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二章
力の代償
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村に戻るまで何度か試したが、一向に展開する気配はなかった。
村についた僕達を、全裸の僕を気にする人はいない。
皆は目の前に現れた異形のモノを見つめていた。皆はその侵入者と距離をとりながらも、手には鍬や鎌斧などが握られている。
「あ、アレって……?」
その場に蹲るようにしていたのは、人の姿をしているが人ではない。
人にあるはずのない角と翼。そしてくすんだ肌の色。
「ナギさん……じゃありませんか……?」
魔族――サキュバス。
だが様子がおかしい。
痛々しい程に破れた翼。その身体からは、真っ赤な血で染まっている。
「違う……。あれは――ナギさんじゃない」
その時、村人の一人が彼女に近づいた。
恐る恐る。だが、斧を持ったその手は、怒りに震えている。
「お前らのせいで……っ! この村は!」
振り上げた斧が彼女を狙う。
僕の身体は――駆け出していた。
「ぐあああああああああっ!」
背中を襲った激痛に叫び声をあげる。
筋肉の繊維が切断され、骨を打つ、焼けるような痛み。
鎧に守られていない生身の身体は――儚くも脆い。
「あ……あ……。ち、違うんだ……。お、俺は……」
錯乱気味の男性に微笑んでみせたが、上手く出来たかどうか分からない。
「だ、大丈夫……ですか……? シラ……さん――」
目の前にいる女性はサキュバス三姉妹の長女――シラ。
アミルの御付として、魔王城にいるはずの彼女。
「どうし……て――」
どうしてここに居るのか、その答えを聞く事は叶わず、そのまま世界が閉じられた。
目を覚ました時、僕は知る事となる。
自分の愚かな行動と――その結果を。
「痛っ……」
目を覚ました場所は、お社の中。
「動かないで。まだ傷ふさがってないから」
うつぶせた僕の背後からニーヤの声がする。背中に感じる温かさは、彼女が治癒魔法をかけているからだろう。横を見ると、モミさんがシラさんを回復していた。
入り口には村の人が集まっていたけど、多分説明してくれたんだろう。不安そうにしてはいるが、そこに先程のような悪意や敵意はない。
「本当はモミがかけた方早いんだけど、魔族を回復させるのはアタシの魔力じゃちょっと辛いからさ。アンタの事だから、どうせ先にあっちを回復させてくれって言うと思ったし」
「そっか。うん――ありがと」
僕の性格を理解した、彼女達の行動がたまらなく嬉しかった。
「あ……ここは……」
「シラさん! 大丈夫ですか!?」
「動くなっての!」
目をあけたシラさんに、思わず動いた身体をニーヤに制される。
シラさんはまだ動けないのか、首だけこっちを向けると、悲痛な声を出した。
「パララ様を……助けてあげて……」
その名前に心臓が跳ね上がる。
「アミル!? アミルに何があったんですか!?」
「パララ様が……囚われた……」
その言葉を、瞬時に理解する事は出来なかった。
「アミルが……囚われた……? じょ、冗談だろ……? だって、まさか……」
魔界の王。
その力の強大さは、次元をこえている。
あのエルフの軍勢をも一層できる神の力を持つペロ様が、命をかけても倒せないと悟った相手。
自分で死を選ぶ事も出来ない程、強力な力を持つ魔王。
そんな彼女が囚われるなんて、想像も付かない。
「確かに……パララ様は強い……。でも、それは、あの方が魔王だからだ。でも――」
顔を歪めているのは、苦痛のせいだけじゃないだろう。
「――今はもう、魔王じゃない」
その言葉で、全てが繋がった。
全て知った。全て悟った。
自分の愚かささえも。
「ま、魔王じゃないってどういう事ですか?」
「その言葉の通りだよ。魔王の力は、魔王を倒した者に受け継がれる」
魔王を倒したのは――僕だ。
「嘘……でしょ……? アレって魔王の冗談じゃなかったの!?」
「冗談なんかじゃないさ。そう言う仕組みなんだ。でも、一度死んだ魔王が生き返るなんて聞いた事ないし。それに、魔王の魔力ってのは感じるんだよ。パララ様は、倒された後も間違いなく魔王だった。それが――」
「一ヶ月くらい前に突然消えた――だね?」
僕の言葉に、一斉に視線が集まる。
「そ、そうだ……」
「け、ケンセイさん……知っていたんですか……?」
「いや、今気づいた……」
大事な事だった。気づかなければならない事だった。
「栗花《リッカ》の森で、僕がどうなったか覚えてるよね?」
「栗花の森って、アンタが変態した――うそ、あれって……」
「ああ。僕はあの時願ったんだよ。『力が欲しい』って」
あの時死の淵で会ったのは、悪魔なんかじゃない。
多分――魔王だった。
その時、僕は魔王の力を手に入れた。
アミルから――奪った。
「だから魔装具が変態したんですね……。魔王の魔力で」
――お前の力、それが何なのか。『何の力』なのか、よく考えるといい。
あの森で、別れ際にミドリさんが言った言葉。
僕はもっと深く考えるべきだった。
力の代償を考えるべきだった。
――待っているぞ。我が夫よ。
最後に見たアミルの笑顔が、頭に浮かんだ。
村についた僕達を、全裸の僕を気にする人はいない。
皆は目の前に現れた異形のモノを見つめていた。皆はその侵入者と距離をとりながらも、手には鍬や鎌斧などが握られている。
「あ、アレって……?」
その場に蹲るようにしていたのは、人の姿をしているが人ではない。
人にあるはずのない角と翼。そしてくすんだ肌の色。
「ナギさん……じゃありませんか……?」
魔族――サキュバス。
だが様子がおかしい。
痛々しい程に破れた翼。その身体からは、真っ赤な血で染まっている。
「違う……。あれは――ナギさんじゃない」
その時、村人の一人が彼女に近づいた。
恐る恐る。だが、斧を持ったその手は、怒りに震えている。
「お前らのせいで……っ! この村は!」
振り上げた斧が彼女を狙う。
僕の身体は――駆け出していた。
「ぐあああああああああっ!」
背中を襲った激痛に叫び声をあげる。
筋肉の繊維が切断され、骨を打つ、焼けるような痛み。
鎧に守られていない生身の身体は――儚くも脆い。
「あ……あ……。ち、違うんだ……。お、俺は……」
錯乱気味の男性に微笑んでみせたが、上手く出来たかどうか分からない。
「だ、大丈夫……ですか……? シラ……さん――」
目の前にいる女性はサキュバス三姉妹の長女――シラ。
アミルの御付として、魔王城にいるはずの彼女。
「どうし……て――」
どうしてここに居るのか、その答えを聞く事は叶わず、そのまま世界が閉じられた。
目を覚ました時、僕は知る事となる。
自分の愚かな行動と――その結果を。
「痛っ……」
目を覚ました場所は、お社の中。
「動かないで。まだ傷ふさがってないから」
うつぶせた僕の背後からニーヤの声がする。背中に感じる温かさは、彼女が治癒魔法をかけているからだろう。横を見ると、モミさんがシラさんを回復していた。
入り口には村の人が集まっていたけど、多分説明してくれたんだろう。不安そうにしてはいるが、そこに先程のような悪意や敵意はない。
「本当はモミがかけた方早いんだけど、魔族を回復させるのはアタシの魔力じゃちょっと辛いからさ。アンタの事だから、どうせ先にあっちを回復させてくれって言うと思ったし」
「そっか。うん――ありがと」
僕の性格を理解した、彼女達の行動がたまらなく嬉しかった。
「あ……ここは……」
「シラさん! 大丈夫ですか!?」
「動くなっての!」
目をあけたシラさんに、思わず動いた身体をニーヤに制される。
シラさんはまだ動けないのか、首だけこっちを向けると、悲痛な声を出した。
「パララ様を……助けてあげて……」
その名前に心臓が跳ね上がる。
「アミル!? アミルに何があったんですか!?」
「パララ様が……囚われた……」
その言葉を、瞬時に理解する事は出来なかった。
「アミルが……囚われた……? じょ、冗談だろ……? だって、まさか……」
魔界の王。
その力の強大さは、次元をこえている。
あのエルフの軍勢をも一層できる神の力を持つペロ様が、命をかけても倒せないと悟った相手。
自分で死を選ぶ事も出来ない程、強力な力を持つ魔王。
そんな彼女が囚われるなんて、想像も付かない。
「確かに……パララ様は強い……。でも、それは、あの方が魔王だからだ。でも――」
顔を歪めているのは、苦痛のせいだけじゃないだろう。
「――今はもう、魔王じゃない」
その言葉で、全てが繋がった。
全て知った。全て悟った。
自分の愚かささえも。
「ま、魔王じゃないってどういう事ですか?」
「その言葉の通りだよ。魔王の力は、魔王を倒した者に受け継がれる」
魔王を倒したのは――僕だ。
「嘘……でしょ……? アレって魔王の冗談じゃなかったの!?」
「冗談なんかじゃないさ。そう言う仕組みなんだ。でも、一度死んだ魔王が生き返るなんて聞いた事ないし。それに、魔王の魔力ってのは感じるんだよ。パララ様は、倒された後も間違いなく魔王だった。それが――」
「一ヶ月くらい前に突然消えた――だね?」
僕の言葉に、一斉に視線が集まる。
「そ、そうだ……」
「け、ケンセイさん……知っていたんですか……?」
「いや、今気づいた……」
大事な事だった。気づかなければならない事だった。
「栗花《リッカ》の森で、僕がどうなったか覚えてるよね?」
「栗花の森って、アンタが変態した――うそ、あれって……」
「ああ。僕はあの時願ったんだよ。『力が欲しい』って」
あの時死の淵で会ったのは、悪魔なんかじゃない。
多分――魔王だった。
その時、僕は魔王の力を手に入れた。
アミルから――奪った。
「だから魔装具が変態したんですね……。魔王の魔力で」
――お前の力、それが何なのか。『何の力』なのか、よく考えるといい。
あの森で、別れ際にミドリさんが言った言葉。
僕はもっと深く考えるべきだった。
力の代償を考えるべきだった。
――待っているぞ。我が夫よ。
最後に見たアミルの笑顔が、頭に浮かんだ。
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