私立桃華学園! ~性春謳歌の公式認可《フリーパス》~

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絶望の自己紹介

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「誰かのいたずらですかね~。まぁ気にすることありませんよっ」
「い、いたずらって……。いくら何でもひどすぎますよ!」
 閉会後。
 誰も居なくなった体育館詰め寄ったシスターは平然とした顔で笑った。

「でも、ちゃんと最後まで詰まることなく堂々としていましたし、立派なスピーチでしたよっ」
「そ、そうですか……?」
 いや、そうではない。
 納得しかけたけど。褒められるところは一つもないし、いっその事詰まった方が幸せだった。
 自分を責めたい。

「あの……。さっきのスピーチでその……停学……とかなったり……?」
 停学で済むならまだマシ。公然と猥褻な発言をしたのだ。
 それもここは普通の学校じゃない。天下の桃華学園なのだ。
 退学であってもおかしくはない行為だが、自分の口からその単語を出すのは怖かった。

「大丈夫ですよっ。用意されていた原稿を読んだだけですし、良くある事ですから。さっ、早く教室にレッツゴーしないとHRが始まっちゃいますよ~。後二分ですっ」
 腕時計をチラリと眺めつつシスターが言った。
「二分!? ちょ、もっと早く教えてくださいよ!」
「だって愛染君ぼーっとしてましたし」
 スピーチを終えた後、あれこれ考えた挙句思考を停止させていたのは事実だが、それなら声くらいかけて欲しかった。

「愛染君っ」
 急いで体育館を後にする僕に、シスターが声をかけた。
「大丈夫。神はいつでも貴方を見守っていますよ」
 不透明で非科学的で論理性の欠片もない言葉だったが、それは暗闇に射す一筋の光の様に感じた。
「――はい。ありがとうございます!」
 最悪なスタートだが、エンドではない。
 失敗は取り返し、誤解は解けばいい。
 別に僕が悪い事なんて一つも無いんだから――。
 

『1ーA』と書かれたプレートを確認し、扉を開ける。
 教室の中には慈悲の心を忘れた天使達。
 向けられる視線は、それは筆舌に尽くしがたいモノだ。
 まぁ。それも当然と言えば当然か。

「おい」
 突然聞こえた女性の声は、僕に向けられたモノだと直感した。
 だが、声の主が見当たらない。
「おい」
 再び聞こえたその声は僕の足元から。視線を移すと、小学生程の子供が立っていた。
「え? 子供……?」
 あ、そういえば初等部もあるんだよな。でも何で初等部の生徒が――。

「いっ!?」
 少女が無言で放った、僕の脛を的確に捉えたつま先蹴り。
 骨が折れたかと思う程の痛みに膝が崩れる。目線が少女と同じ高さになった時、僕の瞳に映ったのはクマさんがプリントされた子供パンツと、片足を上げた少女の姿。
 そのフォームが前蹴りのソレと気付いたのは、廊下の壁まで吹っ飛ばされた後だった。

「三十秒の遅刻の上、担任を呼び捨てにするとはいい度胸だな新人」
「担……任?」
 両腕をしっかりと組み、僕を見下ろしながら。
仔友恵こどもめぐみ。このクラスの担任なのだ」
 と言い放った。
 子供……? 担任……? 
 てか今思いっきり蹴飛ばしたよ? 
 この教師不遇の時代に躊躇なく生徒を蹴り飛ばしたよ?

「す、すいませんでした……」
 何だか良く分からないが謝っておくしかない。
 見た目はどうみても愛くるしい少女だが、担任に逆らうわけにもいかない。
 何より本能が「逆らうな」と告げていた。

「よし、じゃあ全員集まったところで自己紹介――と言っても中等部から一緒のお前らには不必要か。愛染、お前自己紹介するのだ」
「え。は、はい」
 ズキズキと痛むお腹をおさえつつ教壇の前に。
 改めてよく見ると、クラスメイトは全員女子。
 女子比率が高いのは承知の上だが、せめて一人くらい男子が居て欲しかった。
 あのスピーチの後では気まずさが半端ない。

「は、初めまして、愛染武と言います」
 第一声をはっきりと、しかし、誰もが僕を見ようとしない。
 まるで興味なさそうに下を向いたり横を向いたり。
 漂う静けさは、今まで味わった事のない重圧。
「……よろしくお願いします……」
 気の利いた一言でも、と考えていたが、もうこれ以上ここに立っているのはあまりにも辛かった。 当然、拍手などない。

「よし、じゃあ愛染の席はそこだ」
 子供先生が指差した場所は、教卓のすぐ目の前にぽつんと置かれた机。
 教室に入ったときから違和感を感じていた。

 そもそも机と言うのは一列に規則正しく並べられているものだが、このクラスは違う。
 コの字型に並べられているのだ。
 真ん中に置かれた、その席を拒絶するかのように。

 椅子に座ると、僕の視界に入るのは黒板のみ。
 だが、敵意に満ちた視線はひしひしと感じる。
 子供先生が何やら話し出したが、圧倒的疎外感と腹の痛み。
 僕の耳には、何も届かなかった。
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