性剣セクシーソード

cure456

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盗賊カムバック

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――シキラバの森――

 しばらく歩くと、先程までとは明らかに違う、背の高い木が鬱蒼と生い茂る森の中に入った。
「すごい大きな木ですね」
「これがシキラバの木ですよ」
 天まで届くように伸びたシキラバの木。
 それは日光を遮り、朝だと言うのに辺りは薄暗く、湿った空気が漂っている。

「シキラバの森には妖精が住むと言われているんですよ」
「へー。そうなんですか。確かに、何かいそうな雰囲気ではありますね」
 所々に差し込む木漏れ日が、朝露をキラキラと輝かせ、神秘的な雰囲気をかもし出す。
 本当に妖精が居てもおかしくない感じだ。

 しばらく進むと、目の前に一際大きなシキラバの木が現れた。
 他の木の三倍、いや五倍程の太さはあるだろうか。くりぬいて部屋でも作れそうな大きさだ。
「これはすごい。まるで神木だよ」
「ケンセイさんの世界にも神木はあるんですか?」
「うんうん。って事はワーワルツにもあるの?」
「ええ、『神島』という場所にあります。その神木はとても大きく、周囲を周るのに一時間もかかるとか」
「一時間もですか!?」
「そんなのあるわけないじゃない。誰かがちょっと大げさに言っただけでしょ」
「まぁ、そうでしょうね。機会があれば、そのうち確かめに行きましょうか」
 一周するのに一時間か。
 荒唐無稽な話だけど、とんでもなく大きいのは間違いなさそうだ。
 

「……そのまま周囲を気にせずに進んで、尾行されてる」
 突然、険しい顔で放ったニーヤの一言に、背筋に緊張が走る。
 つけられてる? 一体誰に?
「何人いますか?」
「三人ってとこかしら。今のところ襲ってくる気配はないけど、すぐ動けるようにしといた方いいわ」
 ニーヤが腰の短剣に手を掛ける。静かな森の中とは裏腹に、僕の心臓は激しく鳴り響く。
 いつ教われるか分からない不安。彼女達と一緒じゃなければ走り出してしまうだろう。
 後ろを振り向きたい衝動を抑えつつ、僕達はそのまま歩き続けた。

「気配が消えたわね」
 どれだけ歩いただろう。気を張りながら歩く時間はとても長く感じた。
 ニーヤの一言に、ホッと胸を撫で下ろす。
「一体何だったんでしょうね」
「さぁね。もしかしたら昨日の盗賊の残党かな。あれだけやられてもう一度来るならたいしたものよね」
――どうか盗賊さん、命が大事なら逃げてください。
 ニーヤの危ない笑みを見て、僕は盗賊の身を案じた。
 
――ルカラ村――

 森を抜けると、建物が密集した集落に出た。小さな農村、と言った感じだろうか。所々に大きな畑があり、色とりどりの野菜が実っている。
「何かしけた村ね。宿なんてありそうもないけど」
「そんな事言っては失礼ですよ。とりあえず行ってみましょう」
 村に入り、近くで畑仕事をしている中年の男性を見かけた。
 第一村人発見。気分はそんな感じ。

「あれ、こんな村に人が来るのは珍しいねぇ。旅の人かい?」
「ええ、ウイリアに行く途中なんですけど、地図を見たらこの村がありましたので。お宿でもあればと思いましてね」
「見ての通り、小さな村だからねぇ。旅人をもてなすような場所は無いんだよ。村長さんの家なら泊めて貰えるかもしれん。あの一番大きな家だから、行ってみるとよかよ」
 男性が指差す先に、一際大きな建物が見える。僕達はそこに向かった。

「旅の方ですか。わざわざこんな場所まで良くおいでなすった。何もありませんが、家で良ければ休んでいって下さい」
 家を訪ねると、村長らしい初老の男性が出てきた。
 案外――すんなりと泊めてくれるものだな。
 ワーワルツの人の優しさには度々驚かされる。
 僕の世界じゃ、知らない人を泊めるなんて考えられない事だから。

「それにしても、今日は珍しい人ばかり来ますな」
 家の中に上がり、お茶を頂いていると村長さんが言った。
「私達の他にも誰かいらっしゃったんですか?」
「ええ。私の恥ずかしい馬鹿息子なんですが、どっかに行ったきり半年も姿を見せないと思ったら、今朝突然帰って来たんですよ」
「まぁ、それは良かったですね。ご心配だったでしょうに」
「出来の悪いせがれでも、やはり一人息子ですからね。そうだ、ご紹介しましょう。おーい、クレド。客人に挨拶せんか」
 村長さんが呼びかけると、部屋の扉が開いて男が出てきた。
 その顔を見て、僕達は驚いた。

「アンタ! 昨日の盗賊ね!」
 ニーヤが短剣を構える。目の前に現れた男は、昨日逃がした盗賊の一人。
「ひぃ!? すいません! すいません!」
 男は僕達の姿を見て、地面に頭をこすり付ける。
「ど、どういう事ですか!? 旅の方!?」
 状況が飲み込めない様子の村長さんに、昨日の話を説明する。

 話を聞いた村長さんの、怒りの右ストレートが炸裂――その鉄拳は息子を軽々と吹き飛ばす。
 年配だろうが、結構良い身体をしている。農作業とかで自然と筋肉がつくんだろう。
 見てるだけで、かなり痛そうだった。
「この馬鹿もん! お前は何て事をしたんだ! 盗賊なんぞ、人間の腐った真似をしおって!」
 村長さんは息子を怒鳴りつけると、僕達に向かって深く頭を下げた。
「旅の方。せがれの不始末はお詫びのしようもありません。どうかこの馬鹿者を煮るなり焼くなり、お好きなようになさって下さい」
「そ、そんな。頭を上げてくださいよ村長さん、僕達が被害にあったわけでもないですし。それに、何か理由があったんじゃないかと思うんですよね」
「理由、ですか?」

 僕がそう思うには訳があった。
 五人の内、彼は一人だけ僕達に敵意を向けていなかった。
 剣を握り締めてはいたものの、どこか怯えている様な感じ。
 彼の目で分かったんだ。いじめられている奴共通の、挙動不審な目をしてたから。  
「ええ。だから話を聞いてあげましょう」
 その場を一旦落ち着かせると、涙ながらに彼が口を開いた。
「最初は優しい人だったんです――」

――彼の話を要約するとこうだ。
 都会に憧れた男が、村を出て上京。そこで出会った男に親切にしてもらい、断り切れない程の恩を着せられて、気がついたら無理矢理盗賊に。
 逃げたりしたら、お前の村を襲うぞ。と。
 なんとまぁ。世界は違えど、悪人の手口は変わらないらしい。

「か~っ。何と情けない。頭が痛くなるようだ」
 話を聞いた村長さんが頭を抱える。
「まぁ、そういう事ならしょうがないんじゃないかな……?」
「仕方ないじゃすまないんですよ旅の方。どんな理由があろうと、人様の物を盗む輩はこの村にはいません。いくらせがれでも、これを許すわけにはいきません」
 他人の家の事情に口を挟むのは良くない。
 それは分かっているけど、彼の気持ちも分からなくはなかった。

 部屋の中に重い空気が流れた頃。外が何やら騒がしくなった。
「ん。どうしたんだ? ちょっとすいませんね」
 村長さんが様子を見に行くと、血相を変えて戻ってきた。
「盗賊達だ! 村を襲いに来おった!」
「何だって!?」
 彼が逃げた事への仕返しのつもりか。どこまでも腐った奴らだ。
「こうなったら金を渡して帰ってもらうしかない。旅の方、どうか裏へお逃げ下され」
「お、俺が行く!」
 振り返ると、そこには剣を握り締めた息子の姿。
「馬鹿者! お前が行ってどうにもなるか!」
「元はと言えば俺のせいだ! 俺が馬鹿な事したから、村が襲われたんだ! 村は俺が守る!」
 そう言うと、クレドは飛び出すように外へ。
「あの馬鹿者。どこまで馬鹿なんじゃ」
 村長さんが頭を抱えた。

「心がけだけは立派じゃない。ちょっと見学に行こうか」
「そうですね」
 そう言ってニーヤが、モミさんが立ち上がる。
 見学、と言っているが、両手に握られた短剣は殺る気マンマンだ。
「あ、危ないですぞ! 相手は盗賊、無茶をなされては……」
「僕達じゃなく、盗賊達を心配した方がいいかもしれませんね」
 呆気にとられる村長さんを残し、僕達も外へ出た。
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