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第二話 やっぱり彼は真の勇者だった
しおりを挟む「ーーなるほどね、大体わかったわ」
私達二人(主にラルク)は事の顛末を包み隠さず全て話した。私が魔王である事。ラルクから世界を知る為の旅をしようと言われた事。私はそれを承諾した事。
そして私もこの二人について教えて貰った。オレンジボブのこの女性はユリアさん。魔道士で、ラルクとは家が隣同士の幼なじみらしい。緑髪のニコニコとした青年、彼はヨアンさん。ここへ来る旅の途中、世界の為に魔王を討つという志に惹かれ、仲間になった神官だという(ラルクにそんな素敵な志がちゃんとあったかはさておき)。
「で、何となく想像はつくけど、角に興味を示したラルクが触って遊んでた。それが私達が遭遇した状況で間違いないわね?」
「は、はい…私も…もっとちゃんと止めるべきでした…」
「いやまぁそこについては別に貴女が謝る事じゃないわ。むしろこのバカが迷惑掛けて悪かったわね。コイツ昔から魔族の角に興味があってね」
「おいユリ、余計な事言うなよ」
「………?」
昔から魔族の角に興味がある…?どういう意味なんだろう。少し気になったがラルクは〝余計なこと〟と言った。多分、今は聞くべきでは無いのだろう。余計な詮索はよそう…。
「まぁ、それは置いといて。貴女が私達と旅をする事についてだけど、私は反対だわ」
まぁそうだ。そうなんだ、いいね行こう!なんて快くひとつ返事で言う人間、滅多に居ないんだろうなとは思う。魔王城のみんなにだって何て説明しようと思ってる所なのに。
だからといって私も一度は決めた事。簡単にそうですよねやめときますね!とは引き下がれない。でも私にはユリアさんを納得させられる気もしない。どうすればいいのか…ちらっとラルクに助けを求め、目線をやってみる。バチッと目が合った。ラルクの整った目が、少し細まる。同時に口角が少し上がった。どうやら〝任せとけ〟という事らしい。
「ユリ、納得いかない理由は?」
「理由って、そもそも人間と魔族の確執は何千、何万年も前からのものよ。その魔族を総べる王なのよ?確かに、この子からそんな禍々しいオーラは感じない。けど、猫被ってるだけかもしれないじゃない」
「…あとは?」
「この子が本当に害が無くて、純粋に世界を知る為に私達と行きたいと思ってたとして、世間の目があるわ。勇者一行が魔王と旅してるなんてバレたら、私達全員まとめてお縄行きよ。リスクが大きすぎる」
彼女の言っている事はもっともだ。こんな正論に、言い返す言葉なんてあるのだろうか。心配する私をよそに、涼し気な顔でラルクが口を開く。
「まず、少し話して確信したがこいつは只の箱入り娘だ。世間を知らないお嬢様。んでもって多分根は人畜無害な奴。俺の人を見る目に狂いはねぇ、それは知ってるな?」
「…そうね」
「次に、リスクの話。もちろん角は極力隠して動く。そんでもって、俺の最終目標は人類と魔族の和解だ。万が一バレた時、こいつもお前らもまとめて必ず俺が守る。必ず世間に納得させる。だから俺を信じろ」
人類と魔族の和解。何だか今とんでもない台詞が聞こえたような。それに、結局の所信じろってそれしか言ってない。根拠なんて何処にも無いじゃないか。これじゃきっと納得なんて…。
「この半月程の短い時間ですが、間近で彼を見続けてきた私にはわかります。彼は出来ない事を出来るとは言いません。そうでしょう、ユリア」
今までずっと見ているだけだったヨアンさんが唐突に口を開く。優しい、けど何処か少し恐ろしさすら感じる瞳とゆったりとした口調で。
「有言実行。彼はやると言ったら本当に何でもやってしまう。人類と魔族の和解なんて夢物語だって、彼がやると言うから出来てしまう気がするんです。それだけの力、知恵、カリスマ性がある人ですよ、ラルクは」
「…そんなの、私が一番知ってるわ…」
少しの沈黙。難しい事は置いておいて、二人が随分とラルクを評価している事はわかった。確かに、よくわからないけれど直感的に、出会ってすぐの私も彼を信じようと思ってしまった。この人は自然と人を惹きつける才能があるのだろう。それだけの魅力が、長所が、備わっているんだ。
なるほど。これが勇者か。人々から一目置かれ、信頼され、世界を守る。この一見だるそうでドSで悪魔みたいな所もあって、無邪気な子供のような面もある彼も、ちゃんと勇者なんだ。そんな事を考えていると、沈黙を破ってユリアさんが口を開いた。
「…私の負けね。わかった、ラルクの好きなようにして。私は、ずっと隣で見てきたアンタを信じる」
「ユリアさん…」
「ありがとう、ユリ、ヨアン。これからもよろしく。んで、新しい仲間の事もよろしくな」
ラルクがポンと私の頭に手を置く。その温かさに安心感を覚えながらユリアさんとヨアンさんに目線を向ける。
『よろしく』
二人は一斉にそう私に言った。綺麗な微笑みのユリアさんと、ずっとニコニコのヨアンさん。何だか少し照れ臭くなってしまって、顔を俯かせて二人に返した。
「これから…よろしくお願いします…」
「さーてと、今日は明日からの作戦会議と休憩だな。このままここに泊まるかー」
「…え。泊まってくの?」
安心したのもつかの間、今度はまた新たな問題が。人間と世界を知る為に旅をしてくるって言うだけでも絶対みんなに反対されるのに。まさか人間を泊めるなんて。そんなこんなでオロオロしながらラルクの顔を見上げてみる。そこには人がオロオロしてる様を明らかに楽しんでいる、ニヤニヤとした顔があった。ずっと掌の上でコロコロと転がされてる感じ。すっかりこの男の玩具になっている気がして、悔しさと恥ずかしさに顔が赤面しだした次の瞬間ーー。
「ラルク、悪い癖出てる」
「いってぇ!?」
ユリアさんがラルクの耳を思いっきり抓っていた。さっきまではあんなにも頼もしくて、嗚呼やっぱりこの人は勇者なんだって思えたのに、それが今は幼なじみの女の子に耳を抓られて悶えているなんて。
まったく、これから私どうなっちゃうのかな。胸にあるのは少しの不安と、ワクワクした気持ち。何だかくすぐったい感情。今まで知らなかった感情。それらを抱えて私は、目の前の光景を只微笑みながら見つめていた。
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