性剣セクシーソード side story

cure456

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彼女の森

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 客間の中では、既に沢山の魔族が集まっていた。
 扉が開き、アミルの姿を確認した魔族達が一斉に頭を下げる。
 そんな中、アミルに向かって歩く魔族がいた。
 彼はアミルの目の前で片膝をつき、恭しく手を差し出す。

「お久しぶりです。貴女は、逢う度にその美しさを増していきますね」
 頬に刺青の様な魔痕が刻まれた、美しい青年。
 その頭部には、魔王オルガニックと同じ、二本の角が生えている。
 アミルはそんな彼の手を取って、優しく微笑んだ。
「貴方こそ、いつにも増して凛々しく御座います。ザフズ様」
 アミルの言葉に満足気なザフズが、手の甲に軽く口付けた。

 淫魔と呼ばれる魔族がいる。
 男の精を糧にして生きる淫魔は、基本的に女性――サキュバスと呼ばれた。
 だが極稀に、男が生まれる事がある。
 それが淫魔の王――インキュバス。
 現魔王オルガニックもその一人だ。
 そしてアミルの婚約者、ザフズもまた。


「久しぶりの再会に、ささやかな贈り物を用意しました」
「まぁ何かしら」
 ザフズは会う度に、いつも何かを持ってくる。
 それは希少な宝石で作られた装飾品であったり、高価な衣装だったりするのだが、そのどれにも、アミルには興味がなかった。
 それでも、興味をそそられた素振りを見せるのは忘れない。

「本日は少し趣向を変えて――あちらに」
 ザフズが手を指し示す方に顔を向けたアミルは、驚きの声を上げた。
「ユーリア!」
 そこに居たのは、アミルに引けを取らない美しさを持つ女性。
 名を呼ばれたその女性、ユーリアが、満面の笑みをたたえながら、小走りで近づき、心のままにアミルを抱きしめた。
「アミル。お久しぶり」
「ええ。ユーリア。とても会いたかった」
 ユーリアの背中に手を回し、アミルが答える。
 彼女はアミルにとって、唯一の友と呼べる、特別な存在だった。

「これはこれは、見ていると嫉妬の炎に包まれそうですね」
 二人の抱擁に、ザフズがクスリと微笑んだ。
「あら、ごめんなさい。でも、少しくらいよろしいじゃありませんか? 今はまだ、貴方に愛しいアミルを独り占めさせるわけにはいきませんわ」
 パチリと片目をつぶったユーリアの言葉に降参したとばかりに、ザフズは額に手を置いて首を振った。
「出すぎた真似だと思いましたが、二人はしばらくお会いになっていないと聞きましてね。私からの贈り物、喜んでいただけましたでしょうか?」
「ええ。とっても嬉しいです。本当に、ありがとうございます」
「礼など不要です。貴女のその表情を見られた事が、私には無常の喜び。どんな贈り物をしても、貴女の心を動かす事はできませんでしたから」
 驚いた振りも、喜んだ振りも、彼には見透かされていたと気づいたアミルは、恥ずかしさで頬を染めた。

「そうだ。ねぇアミル。私ね、婚姻が決まったのよ」
「えっ? 本当ですか? お相手は?」
 突然の報告に、アミルが目を丸くする。
「ええ。竜族の方と」
 照れたようにはにかむユーリアは、アミルが今までに見た彼女のどの表情とも違った。
 内面から湧き上がる何かが、彼女の身体を包んでいるような。

「そ、その方とは、昔からのお知り合いで?」
「ええ。ずっと想い続けていました。両親を説得するのには骨が折れましたけどね。でも、これで、やっと――」
 想いを寄せた相手との婚姻。
 それは、きっと何物にも代え難い喜び。
 なぜなら、こんなにも素敵な笑みを浮かべられるのだから。
 これが――幸せなんだ。


 そんな時、客間の扉が開いた。
 周囲の者が一斉に、床に手を着いた様を見れば、誰が来たのかは一目瞭然。
「面を上げよ」
 オルガニックの言葉で皆が姿勢を正すが、先程までの喧騒はもうない。
 再び談笑が沸き起こるものの、どこか遠慮がちに、緊張感を漂わせながら。

「あの――魔王様」
 そんな中、オルガニックに声をかけたのはユーリアだった。
「お前は――おお、久しいな。幼子だと思っていたが、もう随分女の匂いを撒き散らしておる。時が経つのは早いものだな」
「御覚えいただき、光栄でございます。私、この度婚姻を結ぶ事となりました。つきましては、アミル様をご招待する無礼をお許しいただけませんでしょうか」
「ほう。婚儀とな」
 呟いたオルガニックの視線から、アミルは目をそらした。
「はい。そして、分を超えた望みではありますが、魔王様にもご出席願えれば、と思っています」
 ユーリアの言葉に、周囲の緊張が一層濃くなった。
 一介の小娘が魔王を自分の婚儀に呼びつけるなど、愚行以外の何物でもない。
 ユーリア本人も、胸に当てた手が微かに震えていた。

「いつだ?」
「次の、『赤』が輝く日にございます」
「そうか――」
 僅かな沈黙の後、オルガニックの放った一言に、アミルは耳を疑った。
「ならば、同じ日にアミルの儀も執り行うとするか。どうだ? ザフズよ」
「なっ、お父様!?」
「私は構いませんが、姫様のお気持ちもあるでしょう。私は姫様のお気持ちが固まるまで、いつまでも待たせていただきます」
「ならん」
 アミルの意を汲んだようなザフズの言葉も、オルガニックの考えを変えるには至らなかった。
「お父様、私は――」
「いつまでも我儘を言わせておくわけにもいかぬ。これもいい機会だ。二組が合同で行う婚礼の儀は、ガジガラの歴史に残る盛大なモノになるであろう」
 周囲からは歓声が上がり、ユーリアの顔は花開いたように明るくなった。
 しかし、その音も光景も、アミルには何も届かなかった。
 感じるのは――鎖の感触。
 全身に巻かれた、見えない鎖の重さだけだった。
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