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二章
禁足地に住まう伝説の種族
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「禁足地――栗花の森ね……」
「き、禁足地って何……?」
「決して足を踏み入れてはならない場所の事よ。毒の風が吹く谷とか、宗教の聖地だったり、理由は色々あるんだけどね。
栗花の森はこうも呼ばれるわ。人の支配の及ばぬ地――もう一つのガジガラってね」
人の支配の及ばぬ地、ガジガラ。
それは、この世界で魔界と呼ばれる場所だ。
「じゃあ、魔物がいるって事?」
「だと思います。遠い昔、三国の同盟軍が森に向かったけど、誰一人戻って来なかったという話もあるくらいです。普通の魔物ではないでしょう」
三国の同盟軍が全滅……想像を絶する。
そんな場所に僕達がいけるはずもない。
でも、僕達だけじゃなかったら。
「アミルに頼んでみよう。魔界なら、彼女の庭みたいなもんじゃないかな?」
「へー。アンタにしては珍しくマトモな意見じゃない。確かに、魔王なら何とかなるわよね」
人の支配が及ばない場所なら、人じゃなければいい。
魔界なら、魔界の王が居ればいい。
幸いにも、僕達は彼女を知っている。
「違います」
それまで黙っていたナギさんが口を開いた。
「違うって、何が?」
「栗花の森は、もう一つの魔界なんかじゃないんです。禁足地――それは間違っていません。でも、それは人間だけじゃないんです。私達魔族にとっても同じ。あそこは人の支配が及ばぬ地ではなく、人も魔族も――誰の支配も及ばぬ地なんです」
「それは――知りませんでしたね。まぁ当然と言えば当然ですが……」
いくら博識なモミさんでも、魔族の事までは分からないだろう。
「ちょっと待って、だったら栗花の森には何が居るってのよ?」
「あそこにいるのは――神の一族」
ナギさんの言葉に、僕達はペロ様を見た。
「エルフ」
彼女は呟くように言った。
「伝説の秘薬の次は、伝説の種族……? 冗談でしょ? エルフなんて本当にいるわけ?」
「多分――としか言えませんね。さっきも言ったとおり、あそこは私達魔族にとっても禁足地ですから」
「ペロ様……エルフは存在するんですか?」
モミさんの言葉に、ペロ様が頷く。
何故彼女が知っているのか、それは単純な話。
見た目は幼女だが、彼女はれっきとした神の末裔。
ペロディア神の子孫なのだ。
人も魔族も知らなくても、神は知っている。
伝説とされているエルフは、確かに存在するのだ。
でも、僕には分からなかった。
どうして彼女達がそんな深刻そうな顔をしているのか。
「エルフって――そんなに厄介な種族なの?」
僕のイメージするエルフと言えば、森で迷った旅人をひっそりと助けるような、心優しい森の妖精――そんなイメージだ。
耳がとがっていて、武器はやっぱり弓だろう。
「古い神話に登場するエルフは、無慈悲で残虐な描写が多いですね。神々の神殿に足を踏み入れた人間達の首を刈り取って並べたとか、そんなお話ばかりです」
なにそれこわい。全然イメージ違うんですけど。
「正直――エルフはちょっと苦手。子供の頃に読んだ絵本でさ、アタシちょっとトラウマなんだよね……。本当に居るって知りたくなかったくらいよ……」
こんな弱気なニーヤは見た事が無い。
苦手なモノや怖いモノなんて無いと思っていた。
いくら幼少時代とはいえ、そんなニーヤにトラウマを植えつけた本がめちゃくちゃ気になる。
「あの……本当に、大丈夫ですから。この話は忘れましょう」
ナギさんが言った。
確かに、今回はあまりにも危険な気がする。
魔族ですらも敬遠する神の一族。僕達人間がどうこうできる相手ではない。
神と交渉など――出来るはずもない。
なら、諦めるのか?
ナギさんの苦しみから目を逸らして。
世界にはびこる不条理を受け入れて。
謂《いわ》れ無き罪と罰を認めるのか?
答えは――否だ。
「僕は――行きたい。世界を創ったのが神で、そのエルフが神の一族なら、その世界にはびこる不条理の責任を取ってもらおう。少しくらい人を助けたって、罰は当たらない。僕達にだって、それくらい願う権利はあるんじゃないかな」
「アンタ――神に喧嘩売る気なの?」
「そんなつもりはないよ。お願いに行くだけ。神頼みってやつさ」
「ほんっと……退屈しないわね」
ニーヤが微笑む。
「ついて来てくれる?」
「アンタ一人で行かせたら、辿り着くまでに死んじゃうわ」
「では、早速行程を練りましょうか」
そう言って、モミさんが地図を広げる。
彼女達といる幸運を、僕は心から噛み締めた。
「き、禁足地って何……?」
「決して足を踏み入れてはならない場所の事よ。毒の風が吹く谷とか、宗教の聖地だったり、理由は色々あるんだけどね。
栗花の森はこうも呼ばれるわ。人の支配の及ばぬ地――もう一つのガジガラってね」
人の支配の及ばぬ地、ガジガラ。
それは、この世界で魔界と呼ばれる場所だ。
「じゃあ、魔物がいるって事?」
「だと思います。遠い昔、三国の同盟軍が森に向かったけど、誰一人戻って来なかったという話もあるくらいです。普通の魔物ではないでしょう」
三国の同盟軍が全滅……想像を絶する。
そんな場所に僕達がいけるはずもない。
でも、僕達だけじゃなかったら。
「アミルに頼んでみよう。魔界なら、彼女の庭みたいなもんじゃないかな?」
「へー。アンタにしては珍しくマトモな意見じゃない。確かに、魔王なら何とかなるわよね」
人の支配が及ばない場所なら、人じゃなければいい。
魔界なら、魔界の王が居ればいい。
幸いにも、僕達は彼女を知っている。
「違います」
それまで黙っていたナギさんが口を開いた。
「違うって、何が?」
「栗花の森は、もう一つの魔界なんかじゃないんです。禁足地――それは間違っていません。でも、それは人間だけじゃないんです。私達魔族にとっても同じ。あそこは人の支配が及ばぬ地ではなく、人も魔族も――誰の支配も及ばぬ地なんです」
「それは――知りませんでしたね。まぁ当然と言えば当然ですが……」
いくら博識なモミさんでも、魔族の事までは分からないだろう。
「ちょっと待って、だったら栗花の森には何が居るってのよ?」
「あそこにいるのは――神の一族」
ナギさんの言葉に、僕達はペロ様を見た。
「エルフ」
彼女は呟くように言った。
「伝説の秘薬の次は、伝説の種族……? 冗談でしょ? エルフなんて本当にいるわけ?」
「多分――としか言えませんね。さっきも言ったとおり、あそこは私達魔族にとっても禁足地ですから」
「ペロ様……エルフは存在するんですか?」
モミさんの言葉に、ペロ様が頷く。
何故彼女が知っているのか、それは単純な話。
見た目は幼女だが、彼女はれっきとした神の末裔。
ペロディア神の子孫なのだ。
人も魔族も知らなくても、神は知っている。
伝説とされているエルフは、確かに存在するのだ。
でも、僕には分からなかった。
どうして彼女達がそんな深刻そうな顔をしているのか。
「エルフって――そんなに厄介な種族なの?」
僕のイメージするエルフと言えば、森で迷った旅人をひっそりと助けるような、心優しい森の妖精――そんなイメージだ。
耳がとがっていて、武器はやっぱり弓だろう。
「古い神話に登場するエルフは、無慈悲で残虐な描写が多いですね。神々の神殿に足を踏み入れた人間達の首を刈り取って並べたとか、そんなお話ばかりです」
なにそれこわい。全然イメージ違うんですけど。
「正直――エルフはちょっと苦手。子供の頃に読んだ絵本でさ、アタシちょっとトラウマなんだよね……。本当に居るって知りたくなかったくらいよ……」
こんな弱気なニーヤは見た事が無い。
苦手なモノや怖いモノなんて無いと思っていた。
いくら幼少時代とはいえ、そんなニーヤにトラウマを植えつけた本がめちゃくちゃ気になる。
「あの……本当に、大丈夫ですから。この話は忘れましょう」
ナギさんが言った。
確かに、今回はあまりにも危険な気がする。
魔族ですらも敬遠する神の一族。僕達人間がどうこうできる相手ではない。
神と交渉など――出来るはずもない。
なら、諦めるのか?
ナギさんの苦しみから目を逸らして。
世界にはびこる不条理を受け入れて。
謂《いわ》れ無き罪と罰を認めるのか?
答えは――否だ。
「僕は――行きたい。世界を創ったのが神で、そのエルフが神の一族なら、その世界にはびこる不条理の責任を取ってもらおう。少しくらい人を助けたって、罰は当たらない。僕達にだって、それくらい願う権利はあるんじゃないかな」
「アンタ――神に喧嘩売る気なの?」
「そんなつもりはないよ。お願いに行くだけ。神頼みってやつさ」
「ほんっと……退屈しないわね」
ニーヤが微笑む。
「ついて来てくれる?」
「アンタ一人で行かせたら、辿り着くまでに死んじゃうわ」
「では、早速行程を練りましょうか」
そう言って、モミさんが地図を広げる。
彼女達といる幸運を、僕は心から噛み締めた。
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