私立桃華学園! ~性春謳歌の公式認可《フリーパス》~

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その門の名は

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「ここが……天国の門ヘブンズゲート――」
 電車とバスを乗り継ぎ、ついに到着した。
 資格無き者は近寄る事さえ許されない、桃華学園の正門。
 別名『天国の門』

 圧倒的存在感を誇るその門に、僕はおのぼりさんよろしく、ただただ立ち尽くしていた。
 周りに他の生徒の姿が見えないのをこれ幸いとばかりに、ポケットからピカピカのスマホを取り出す。
 記念撮影くらいしても、バチは当たらないはず。

「あれ……どうやって使うんだこれ……」
 初めて手にするスマホは、画面が真っ暗なままうんともすんとも言わない。
 画面をこすってみても、一つだけあるボタンを押してみても動き出す気配は無かった。
 いくら家が貧乏だと言っても、扱い方を知らない程無知ではない。
 多分これは――。

「電池が切れちゃってるのかな?」
「わっ!?」
 超至近距離。耳元で聞こえた声に驚いて腰を抜かす。
 そこに立っていたのは、修道服に身を包んだ女性だった。
「あらら、大丈夫ですか?」
 朝日が後光の様に彼女を照らし、手を差し伸べる姿は修道服のせいもあってか、神聖さに満ち溢れている。
 ごく自然に握った彼女の手は、全てを包んでくれるような柔らかさだった。

「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。私が驚かせてしまったみたいですしね」
 愛嬌たっぷりの顔で微笑む彼女に、胸の中で何かが跳ねた。
愛染武あいぜんたける君ね。私は桃華学園で神学を教えてる門真理子みうちまりこ。シスターマリと呼んで下さい」
 先生だったのか。しかし、残念な名前だな。もう一字違えば――。
「もう一字違えばシスターマリアなのに、残念な名前だなぁ――って思ってる?」
「えっ!? いやっ、そのっ!」 
 下から覗き込むようにシスターが僕の顔を見つめる。
 妖怪サトリ!? 読心術!? それとも信心深さに神が与えたもうた力なのかっ!? 
「ふふっ、良く言われますからねー。さぁ行きましょうか」
「あ、はい……」

 この門をくぐったら、僕の新しい学園生活が始まる。
 桃の華香る、天使達の楽園。
 期待と不安に足がすくんでいた僕に、シスターは自分のスマホを取り出して言った。
「記念写真、撮りましょうか?」 
「えっ? い、いいんですか?」
 一度くぐってしまえば、もう特別感はなくなってしまう。
 今この瞬間、まさに旅立ちの時。
 断る理由など微塵もない。

「はい、じゃあ笑って笑って。撮りますよ~」
 僕は上手く笑えているだろうか。
 ピースサイン? いや、親指を立てたほうが格好いいだろうか――。

「……神よ、哀れな子羊がまた一人、地獄の門ヘルズゲートをくぐろうとしています」
 写真を撮り、人差し指をピンと立て、ニッコリと彼女が笑った。
「ようこそ闘炎学園へ!」
 これが長い長い闘いの始まりになろうとは、この時の僕は、未だ知る由もなかった。
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