未完

伊藤 卓生

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未完

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「今話したことがすべてだよ。そこからのことはよく覚えてなくて」

 「今話したことがすべてってお前、大事な部分が抜けてるだろ。俺が聞いてんのはその抜けてる部分なんだよ。元クラスメイトのお前を疑いたくはねーが、残念なことに証拠が何個も上がってきている。始める前に言ったがもちろんお前には黙秘権がある。だが、自分の口から言ったほうがお前自身も、被害者遺族も少しは報われると思うぜ。」

本当にそれからのことは覚えていなくて、気が付いたら僕は赤く染まった地面で、件の彼女と二人で横に倒れていた。そこをたまたま早朝、犬の散歩で通りがかった小野寺が気づき、なにが起きたのかもわからないまま、今ここで事情聴取をされているというわけだ。
正直、動揺を隠せない。まさかぼくが、
「被害者遺族って、か、彼女は亡くなったのか。僕が聞けたことじゃないかもしれないが、その、それだけでも教えてくれないか。」

「亡くなったよ。俺がお前らを見つけた時にはもうすでに脈は止まり息をしてなかった。もう一度聞くがな、立花。被害者の女性、園部 美幸(そのべ みゆき)とは昨日初めて会ったんだな。」
彼女の名前は園部というのか。なんだかんだ言って僕たちはお互い自己紹介もしてなかったな。

「ああ、そうだ。昨日、たまたま海に行って、そこで彼女に会ったんだ。いま小野寺に聞くまで彼女の名前さえ知らなかったよ」
状況からみて僕が彼女を手にかけたと思うのが普通だろう。僕自身も確実に反論できるという確証も持てないいま、これは元クラスメイトの手によって手錠をかけられることになりそうだな。

「はぁ~、お前な、こんな時になに余裕な顔で考え事なんてしてんだよ。まずおれは、お前の口からやったのかやってないのかすらも聞いてないんだ。確かに発見当時の状況、死因、凶器どれをとってもお前のことを知らないやつがみたらお前がやったっていうだろうな。だけどな、おれはお前のことを知らない奴なんかじゃない。どんな理由があれ、お前が人を殺すなんて信じられないんだよ。ましてやその時初めて会った赤の他人をだ。」

高校の時は特別親しいでもなく、クラスが同じでお互い名前は知っていたが、昼休みの弁当だってお互い別々の友人と食べていたくらいのなじみのない仲だったのに、この状況で僕のことを擁護しようとしてくれている。俺が思っていたよりずっと優しい奴だったんだな。

「ん?ちょっと待てよ小野寺。発見当時の状況はともかく、死因と凶器ってのはなんだったんだ。自分でもよくわからないまま逮捕されても、反省も何もない。お前が発見してからの事件のこと詳しく教えてくれないか。僕には知る権利があると思うんだが」

「確かにそうだな、説明させてくれ。それで何かお前が思い出すかもしれないしな。
まず、死因と凶器についてだが、死因は鋭利な突起物で首元にある頸動脈を刺されて出血多量による死亡だ。そして凶器の鋭利な突起物ってのがお前もよく知っているこの万年筆だ。」
小野寺はそういうと、僕と彼女が倒れていた場所の現場写真、四枚を僕の前に出した。
写真はいずれも背景には血まみれなアスファルトが写っていて、彼女の体をかたどったと思われる白いテープが地面に貼られていた。その横には小野寺の言う通り僕の良く知るPERKERの万年筆が、彼女から流れた血液で赤く染まっていた。
「これは、確かにぼくが別れた彼女に渡そうと思ってジャンパーのポケットに入れていた万年筆だ。」

「ああ、立花、ついでに言っとくと、遺体の死亡推定時刻は昨夜の二十四時から日をまたいで二十六時の間だ。お前はさっき、現場の海についたのは二十三時だと言っていたが彼女が亡くなったのはその一時間後からということになる。彼女と話していたのも、話を聞く限りではものの数分のことだ。お前の話を聞く限りではつじつまが合わないんだよ。本当に覚えているのはそれだけか。話していないことはないのか。このままだと状況証拠と凶器でお前は起訴されることになる。せめて、やっていないならしっかりお前の口からそう言ってくれ。そしたらもう一度現場を捜査させてもらえるよう上司にかけあえるんだよ。どうなんだ立花。」

「そうだな、この状況では僕がやっていないといっても信じる者は一人もいないだろう。
そこで一つ小野寺、相談があるんだ。聞いてくれるか。」

「相談?俺としても元クラスメイトがこんな形で捕まるのは本望じゃない。聞けることなら聞いてやりたいが、相談ってのはいったいなんだ。」

「ああ、ありがとう。早速だが、もう少し事件の詳しい話を聞かせてくれないか。もちろん言えないこともあるだろうが、ぼくも捕まりたくはないんだ。」

「お前の言う通り、俺にも守秘義務ってのがあってな。正直話してやりたいのはやまやまだが、さっき言ったこと以外はもう話せない。犯人と警察しか知らないようなものもあるしな。それを俺が教えちまったら今度は俺が手錠かけられるよ。」
冗談交じりにハハっと笑っている小野寺の顔は高校のころと変わってなくて、本当はあれから十年も経っているなんてそれこそ冗談なんじゃないかと思えてくる。

「そう、だよな。これ以上お前に迷惑かけるのはよくないな。じゃあ、とりあえず、今まで話してくれた内容だけで仮説だけでも立てておくか。」
考えようとして一瞬、小野寺の顔を見たとき、彼は目の前にあるテーブルを強くたたきつけ、思いがけない大きな音に僕は声も出なかった。
「おい、仮説ってなんだよ。お前本当に今の状況わかってんのか。このままだとお前、起訴されて裁判になって何十年って刑務所に入れられるんだぞ。冷静に仮説なんて立ててる場合かよ。お前は昔からそうだ。一人だけすべてを客観視して、最後には何でも知ってるかのように得意気にぺらぺらと話し始める。あの時もそうやって。いい加減にしろよ。」
突然怒り出した小野寺に割り込むすきもないで、ぼくはただただ、彼の眼をじっと見ることしかできなかった。
小野寺は右手で後頭部を掻きながら深くため息をついた。
「わるい、いきなり怒鳴ったりして、昔の話をするのもらしくないな、忘れてくれ。」

「お前、その頭掻く癖、昔から変わってないな。イライラすると昔もよくしてたのを覚えてる。」
小野寺は高校のころいわゆる優等生とは真逆の奴で、今でいうスクールカースト上位の奴だった。授業中はよく先生にうるさいって注意されていたぐらいだ。そんな奴が今じゃ警察官なんて世の中何があるかわからないもんだな。

「昔話はもういいっての。それより、お前のさっき言ってたこれまでの話で立てる仮説ってのを聞かせろよ。」
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