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日常の外
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時が経つにつれ、あの夜の出来事は私の中で薄れていった。
彼を気にかける時間も減り、平凡な日常が積み重なっていく。
「の~ぞみん。明日どうする?」
HRが終わり騒がしくなった教室で、ひかりが唐突に切り出した。
「え? 明日?」
「あ、忘れてる~。明日。土曜日。三人で遊ぼうっていったじゃん」
記憶を辿るが覚えは無い。
「初耳だっつーの。誰と遊ぶつもりだったんだよ」
後ろから現れた静織が、持っていた鞄をひかりの頭にポンと落とした。この様子じゃ、多分約束はしてないんだろう。
「あれ? 言ったつもりだったんだけどなぁ。まぁ気にしない! で、どうする?」
どうやらひかりの中では既に決定事項らしい。呆れ顔の静織と目が合って、苦笑する。
「私は別にいいよ。おまかせで」
「アタシも別に、何でも」
「じゃあ当日その場のノリで! とりあえず明日十時駅前に集合! ではでは、私は部活があるからまた明日ね~!」
ひかりは話を切り上げると、小走りで教室を去っていく。そのせわしなさは小さい身長も相まって、小動物を連想させた。
「小学生のままだな、くりは」
静織が大きなため息をついた。自由奔放なひかりと面倒見の良い静織のコンビは、中々バランスが取れていると思う。そんな二人の関係が、少し羨ましくもある。
「さて、じゃあ帰るか」
「うん」
荷物をまとめ教室を出ようとした瞬間、慌しい足音を響かせた男子が飛び込んできた。あまり親しくはないクラスメイト。彼は私を見つけるなり、乱れた息を整えながら口を開いた。
「佐津間。なんかヤベー奴がお前の事呼んでんぞ」
ヤベー奴?
顔を合わせた静織がきょとんとしている。多分私もこんな顔をしているんだろう。
「校門のとこ。見てみろよ」
指差された窓に近づいて下を見る。そこには、通行人にあからさまな敵意を振りまいている輩がいた。
「あれ――一輝じゃないか?」
「うん……」
此処からでも分かる頬に貼り付けられた白いガーゼ。何となく嫌な予感がした。嫌な予感しかしなかった。そして、そんな予感は的中するのだ。
「お、佐津間。わ、わりーな突然来ちゃったりしてよ。俺、お前の番号知らないし、勝手に誰かから聞くのもアレかなって思ってよ」
開口一番、弁明するようなその言葉に、彼らしさを感じて少し可笑しかった。人を気遣うその性格は、見た目が変わっても変わっていない。
「ううん。別にいいよ。それで、どうしたの?」
「ああ……えっと――」
一輝君が静織にバツの悪そうな視線を向ける。その視線を受け取った静織が、意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「久しぶりだってのにロクに挨拶もなしか? ヤンキー小僧」
「うるせー。てめーに用はねーんだよデカ女。またでかくなったんじゃねーか? 一キロ先からでも見えそうだぜ」
「そういうアンタはいくら小さくて存在感ないからって、髪の毛染めたり怪我アピールしても、大きくは見えないんだよ?」
決して小さくはない一輝君をチビと言えるのは、静織が彼よりも大きいからだ。
どうもこの二人、昔からあまり仲良くはない。理由は不明。
「佐津間、もしかしてこいつも知ってるのか? あの日の事」
「え? ううん。誰にも言ってないよ」
私の言葉を聞いて、彼は頭をかかえた。ああ、墓穴を掘るとはこのことか、と。
「なんだか面白そうな話だね。ここじゃ目立っていけないから、『ゆっくり』出来る場所に行こうか」
ニコリと微笑んだ静織に、彼は何も言い返すことはなかった。
彼を気にかける時間も減り、平凡な日常が積み重なっていく。
「の~ぞみん。明日どうする?」
HRが終わり騒がしくなった教室で、ひかりが唐突に切り出した。
「え? 明日?」
「あ、忘れてる~。明日。土曜日。三人で遊ぼうっていったじゃん」
記憶を辿るが覚えは無い。
「初耳だっつーの。誰と遊ぶつもりだったんだよ」
後ろから現れた静織が、持っていた鞄をひかりの頭にポンと落とした。この様子じゃ、多分約束はしてないんだろう。
「あれ? 言ったつもりだったんだけどなぁ。まぁ気にしない! で、どうする?」
どうやらひかりの中では既に決定事項らしい。呆れ顔の静織と目が合って、苦笑する。
「私は別にいいよ。おまかせで」
「アタシも別に、何でも」
「じゃあ当日その場のノリで! とりあえず明日十時駅前に集合! ではでは、私は部活があるからまた明日ね~!」
ひかりは話を切り上げると、小走りで教室を去っていく。そのせわしなさは小さい身長も相まって、小動物を連想させた。
「小学生のままだな、くりは」
静織が大きなため息をついた。自由奔放なひかりと面倒見の良い静織のコンビは、中々バランスが取れていると思う。そんな二人の関係が、少し羨ましくもある。
「さて、じゃあ帰るか」
「うん」
荷物をまとめ教室を出ようとした瞬間、慌しい足音を響かせた男子が飛び込んできた。あまり親しくはないクラスメイト。彼は私を見つけるなり、乱れた息を整えながら口を開いた。
「佐津間。なんかヤベー奴がお前の事呼んでんぞ」
ヤベー奴?
顔を合わせた静織がきょとんとしている。多分私もこんな顔をしているんだろう。
「校門のとこ。見てみろよ」
指差された窓に近づいて下を見る。そこには、通行人にあからさまな敵意を振りまいている輩がいた。
「あれ――一輝じゃないか?」
「うん……」
此処からでも分かる頬に貼り付けられた白いガーゼ。何となく嫌な予感がした。嫌な予感しかしなかった。そして、そんな予感は的中するのだ。
「お、佐津間。わ、わりーな突然来ちゃったりしてよ。俺、お前の番号知らないし、勝手に誰かから聞くのもアレかなって思ってよ」
開口一番、弁明するようなその言葉に、彼らしさを感じて少し可笑しかった。人を気遣うその性格は、見た目が変わっても変わっていない。
「ううん。別にいいよ。それで、どうしたの?」
「ああ……えっと――」
一輝君が静織にバツの悪そうな視線を向ける。その視線を受け取った静織が、意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「久しぶりだってのにロクに挨拶もなしか? ヤンキー小僧」
「うるせー。てめーに用はねーんだよデカ女。またでかくなったんじゃねーか? 一キロ先からでも見えそうだぜ」
「そういうアンタはいくら小さくて存在感ないからって、髪の毛染めたり怪我アピールしても、大きくは見えないんだよ?」
決して小さくはない一輝君をチビと言えるのは、静織が彼よりも大きいからだ。
どうもこの二人、昔からあまり仲良くはない。理由は不明。
「佐津間、もしかしてこいつも知ってるのか? あの日の事」
「え? ううん。誰にも言ってないよ」
私の言葉を聞いて、彼は頭をかかえた。ああ、墓穴を掘るとはこのことか、と。
「なんだか面白そうな話だね。ここじゃ目立っていけないから、『ゆっくり』出来る場所に行こうか」
ニコリと微笑んだ静織に、彼は何も言い返すことはなかった。
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