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地獄の始まりは、宣誓ならぬ宣性で
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会場に着いた僕は、あまりの光景に息を飲んだ。
否応なく鼻腔をジャックする甘い香りに、制服を着た数多の天使達。
――楽園は確かに存在した。
ピンクのミニスカートからすらりと伸びるおみ足が、山に生い茂る木々の様に立ち並ぶ様はまさに圧巻の一言。
あそこにヘッドスライディングで飛び込み上を見れば、一生かかっても拝めない絶景が広がっているだろう。
一生日の目を見れなくなりそうだが。
「愛染君はこっちですね」
生徒達を横目に、壁際の方へ向かう。
周囲の視線が僕に向かうのを感じた。
……何だかあんまり歓迎されている感じがしないのは気のせいだろうか。
心なしか――そう、まるで汚いモノを見るかのような――。
その時、目の前を颯爽と通り過ぎた女性。
制服姿から生徒である事は明白だが、こんな綺麗な人を未だかつて見た事はない。
深すぎる黒髪は、差し込む日差しに照らされて蒼く煌き、スラリと伸びた手足はまるで彫刻の様。 視線が合うと、彼女は控えめに微笑み会釈をした。
僕と言えば、壊れたロボットのようにぎこちなく、軽く頭を下げるのが精一杯。
そして、即座に理解した。
やはり、天から与えられるものに制限などないのだ、と。
「それでは私立桃華学園入学式を始めます」
スピーカーから流れる天使の声が式の始まりを告げる。
目の前にずらりと並ぶ女子を、穴が開くほど眺めたい葛藤と戦っている最中。
運命の歯車は、音を立てて回り始めていた。
式の進行は順調に進んでいく。
「続きまして、生徒会長より――」
すっと席を立ったのは、さっきの超絶美女。
生徒会長だったのか。いや、どんな役職についていても驚きはしない。
女神だと言われても信じてしまいそう。
堂々と、透き通る声で流暢に話す彼女に、僕はすっかり目を奪われていた。
「続きまして、新入生宣誓――」
「あっ、愛染君の出番ですよ。はい、これ原稿です。頑張ってくださいね」
「えっ!? あっ、はい……」
やばいやばい、完全に意識を持っていかれていた。
シスターに原稿を渡され席を立つ。
落ち着け僕、最初が肝心だ。
華の高校生活三年間はこのスピーチにかかってると言っても過言じゃない。
緊張を抑え壇上に向かう。大丈夫。ただ原稿を読むだけなんだ。
堂々と、胸を張って声を上げた。
「本日は、僕達新入生のために、このように盛大な入学式を催して頂き、誠にありがとうございます」
地獄のスピーチが始まった瞬間だった。
「この会場に向かって歩く道すがら、桜の花や春の花々を見つけるたびに、まるでどの花も僕を祝福してくれているような気がいたしました。先程から理事長をはじめ、先輩方からあたたかいお言葉を頂戴し、誠に感無量であります」
出だしは抜群。
声量も申し分なし。
このまま最後までスラスラいければ、僕の高校生活は安泰だ。
「僕はこれまで、親が敷いてくれたレールを何の疑問も持たずに進んで参りました。しかし、この桃華学園に入学し、知識と教養を身につけ、将来自分が進むべき道を必ず見つけたいと強く思うに至りました」
快調快調。いけるいける。
僕ならやれる。大丈夫だ。
「僕達には無限の可能性があります。一人一人、皆違う個性を持っている。大きいおっぱい、小さいおっぱい。ぷりっとしたお尻、きゅっと締まったお尻。大人の階段を昇っている蕾も、頬が落ちるほどに熟れた果実も、この学園には、沢山あると思います。僕が人として、一人前の男になる糧を得る、絶好の学び舎だと思います!」
ん? 何かおかしくないか?
ちょっとざわついてる気がするのは何故だ?
「僕は、この学校で過ごせる三年間に、この学校で学べる三年間に、期待で股間を大きく膨らませております!」
えっ? なにそれ?
何を膨らませてるって? 明らかにおかしかった。
でも、ここで止まったら多分やばい。
詰ったら目も当てられない。もう少し、最後まで読み終えるんだ。
「さっ、最後になりますが、理事長ならびに諸先生方、そして先輩方に同級生には、その温かい肉体で、温かいご指導とお導きのほどよろしくお願い申し上げます。僕は歴史と伝統ある桃華学園の生徒として、誇りを胸に抱き、桃の華咲くこの学び舎を、栗の花で埋め尽くすように、性一杯頑張ります! 以上、一年A組、愛染武っ!」
自分の名前がエコーとなって会場中に響き渡る中、血の気がさっと引いていくのを感じた。
軽蔑、拒絶、侮蔑、嘲り、憤り。
全ての悪意を一身に受けながら壇上を降りる。
「哀れな子羊に、神のご加護を、アーメン」
遠くで、何かを呟きながらシスターマリが十字を切る。
この日、僕は私立桃華学園高等部二百四十人の女性を一瞬で敵に回した。
桃色だと思っていた学園生活は、こうして始まったのであった。
否応なく鼻腔をジャックする甘い香りに、制服を着た数多の天使達。
――楽園は確かに存在した。
ピンクのミニスカートからすらりと伸びるおみ足が、山に生い茂る木々の様に立ち並ぶ様はまさに圧巻の一言。
あそこにヘッドスライディングで飛び込み上を見れば、一生かかっても拝めない絶景が広がっているだろう。
一生日の目を見れなくなりそうだが。
「愛染君はこっちですね」
生徒達を横目に、壁際の方へ向かう。
周囲の視線が僕に向かうのを感じた。
……何だかあんまり歓迎されている感じがしないのは気のせいだろうか。
心なしか――そう、まるで汚いモノを見るかのような――。
その時、目の前を颯爽と通り過ぎた女性。
制服姿から生徒である事は明白だが、こんな綺麗な人を未だかつて見た事はない。
深すぎる黒髪は、差し込む日差しに照らされて蒼く煌き、スラリと伸びた手足はまるで彫刻の様。 視線が合うと、彼女は控えめに微笑み会釈をした。
僕と言えば、壊れたロボットのようにぎこちなく、軽く頭を下げるのが精一杯。
そして、即座に理解した。
やはり、天から与えられるものに制限などないのだ、と。
「それでは私立桃華学園入学式を始めます」
スピーカーから流れる天使の声が式の始まりを告げる。
目の前にずらりと並ぶ女子を、穴が開くほど眺めたい葛藤と戦っている最中。
運命の歯車は、音を立てて回り始めていた。
式の進行は順調に進んでいく。
「続きまして、生徒会長より――」
すっと席を立ったのは、さっきの超絶美女。
生徒会長だったのか。いや、どんな役職についていても驚きはしない。
女神だと言われても信じてしまいそう。
堂々と、透き通る声で流暢に話す彼女に、僕はすっかり目を奪われていた。
「続きまして、新入生宣誓――」
「あっ、愛染君の出番ですよ。はい、これ原稿です。頑張ってくださいね」
「えっ!? あっ、はい……」
やばいやばい、完全に意識を持っていかれていた。
シスターに原稿を渡され席を立つ。
落ち着け僕、最初が肝心だ。
華の高校生活三年間はこのスピーチにかかってると言っても過言じゃない。
緊張を抑え壇上に向かう。大丈夫。ただ原稿を読むだけなんだ。
堂々と、胸を張って声を上げた。
「本日は、僕達新入生のために、このように盛大な入学式を催して頂き、誠にありがとうございます」
地獄のスピーチが始まった瞬間だった。
「この会場に向かって歩く道すがら、桜の花や春の花々を見つけるたびに、まるでどの花も僕を祝福してくれているような気がいたしました。先程から理事長をはじめ、先輩方からあたたかいお言葉を頂戴し、誠に感無量であります」
出だしは抜群。
声量も申し分なし。
このまま最後までスラスラいければ、僕の高校生活は安泰だ。
「僕はこれまで、親が敷いてくれたレールを何の疑問も持たずに進んで参りました。しかし、この桃華学園に入学し、知識と教養を身につけ、将来自分が進むべき道を必ず見つけたいと強く思うに至りました」
快調快調。いけるいける。
僕ならやれる。大丈夫だ。
「僕達には無限の可能性があります。一人一人、皆違う個性を持っている。大きいおっぱい、小さいおっぱい。ぷりっとしたお尻、きゅっと締まったお尻。大人の階段を昇っている蕾も、頬が落ちるほどに熟れた果実も、この学園には、沢山あると思います。僕が人として、一人前の男になる糧を得る、絶好の学び舎だと思います!」
ん? 何かおかしくないか?
ちょっとざわついてる気がするのは何故だ?
「僕は、この学校で過ごせる三年間に、この学校で学べる三年間に、期待で股間を大きく膨らませております!」
えっ? なにそれ?
何を膨らませてるって? 明らかにおかしかった。
でも、ここで止まったら多分やばい。
詰ったら目も当てられない。もう少し、最後まで読み終えるんだ。
「さっ、最後になりますが、理事長ならびに諸先生方、そして先輩方に同級生には、その温かい肉体で、温かいご指導とお導きのほどよろしくお願い申し上げます。僕は歴史と伝統ある桃華学園の生徒として、誇りを胸に抱き、桃の華咲くこの学び舎を、栗の花で埋め尽くすように、性一杯頑張ります! 以上、一年A組、愛染武っ!」
自分の名前がエコーとなって会場中に響き渡る中、血の気がさっと引いていくのを感じた。
軽蔑、拒絶、侮蔑、嘲り、憤り。
全ての悪意を一身に受けながら壇上を降りる。
「哀れな子羊に、神のご加護を、アーメン」
遠くで、何かを呟きながらシスターマリが十字を切る。
この日、僕は私立桃華学園高等部二百四十人の女性を一瞬で敵に回した。
桃色だと思っていた学園生活は、こうして始まったのであった。
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