ノー・リミット・パラダイス

cure456

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夢ならば

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「セクシーソードかぁ。何か、夜見くんにピッタリな武器だね」
「やめてくれ。こんなイロモノネタ装備似合いたくもないぜ」
 ってか女のフェロモンってなんだよ。漠然としすぎだろ。
 ん? 待てよ――。

「なぁ、お前がコレ使えばいいんじゃないか? ほれ」
 名案だ。女のフェロモンが必要なら、女が使えばいい。
「私はダメだと思うけ――うわぁっ!?」
 手渡した剣が、地面に落ちた。

「何やってんだよ」
「違うよ。これすごい重いんだもん。うー! んー!」
 地面に落ちた剣を必死に持ち上げようとする雅。
 その様子を見るに、どうやら冗談ではなさそうだ。
「装備条件に書いてあったでしょ。童貞って」
 悪戯好きの子供の様に雅が微笑む。
「夜見くんはどーてーかぁ~。そっかそっか~」
「う、うるせぇ! お前だって、しょ、処女じゃねぇのかよ」
 その言葉で、雅の笑顔が一瞬で曇った。

「さっき、見てなかったんだね」
 聞くな。勘がそう告げている。
 話を逸らせ。話題を変えろ。 
「何の……事だよ?」
 でも、好奇心が俺の口を開かせる。
「私。処女じゃないんだ」
 恥を隠すように笑って、
「お父さんに、無理矢理」 
 笑えない話をした。



「嘘……だろ……?」
「うん。嘘」
 空いた口が塞がらない。それを俺は、今身を持って体験している。
「ふふっ。驚いた? 夜見くん、凄い顔してる」
「いや、驚くだろ。ってか冗談にしてはきつすぎるっての」
 突っ込むテンションも失せるほどの破壊力。
 それにしても、こいつ――。

「あれ? まさか信じてない? 鑑定メガネで見てもいいよ?」
「いや、てかさ、お前ってアレだよな。何かこう、思ってたのと違うって言うか」
 純真無垢で、清廉潔白。
 品行方正で、純情可憐。
 雅蝶良にそんなイメージを抱いていたのは、多分俺だけじゃないはずだ。
 
「幻滅した?」
「いや、ただちょっと驚いただけだ」
「私だって、何処にでもいる女の子だよ」
 そう笑った雅の横顔は、どこか悲しげだった。
「でも大丈夫。自分に何が求められているかは、ちゃんとわかってるつもり」 
 慕われ、尊敬され、憧れられ、惚れられ。
 他人の想いは、時に重さになる。
 本当の自分など、自分にしか分からない。
「だから、こんな話をするのはここでだけ。私だけど、私じゃなく居られるこの世界だけ。だって、夢の中なら――」
「何でもあり――か」
 雅は嬉しそうに笑った。
 つられて、俺も笑った。
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