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第46話:届かない懺悔の声
アーサーは、クロエが絶対に自分を見捨てない便利な道具だとタカをくくっていた。
彼女がどれほど疲弊しようと、自分がどれほど傲慢に振る舞おうと、彼女は自分に依存しているのだと本気で信じ込んでいた。
しかし現実は違った。
依存していたのは、クロエではなく、彼の方だったのだ。
彼女の技術という強固な土台がなければ、彼のプロデュース力も、イザベラの発想も、ただの空虚な張りボテでしかなかった。
彼女がいなくなった途端、自分の足元がどれほど脆く、無力であったかを、彼は骨の髄まで思い知らされていた。
「クロエ……っ。ごめん、僕が悪かった……。君の愛を、当たり前だと思ってたんだ……っ!」
アーサーは、ガラス窓に額を擦り付け、ボロボロと涙をこぼした。
それは、彼が生まれて初めて流した、他者への純粋な謝罪と、取り返しのつかない喪失感から来る本物の涙だった。
しかし、その涙は、誰の心にも届かない。
店内のクロエは、ふと窓の外を見たが、アーサーの哀れな姿を視界に収めても、表情一つ変えることはなかった。
彼女はただ、ゴミを見るような無慈悲な一瞥を向けただけで、すぐに興味を失い、顧客の貴婦人との会話に戻っていった。
その一瞥が、アーサーにとっての完全な死の宣告だった。
彼女はもう、自分が泣こうが喚こうが、死にかけていようが、微塵も心を動かさないのだ。
自分が彼女のSOSを無視し、「僕の予定が狂う」と冷たく切り捨てたあの日のように。
いや、それ以上に残酷な完全な無関心によって。
「……う、あぁぁぁぁっ……!」
アーサーは、石畳に突っ伏し、獣のような慟哭を上げた。
自分がどれほど愚かで、どれほど愛おしく価値のあるものを、自らの手で粉々に壊してしまったのか。
その事実の重さが、彼を永遠の地獄へと突き落としていた。
数週間後。
王都の裏路地にある、薄暗く湿った安宿の一室。
アーサー・ヴァレンティンは、薄汚れたベッドの上に横たわっていた。
監査局による強制捜査と裁判の結果、彼は伯爵位を剥奪され、商会の全資産は詐欺の被害者や債権者への返済に充てられた。
それでも足りない莫大な借金が残り、彼は今、日雇いの肉体労働でその日暮らしをするただの平民に成り下がっていた。
光を孕んでいた金髪は伸び放題で汚れ、甘かった顔立ちは疲労と絶望で完全に老け込んでいる。
彼は、震える手で懐から小さなガラス瓶を取り出した。
それは、商会が差し押さえられる直前、彼が執務室から持ち出した、クロエが最後に作ったネロリの夜明けの残り香が入った小瓶だった。
アーサーは、その小瓶の蓋を開け、深く香りを吸い込んだ。
ネロリの清らかでほのかに苦味を帯びた、気品ある香り。
それは、クロエが徹夜で蒸留器の前に立ち、秒単位で温度を管理し、彼の事業を成功させるために血を吐くような思いで抽出してくれた、彼女の愛情と献身の結晶だった。
「……クロエ」
アーサーの目から、再び涙がこぼれ落ちた。
彼は、この香りを嗅ぐたびに、彼女の冷え切った翡翠の瞳と、無慈悲な一瞥を思い出す。
彼女がどれほどの痛みを抱えながら、この美しい香りを作っていたのかを、今になってようやく理解したのだ。
『私はもう、あなたに何の期待もしていません』
彼女の言葉が、耳元で響く。
彼は、一生この後悔と絶望に苛まれながら生きていくしかない。
自分が自らの手で壊した最高の宝の幻影を追い求めながら、決して手の届かない背中を、永遠に泥水の中から見上げ続けるのだ。
それが、クロエからすべてを搾取し、彼女を便利な道具として見下していた彼に与えられた、最も相応しい結末だった。
「……ごめん。クロエ……、ごめん……」
安宿の薄暗い部屋に、アーサーの掠れた懺悔の声が響き渡る。
しかし、その声に答える者は、もう誰もいなかった。
彼女がどれほど疲弊しようと、自分がどれほど傲慢に振る舞おうと、彼女は自分に依存しているのだと本気で信じ込んでいた。
しかし現実は違った。
依存していたのは、クロエではなく、彼の方だったのだ。
彼女の技術という強固な土台がなければ、彼のプロデュース力も、イザベラの発想も、ただの空虚な張りボテでしかなかった。
彼女がいなくなった途端、自分の足元がどれほど脆く、無力であったかを、彼は骨の髄まで思い知らされていた。
「クロエ……っ。ごめん、僕が悪かった……。君の愛を、当たり前だと思ってたんだ……っ!」
アーサーは、ガラス窓に額を擦り付け、ボロボロと涙をこぼした。
それは、彼が生まれて初めて流した、他者への純粋な謝罪と、取り返しのつかない喪失感から来る本物の涙だった。
しかし、その涙は、誰の心にも届かない。
店内のクロエは、ふと窓の外を見たが、アーサーの哀れな姿を視界に収めても、表情一つ変えることはなかった。
彼女はただ、ゴミを見るような無慈悲な一瞥を向けただけで、すぐに興味を失い、顧客の貴婦人との会話に戻っていった。
その一瞥が、アーサーにとっての完全な死の宣告だった。
彼女はもう、自分が泣こうが喚こうが、死にかけていようが、微塵も心を動かさないのだ。
自分が彼女のSOSを無視し、「僕の予定が狂う」と冷たく切り捨てたあの日のように。
いや、それ以上に残酷な完全な無関心によって。
「……う、あぁぁぁぁっ……!」
アーサーは、石畳に突っ伏し、獣のような慟哭を上げた。
自分がどれほど愚かで、どれほど愛おしく価値のあるものを、自らの手で粉々に壊してしまったのか。
その事実の重さが、彼を永遠の地獄へと突き落としていた。
数週間後。
王都の裏路地にある、薄暗く湿った安宿の一室。
アーサー・ヴァレンティンは、薄汚れたベッドの上に横たわっていた。
監査局による強制捜査と裁判の結果、彼は伯爵位を剥奪され、商会の全資産は詐欺の被害者や債権者への返済に充てられた。
それでも足りない莫大な借金が残り、彼は今、日雇いの肉体労働でその日暮らしをするただの平民に成り下がっていた。
光を孕んでいた金髪は伸び放題で汚れ、甘かった顔立ちは疲労と絶望で完全に老け込んでいる。
彼は、震える手で懐から小さなガラス瓶を取り出した。
それは、商会が差し押さえられる直前、彼が執務室から持ち出した、クロエが最後に作ったネロリの夜明けの残り香が入った小瓶だった。
アーサーは、その小瓶の蓋を開け、深く香りを吸い込んだ。
ネロリの清らかでほのかに苦味を帯びた、気品ある香り。
それは、クロエが徹夜で蒸留器の前に立ち、秒単位で温度を管理し、彼の事業を成功させるために血を吐くような思いで抽出してくれた、彼女の愛情と献身の結晶だった。
「……クロエ」
アーサーの目から、再び涙がこぼれ落ちた。
彼は、この香りを嗅ぐたびに、彼女の冷え切った翡翠の瞳と、無慈悲な一瞥を思い出す。
彼女がどれほどの痛みを抱えながら、この美しい香りを作っていたのかを、今になってようやく理解したのだ。
『私はもう、あなたに何の期待もしていません』
彼女の言葉が、耳元で響く。
彼は、一生この後悔と絶望に苛まれながら生きていくしかない。
自分が自らの手で壊した最高の宝の幻影を追い求めながら、決して手の届かない背中を、永遠に泥水の中から見上げ続けるのだ。
それが、クロエからすべてを搾取し、彼女を便利な道具として見下していた彼に与えられた、最も相応しい結末だった。
「……ごめん。クロエ……、ごめん……」
安宿の薄暗い部屋に、アーサーの掠れた懺悔の声が響き渡る。
しかし、その声に答える者は、もう誰もいなかった。
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