未完

伊藤 卓生

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未完

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「うん、そうだな。ちょっと考えをまとめるから少し静かにしてもらえるか。」

「あ、ああ。考えがまとまったら言ってくれ。俺はちょっと一服してくるからその間だけだけどな。」
スーツの胸ポケットから煙草の箱を取って小野寺はそのまま扉を開けて出て行った。

「ふぅ、さて、考えるとするか。」
まず、今までの小野寺の話から鑑みるに、事件の第一発見者は小野寺だ。発見当時、被害者の園部 美幸はすでに息絶えた状態で、その横には意識なく倒れていた僕がいたとのことだ。園部の首からは大量の血が流れていて、凶器となるものは、僕が別れた彼女に渡すつもりだったPERKERの万年筆が転がっていた。鑑識の結果、その万年筆が凶器とみて間違いないようだ。

死亡推定時刻は昨夜の二十四時から二十六時の間。僕が事件現場となった海辺についたのが二十三時。そこから園部とは数分程会話したが、その後のことは全く覚えていない。
つまり、おおよそ五十分の空白の時間が存在する。もちろん、僕が園部を殺害していないと仮定してだ。

だが、その仮定を警察は特に気にしないだろう。なぜなら、状況証拠、凶器、死因、どれをとっても犯人につながるのはどう考えても僕だからだ。小野寺はああいっていたが、
正直、もう一度現場を捜査するなんて時間の無駄でしかないことは明確だ。ここまで、
小野寺からの話をもとに、僕が無実になりえるかを考えてみたが限界みたいだな。
 
だが、それは第一発見者である小野寺の話をもとにしたらの話だ。

 まず、こんな田舎の街で事件自体めずらしいことだ。特に殺人事件なんて尚更。そんな、事件に慣れていないこの町の管轄の警察が突然、殺人事件を担当することになったら、第一発見者の話をもとに捜査を進めるなんて至極当然のことだ。ひいては、第一発見者だという人物は現警察官の小野寺だ。ここまで僕へとつながる証拠がそろっているのに疑ってかかるほうが稀有だといえる。

 そこで、例えばの話、小野寺がほかの警察官、そして僕に虚偽の情報を話していたとしても、だれも疑うことなくその通りに捜査を進めるだろう。ここまで親身になってくれている小野寺を疑うわけじゃないが、完全に信用するのもまた愚かといえよう。

「あの、少しだけ独り言を言ってもいいですか」
無論、取調室だからここには取り調べした内容をまとめるためもう一人警察がいる。
この人がこの警察署でどれほどの権力を持っているかはわからないが、今はまず、この事件に不信感を持つ人間を一人でも多く増やすことが重要だ。

「独り言なら調書には書かないで済むな。」

「すいません。口に出すことで事件のことを思い出せるかもって思って」

「ああ、好きにしろ。」

「ありがとうございます。でも、僕が園部さんを殺害したとして、なんでその場で僕も一緒になって朝まで倒れていたんだろう。昨日は海に行ってすぐ帰るつもりだったのに。
しかも僕が犯人なら凶器は絶対に園部さんが持ってきた包丁にするべきだ。わざわざ調べればすぐにわかる所持品の万年筆なんかで殺害はしない。そしてなにより写真を見る限りでは園部さんと僕とで争った形跡がまるでない。いくら死にたかったからとはいえいきなり他人に襲われたら条件反射で身を守ると思うんだけどな。もしかして、本当の犯人は別にいて、誰かが僕に罪を擦り付けようとしているのか。」

ここまで言えばいくら事件に疎い警察官でも疑問を抱くはずだ。今の段階では疑問を抱いてくれるだけでいい。
調書を書いている警察官は「まあ、確かにな」と小さく僕の独り言に返事をした

ドアノブが回って扉が開いたら一服を終えた小野寺が帰ってきた。するとすぐに調書を書いていた警察官が立ち上がり、右手を小野寺に向けて「ちょっと」と手招きをし、二人でまた扉の向こう側へ行った。

「これは」
僕の独り言が効いたのか。ぼくは席に座ったまま二分ほど沈黙する。じっと前しか見ていなかったから急に開いたドアに少し驚いた。

「立花、待たせたな。おまえ、明日は仕事か?事情聴取ということもあり、今日のところは帰ってもいいが明日も来てもらう。名目上は任意ってことになってるがお前のためにも断らないほうがいい。明日仕事なら申し訳ないが休んでもらえないか。今日休んだ件に関してはこっちから連絡はしてある。明日も同様、警察に事情聴取で呼び出されたって言ってくれていい。今日は朝からこんな時間まで悪かったな。明日、早くて悪い八時には来てくれるか」
左手の時計を見ながら小野寺は言った。

たかが、コンビニアルバイトの仕事だ。代わりなんていくらでもいる。休むことはもちろん構わないが、そりゃ、もちろん明日もあるよな。

「ああ、わかったよ。それじゃぼくはこれで。」
取調室には時計はなかったが朝から結構な時間がは流れていることはわかる。

「今は夕方だが、もうすぐ日も落ちる。今日はよく休んでくれ」

また明日な。と小野寺は取調室の扉を背に、まるで学生の頃に戻ったように僕に手を振った。
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