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第40話:現実に直面する愛人
「……あ、あいつは……、イザベラはどこにいる!」
アーサーは這いつくばるようにして書類を掴み、怒りで目を血走らせて顔を上げた。
クロエの才能を横取りして自分を飾り立てていた女。
彼女の無知と傲慢さが、この致命的な結果を引き起こしたのだ。
「イザベラ様なら、先ほど公爵家からの使いの者に連れ戻されました。……公爵様は『娘の不始末は我が家の恥だが、この粗悪品を世に出したのはヴァレンティン商会の責任だ。一切の関わりを絶つ』と仰っておられたそうです」
「逃げたのか……! 僕に全部押し付けて!」
アーサーは、床をバンバンと叩きながら絶叫した。
しかし、彼がイザベラに「君が作れ」と責任を押し付けたのが始まりだ。
似た者同士の泥舟の沈没は、必然だった。
「……クロエ」
アーサーの口から、無意識のうちにその名前が漏れた。
もし彼女がいれば。
彼女が徹夜で工房にこもり、完璧な香水を作り上げていれば、こんなことにはならなかった。
出資者から称賛を浴び、莫大な利益を上げ、自分はまた社交界の頂点で笑っていられたはずなのだ。
(なぜ、逃げた。……なぜ、僕を見捨てた!)
アーサーの胸の中で、クロエに対する理不尽な怒りと、それ以上に巨大な後悔の念が渦巻き始めていた。
彼は、クロエが金の卵を産む鳥であることを理解していなかったわけではない。
ただ、その鳥が自分の籠から絶対に逃げないとタカをくくっていただけだ。
餌も水もやらず、羽をむしり取っても、自分のために鳴き続けると信じていた。
しかし、鳥は自らの知恵で籠の鍵を開け、すでに手の届かない空高くへと飛び去ってしまった。
「……支配人」
アーサーは、虚ろな声で呟いた。
「クロエの居場所を……、探せ。ルミエール商会にいるんだろ? 僕が直接行って、説得する。あいつには僕が必要なんだ。僕が謝って、少し優しくしてやれば、絶対に僕の元に戻ってくる。……あいつがいれば、この借金も、失った信用も、また取り戻せるはずだ」
アーサーの甘いブルーの瞳には、狂気に近い執着が宿っていた。
彼はまだ、クロエの完全なる無関心を理解していない。
彼女が自分に対して一欠片の愛情も未練も持っていないという現実を、受け入れることができないのだ。
「……伯爵様。クロエ様はすでに、ルミエール商会の筆頭調香師として、王都のギルドで厳重に保護されております。面会など、到底……」
「いいから探せ!!」
アーサーの絶望的な怒号が、差し押さえ間近の執務室に空しく響き渡った。
一方で、同じ頃。
モンゴメリ公爵家の豪華なサロンでは、イザベラが父親である公爵の前に土下座させられていた。
「この愚か者めが! 貴様の無知と虚栄心のせいで、公爵家の名にどれほどの泥を塗ったか分かっているのか!」
公爵の怒声に、イザベラはビクッと肩を震わせた。
「お、お父様! 違うんです、あれはアーサー様が私に無理やり作らせて……、私は悪くありませんわ!」
イザベラは涙と鼻水で愛らしい顔をぐしゃぐしゃにしながら、言い訳を並べ立てた。
「黙れ! 貴様が『自分の発想』だと吹聴して回っていたことなど、社交界では誰もが知っている! その結果が、王太后様の側近の肌を荒らす毒水とは何事だ! 慰謝料の請求だけで、公爵家の財政も傾きかねんのだぞ!」
公爵は、イザベラの足元に、彼女が作ったあの吐き気を催す悪臭の小瓶を叩きつけた。
「貴様は今日限りで勘当だ! 修道院へ行き、一生神に祈って罪を償え! 二度と私の前にその愚かな顔を見せるな!」
「嫌……! 修道院なんて嫌ですわ! 私は、私はお姫様なのに……!」
イザベラの絶叫は、冷酷な護衛の騎士たちによって遮られ、彼女はそのまま屋敷の奥へと引き摺られていった。
彼女がクロエの成果を盗み、彼女を惨めな女と嘲笑っていた日々は、完全に終わった。
計算ずくで奪い取ったものは、すべて砂のように指の間からこぼれ落ち、彼女の手元には自分自身の無能さという醜い現実だけが残されたのである。
アーサーは這いつくばるようにして書類を掴み、怒りで目を血走らせて顔を上げた。
クロエの才能を横取りして自分を飾り立てていた女。
彼女の無知と傲慢さが、この致命的な結果を引き起こしたのだ。
「イザベラ様なら、先ほど公爵家からの使いの者に連れ戻されました。……公爵様は『娘の不始末は我が家の恥だが、この粗悪品を世に出したのはヴァレンティン商会の責任だ。一切の関わりを絶つ』と仰っておられたそうです」
「逃げたのか……! 僕に全部押し付けて!」
アーサーは、床をバンバンと叩きながら絶叫した。
しかし、彼がイザベラに「君が作れ」と責任を押し付けたのが始まりだ。
似た者同士の泥舟の沈没は、必然だった。
「……クロエ」
アーサーの口から、無意識のうちにその名前が漏れた。
もし彼女がいれば。
彼女が徹夜で工房にこもり、完璧な香水を作り上げていれば、こんなことにはならなかった。
出資者から称賛を浴び、莫大な利益を上げ、自分はまた社交界の頂点で笑っていられたはずなのだ。
(なぜ、逃げた。……なぜ、僕を見捨てた!)
アーサーの胸の中で、クロエに対する理不尽な怒りと、それ以上に巨大な後悔の念が渦巻き始めていた。
彼は、クロエが金の卵を産む鳥であることを理解していなかったわけではない。
ただ、その鳥が自分の籠から絶対に逃げないとタカをくくっていただけだ。
餌も水もやらず、羽をむしり取っても、自分のために鳴き続けると信じていた。
しかし、鳥は自らの知恵で籠の鍵を開け、すでに手の届かない空高くへと飛び去ってしまった。
「……支配人」
アーサーは、虚ろな声で呟いた。
「クロエの居場所を……、探せ。ルミエール商会にいるんだろ? 僕が直接行って、説得する。あいつには僕が必要なんだ。僕が謝って、少し優しくしてやれば、絶対に僕の元に戻ってくる。……あいつがいれば、この借金も、失った信用も、また取り戻せるはずだ」
アーサーの甘いブルーの瞳には、狂気に近い執着が宿っていた。
彼はまだ、クロエの完全なる無関心を理解していない。
彼女が自分に対して一欠片の愛情も未練も持っていないという現実を、受け入れることができないのだ。
「……伯爵様。クロエ様はすでに、ルミエール商会の筆頭調香師として、王都のギルドで厳重に保護されております。面会など、到底……」
「いいから探せ!!」
アーサーの絶望的な怒号が、差し押さえ間近の執務室に空しく響き渡った。
一方で、同じ頃。
モンゴメリ公爵家の豪華なサロンでは、イザベラが父親である公爵の前に土下座させられていた。
「この愚か者めが! 貴様の無知と虚栄心のせいで、公爵家の名にどれほどの泥を塗ったか分かっているのか!」
公爵の怒声に、イザベラはビクッと肩を震わせた。
「お、お父様! 違うんです、あれはアーサー様が私に無理やり作らせて……、私は悪くありませんわ!」
イザベラは涙と鼻水で愛らしい顔をぐしゃぐしゃにしながら、言い訳を並べ立てた。
「黙れ! 貴様が『自分の発想』だと吹聴して回っていたことなど、社交界では誰もが知っている! その結果が、王太后様の側近の肌を荒らす毒水とは何事だ! 慰謝料の請求だけで、公爵家の財政も傾きかねんのだぞ!」
公爵は、イザベラの足元に、彼女が作ったあの吐き気を催す悪臭の小瓶を叩きつけた。
「貴様は今日限りで勘当だ! 修道院へ行き、一生神に祈って罪を償え! 二度と私の前にその愚かな顔を見せるな!」
「嫌……! 修道院なんて嫌ですわ! 私は、私はお姫様なのに……!」
イザベラの絶叫は、冷酷な護衛の騎士たちによって遮られ、彼女はそのまま屋敷の奥へと引き摺られていった。
彼女がクロエの成果を盗み、彼女を惨めな女と嘲笑っていた日々は、完全に終わった。
計算ずくで奪い取ったものは、すべて砂のように指の間からこぼれ落ち、彼女の手元には自分自身の無能さという醜い現実だけが残されたのである。
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