関わらなくなった。
『僕は外に出て、人脈を作り、我が家の名声を高めるのが仕事だ』と言い張り、採算を度外視した慈善事業や、不可能に近い納期の依頼を、対外的な評価を上げるためだけに安請け合いしてくるようになった。
そして、そのすべてのしわ寄せ——徹夜での制作、予算のやりくり、遅れる納期の調整——は、「君ならできるだろう?」という笑顔の丸投げによって、オリヴィア一人の肩にのしかかった。
それでも、オリヴィアは耐えた。
「彼には私が必要だ」
「彼が悪気でやっているわけではない」
「私が頑張れば、また昔のように優しく笑ってくれるはずだ」
そう自分に言い聞かせ、すり減る心を誤魔化し続けてきた。
しかし、ステラが現れてから、その脆い均衡は完全に崩れ去った。
『ステラは素晴らしい無私の心の持ち主だ』
『君は自分の利益ばかりを主張し、僕たちの崇高な理念に泥を塗ろうとしている』
『君はどうして、彼女のように見返りを求めない純粋な心を持てないんだ?』
暗い部屋の天井を見つめながら、オリヴィアはゆっくりと呼吸を繰り返した。
涙は、もう出なかった。
ステラは、自分が手を汚して働くことは一切しない。
安全な場所から、「可哀想な人たちを救いたい」と美しい言葉を紡ぎ、オリヴィアの成果物を「自分が用意した」と言い張って称賛を独占するだけだ。
そしてセドリックは、そんなステラを聖女として崇め、血反吐を吐きながら実務を支えているオリヴィアを、目先の利益にこだわる強欲な女として切り捨てた。
「……バカみたい」
乾いた唇から、自嘲の言葉が漏れた。
自分は、一体何を守ろうとしていたのだろう。
彼がかつて見せてくれた優しさは、ただオリヴィアという便利な道具を効率よく動かすための、口当たりの良い潤滑油に過ぎなかったのだ。
オリヴィアがどれだけ身を削っても、彼がその労力を正当に評価することはない。
彼女がどれだけ悲鳴を上げても、彼は道徳という刃で口を塞ぎ、罪悪感を植え付けるだけだ。
彼が愛しているのは、オリヴィアでも、領民でもない。
素晴らしい人格者である自分自身のイメージだけなのだ。
(百枚のレースを編めって……?)
冷え切った指先を見つめる。
物理的に不可能だ。
仮に編み上げたとしても、彼はまたそれを無私の心という名目で無償配布し、ステラに「私が愛を配りました」と言わせるに決まっている。
そして、赤字はさらに膨らみ、領民は結局路頭に迷い、オリヴィアには「努力が足りない」という非難が降り注ぐ。
終わりのない地獄。
オリヴィアが我慢すればするほど、彼らは増長し、彼女の命を食い潰していく。
「……もう、嫌だ」
暗闇の中で、オリヴィアは静かに呟いた。
怒りではない。
激しい憎悪でもない。
ただ、長年心に溜め込んできたドロドロとした疲労と、果てしない徒労感が、ついに臨界点に達しようとしていた。
「もう、頑張りたくない……」
自分がすべてを背負い込み、他人の尻拭いをする生き方。
波風を立てるのを恐れて、理不尽な要求に黙って従う生き方。
その結果が、これだ。
オリヴィアの本当の苦労と実力を、正当に評価してくれる人間など、この屋敷には誰もいない。
彼女はただ、彼らの承認欲求を満たすために消費され、最後には壊れて捨てられるだけなのだ。
(……それでも)
オリヴィアは、鉛のように重い瞼をゆっくりと閉じた。
すぐに逃げ出すことはできない。
今の彼女には、行く当ても、資金もない。
自分の生み出したデザインの権利すら、法的には伯爵家であるセドリックのものになっている。
今、ここで感情に任せて家を飛び出せば、夫の崇高な理念を理解できず、わがままで逃げ出した冷酷な妻という汚名を着せられ、社会的に抹殺されるだろう。
(考えなさい。私にできることを)
極限の疲労の中で、オリヴィアの頭脳は回転を始めていた。
彼らの思い通りにはさせない。
自分の価値を、自分の人生を、これ以上一ミリたりとも搾取させない。
そのための準備を、誰にも気づかれないように始めなければならない。
夜が白々と明け始める頃、オリヴィアはベッドの中で、かつて信じた愛への未練を、完全に断ち切った。
まだ心の中に残っていた自分が我慢すればという弱さは、冷え切った絶望と共に、冷徹なものへと変貌していくのを感じていた。
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