性剣セクシーソード

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三章~魔界冒険譚~

彼女の心境。そして旅立ちへ

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「他に――何かありませんか? その、魔界の事とか全然分からないから。危険な場所とか、危険な魔族とか」

 ふと、そんな質問をしてみた。

 初めて会った時から、どこか素っ気無く、それどころか毛嫌いされている感があった。
 考えてみれば、僕はあまりドミィさんと話す機会はあまり無かったのだ。
 だから、もうちょっと話してみたいと思ったりしたのだが――。


「ありません」

 きっぱりと言われた。

「はっきりと申し上げますと、ケンセイ様。私は貴方の事が嫌いです」

 毛嫌いなんてレベルではなかった。


「――私はパララ様がまだ幼い頃から身の回りの世話をさせて頂いておりました」

「お、幼い頃って――」

 僕はアミルの正確な年齢を知らない。
 まず年上であることは間違いないだろうが、その外見から年齢を推測するのは難しい。
 魔族と人間の寿命が同じだとは思わないし、女性に歳を訊ねるのもどうかと思うので聞いてもいない。
 気にしてもいなかった。

 でも、こうなると気にならずにはいられない。
 一体ドミィさんはいくつなのかと。

 しかし、訊ねる勇気は無かった。
 顔を伏せた彼女の様子に、恐怖にも似た感情を抱いたから。

「最初はただ、それが命令であったから遂行していたまでの事。ですが、パララ様が魔王になったその日から、私は自ら、自分の意志で、一生このお方に仕えていこうと決めたのです。
 全てに代えてでも、お傍に居たいと願ったのです」

 淡々と言葉を続けるその両手は、きつく握り締められている。
 ドミィさんが始めて見せた、感情の表れ。 

「そんな折に、貴方が現れました」 
  


「異世界から来た人間。パララ様は、貴方の事を愉しそうに話していました。それまでは、誰かに関心を持つ事など殆ど無かったのに」

 何となく――責められている感じがするのは気のせいじゃないだろう。

「それ事態は喜ばしい事でした。私にとっては希望でした。少なくとも貴方の事を考えている間は――パララ様は『生きて』いたのですから」

 その言葉で――思い出す。


 強大な力を持ち、魔界の頂点に君臨する王。
 そんな彼女は――死にたがっていた。
 生きる事に疲れ、人生に絶望していた。

 僕も同じだった。
 その理由は知らないし、聞いてもいない。
 きっとこの先も、僕から聞く事はないのだろう。

「ですが、希望はいつも儚いモノです」


 アミルが選んだ道は、やはり自分の死。
 僕のように、自ら命を絶つ事すら叶わない程に強すぎる彼女の取った行動。

 それは、自分の作った武器で殺されると言うモノ。
 僕を使って、自殺しようとした。

 そう言ってしまえば、余りにも身勝手で迷惑なモノなのかもしれないけれど、その相手に自分を選んでくれたという点だけで、僕はソレを光栄だと思ってしまう。
 しかし、それはあくまでも僕の視点での物語だ。
 
「貴方は、自分の主が目の前で殺される、その瞬間を見せられる気持ちがお分かりになりますか?」

 顔を上げたドミィさんの瞳は、まるで鋭利なナイフのように。

「手出し無用と命じられ、ただその命を捨てに行く主の背中を見送る気持ちは分かりますか?」  

 彼女の視点で見る物語の辛さは、他人には分からない。

 
「ですが――それはもう過ぎた話。今では感謝すらしているつもりです。パララ様の考えを変えて頂いた事には。
 だからと言って、貴方がパララ様とご一緒になられるのを私は良しとしません。ましてや、二人で旅に出るとまで言わしめる貴方の影響力が――憎くさえ思えます」

 肌を刺すような雰囲気は、敵意をも超越している。
 これは既に、殺気と呼んでも良い。


「……少し、話し過ぎましたね。今のは冗談です。忘れてください」

 その言葉と共に、部屋中に蔓延した殺気も消えた。
 まだ生き返ったばかりなのだ。三途の川を何度も渡りたくはない。

「じょ、冗談ですか……。は、ハハハ……」

 心臓に悪すぎる冗談だった。
 何にせよ、冗談を話せるくらいには仲良くなった……のかもしれない?

 そう前向きに解釈して胸を撫で下ろす。
 背中を向けたドミィさんが、ギリギリ聞き取れる程の声量で呟いた。

「旅の途中で死んでくれる事を――切に願いますよ」

 扉が完全に閉まるまで、僕は動けなかった。

――いや、絶対冗談じゃないじゃん。

               ◇

「遅い」

 城外に出た僕にかけられた、第一声がソレだった。

「申し訳ありません。装着に若干手間取りまして」

 先程の事はまるで無かったかのように、ドミィさんはしれっと嘘をついた。

「そうか。まぁ無理も無い。あの様な魔装具は余も初めてだったからな。少々手こずったわ」

 僕と同じく、アミルも魔装具を装着しているのだ。

――いや待てよ。
 一体――どこに『装着』しているんだ?

 僕はリングをハメた。ハメられる部分があったから。
 だが、彼女にソレはない。いや、そもそも形状が違う。

 リングが輪なら、タロクンピーは球だ。
 球を――ハメ――?
 陰であるタロクンピーを――INしている――!?


「どうしたケンセイ? 気分でも悪いのか?」

「え!? あ、いや、何でもない! 何でもないよ!」

 ダメだ。考えてはいけない。きっとそれは考えてはいけない事なのだ。
 どこかの魔法少女が持つ宝石魂のように形を変えているのかもしれないし、アクセサリーとして装着している可能性もあるのだから。

 うん、きっとそうだ。そうであるべきだ。
 

「ところで、もっとマシな服は無かったのか?」

 眉をひそめたアミルの全身を包んでいるのは、年季が入りくすんだ茶色のローブ。
 中に着ている服も、お世辞にもオシャレとは言えない上着とロング丈のスカート。 
 普段のゴージャスな黒いドレス姿とはまるで対照的な、庶民的で地味なモノだった。

「あいにくですが、パララ様のお召し物はどれも旅をするには不向きなモノばかりですので。新しく仕立てる時間もありませんでしたので、私の――」

「ああ。どうりで胸がきつかったわけか。良くこんな服を着ていられたな、信じられんぞ」

 窮屈そうに胸の生地を引っ張るアミルの言葉に、ドミィさんのこめかみがピクリと動いたのを僕は見逃さなかった。
 本人アミルにその気は全くないのだろうが、完全に嫌味である。


「まぁよいわ。それでは行くとしようか。ドミィ、留守を頼んだぞ」

「お任せ下さい。パララ様も、どうかお身体に気をつけて」

 彼女のその胸の内は、決して穏やかなモノではないだろう。
 しかし、おくびにも見せず深々と頭を下げるその姿は、とても従者らしい。

「必ず――守りますよ」  

 それがあまりにも哀しくて、思わず言葉が飛び出した。

「この身に代えても、アミルは必ず守ります」

「――宜しくお願い致します」 

 驚いたように目を見開き、再び頭を下げるドミィさんの言葉は、少しだけ柔らかかった。


「ほれ」

 用意された馬車の御者台に上ったアミルが手を差し伸べる。
 これじゃあ逆だよな。と苦笑しながらも、僕はその手を握った。 

「では出発だ!」

 今度は一体、どんな旅が始まるのだろうか。
 場所が場所だけに、きっと前よりも、ずっとずっと大変な旅になるんだろう。

 でも、不思議と不安は無かった。
 愉しそうに微笑む彼女の横顔を見ているだけで、全てが上手く行く気がしたから。

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