ノー・リミット・パラダイス

cure456

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葛藤と遭遇

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「で、どうするよこれから」
 いつまでもこのままボーっと座ってるわけにもいかない。
「やっぱり、その剣を使うしかないんじゃないかな?」
「使うったって、お前も見ただろ? この剣は――」
 女性のフェロモンを、刀身に変える。
「うん。だから」
 雅は座ったまま、ゆっくりと両手を広げた。
「私を使えば解決だよ」


「なっ、何わけのわかんねぇ事!」
「人におけるフェロモンの定義は曖昧で、まだ確立しているわけじゃないらしいんだけどね。まぁそこまで難しく考える必要はないと思うんだ。だからここは単純に匂い=フェロモンと定義づけてさ――」
「ちょっとまてちょっとまて!」
 一方的にまくしたてる雅の言葉を遮る。
「その方法だと、俺がお前の匂いを――嗅ぐ事になるんだろ? そんなの無理だ。勘弁してくれ」
 俺にだって少しくらい意地やプライドみたいなモノはある。
 いくら夢の中でも、どうして同級生の匂いを嗅がなくてはいけないんだ。
 嫌というわけじゃない。
 誤解なきように言っておくが、嫌ではない。

「嫌じゃないなら、いいじゃない?」
「心を読んだ!?」
 読心術か!? ありえない。
 いや違う、此処は夢の中だ。何があったって不思議じゃない。
「ううん。夜見くん普通に喋ってたし」
 自分の口の緩さにあきれるぜ。
「でも、お前は嫌じゃないのか?」
「うん。別に嫌じゃないよ。夜見くんにはもっと凄い事されたし、それに――」
 屈託の無い笑顔で。
「――夢の中だしね」
 
 面白くなかった。
 確かに此処は夢の中だ。
 更に言えば、俺は初めて雅と夢で会った時、匂いを嗅ぐという行為がちっぽけに思えるほど破廉恥な行為に及んでいる。
 だからと言って、夢の中だからと言って。
 過剰な接触を露ほどに思わないそんな態度は。
 馬鹿にされている気さえした。

「くだらねぇ」
 吐き捨てて立ち上がる。
「え、ちょっと夜見くん 何処行くの?」
「戻る。付き合ってられっかよ」
 くそったれ。くそったれ。
 夢の中でこんな気持ちになるなら、夢なんて見るもんじゃない。
 さっさと覚めてしまったほうがマシ。
 そう思いながら歩を進める――そんな時だった。
 目の前に、『あの女』がいた。
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