2 / 48
その門の名は
しおりを挟む
「ここが……天国の門――」
電車とバスを乗り継ぎ、ついに到着した。
資格無き者は近寄る事さえ許されない、桃華学園の正門。
別名『天国の門』
圧倒的存在感を誇るその門に、僕はおのぼりさんよろしく、ただただ立ち尽くしていた。
周りに他の生徒の姿が見えないのをこれ幸いとばかりに、ポケットからピカピカのスマホを取り出す。
記念撮影くらいしても、バチは当たらないはず。
「あれ……どうやって使うんだこれ……」
初めて手にするスマホは、画面が真っ暗なままうんともすんとも言わない。
画面をこすってみても、一つだけあるボタンを押してみても動き出す気配は無かった。
いくら家が貧乏だと言っても、扱い方を知らない程無知ではない。
多分これは――。
「電池が切れちゃってるのかな?」
「わっ!?」
超至近距離。耳元で聞こえた声に驚いて腰を抜かす。
そこに立っていたのは、修道服に身を包んだ女性だった。
「あらら、大丈夫ですか?」
朝日が後光の様に彼女を照らし、手を差し伸べる姿は修道服のせいもあってか、神聖さに満ち溢れている。
ごく自然に握った彼女の手は、全てを包んでくれるような柔らかさだった。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。私が驚かせてしまったみたいですしね」
愛嬌たっぷりの顔で微笑む彼女に、胸の中で何かが跳ねた。
「愛染武君ね。私は桃華学園で神学を教えてる門真理子。シスターマリと呼んで下さい」
先生だったのか。しかし、残念な名前だな。もう一字違えば――。
「もう一字違えばシスターマリアなのに、残念な名前だなぁ――って思ってる?」
「えっ!? いやっ、そのっ!」
下から覗き込むようにシスターが僕の顔を見つめる。
妖怪サトリ!? 読心術!? それとも信心深さに神が与えたもうた力なのかっ!?
「ふふっ、良く言われますからねー。さぁ行きましょうか」
「あ、はい……」
この門をくぐったら、僕の新しい学園生活が始まる。
桃の華香る、天使達の楽園。
期待と不安に足がすくんでいた僕に、シスターは自分のスマホを取り出して言った。
「記念写真、撮りましょうか?」
「えっ? い、いいんですか?」
一度くぐってしまえば、もう特別感はなくなってしまう。
今この瞬間、まさに旅立ちの時。
断る理由など微塵もない。
「はい、じゃあ笑って笑って。撮りますよ~」
僕は上手く笑えているだろうか。
ピースサイン? いや、親指を立てたほうが格好いいだろうか――。
「……神よ、哀れな子羊がまた一人、地獄の門をくぐろうとしています」
写真を撮り、人差し指をピンと立て、ニッコリと彼女が笑った。
「ようこそ闘炎学園へ!」
これが長い長い闘いの始まりになろうとは、この時の僕は、未だ知る由もなかった。
電車とバスを乗り継ぎ、ついに到着した。
資格無き者は近寄る事さえ許されない、桃華学園の正門。
別名『天国の門』
圧倒的存在感を誇るその門に、僕はおのぼりさんよろしく、ただただ立ち尽くしていた。
周りに他の生徒の姿が見えないのをこれ幸いとばかりに、ポケットからピカピカのスマホを取り出す。
記念撮影くらいしても、バチは当たらないはず。
「あれ……どうやって使うんだこれ……」
初めて手にするスマホは、画面が真っ暗なままうんともすんとも言わない。
画面をこすってみても、一つだけあるボタンを押してみても動き出す気配は無かった。
いくら家が貧乏だと言っても、扱い方を知らない程無知ではない。
多分これは――。
「電池が切れちゃってるのかな?」
「わっ!?」
超至近距離。耳元で聞こえた声に驚いて腰を抜かす。
そこに立っていたのは、修道服に身を包んだ女性だった。
「あらら、大丈夫ですか?」
朝日が後光の様に彼女を照らし、手を差し伸べる姿は修道服のせいもあってか、神聖さに満ち溢れている。
ごく自然に握った彼女の手は、全てを包んでくれるような柔らかさだった。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。私が驚かせてしまったみたいですしね」
愛嬌たっぷりの顔で微笑む彼女に、胸の中で何かが跳ねた。
「愛染武君ね。私は桃華学園で神学を教えてる門真理子。シスターマリと呼んで下さい」
先生だったのか。しかし、残念な名前だな。もう一字違えば――。
「もう一字違えばシスターマリアなのに、残念な名前だなぁ――って思ってる?」
「えっ!? いやっ、そのっ!」
下から覗き込むようにシスターが僕の顔を見つめる。
妖怪サトリ!? 読心術!? それとも信心深さに神が与えたもうた力なのかっ!?
「ふふっ、良く言われますからねー。さぁ行きましょうか」
「あ、はい……」
この門をくぐったら、僕の新しい学園生活が始まる。
桃の華香る、天使達の楽園。
期待と不安に足がすくんでいた僕に、シスターは自分のスマホを取り出して言った。
「記念写真、撮りましょうか?」
「えっ? い、いいんですか?」
一度くぐってしまえば、もう特別感はなくなってしまう。
今この瞬間、まさに旅立ちの時。
断る理由など微塵もない。
「はい、じゃあ笑って笑って。撮りますよ~」
僕は上手く笑えているだろうか。
ピースサイン? いや、親指を立てたほうが格好いいだろうか――。
「……神よ、哀れな子羊がまた一人、地獄の門をくぐろうとしています」
写真を撮り、人差し指をピンと立て、ニッコリと彼女が笑った。
「ようこそ闘炎学園へ!」
これが長い長い闘いの始まりになろうとは、この時の僕は、未だ知る由もなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる