私立桃華学園! ~性春謳歌の公式認可《フリーパス》~

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拒絶する教室

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『私立桃華学園』
 女子が大多数を占める、歴史ある進学校。
 在籍する女子は天使と呼ばれ、外界に住む男女の憧れの存在である。

 そんな学校に入学出来るとなれば、誰もが浮かれてしまうだろう。
 天使達に囲まれた、華やかな学園生活。そんな事を考えてた時期が僕にもありました。
 高校生活二日目。
 僕は早朝から厩舎の掃除をしていた。

「よしよし、良い子だ黒影。すぐ済むから待ってろよ」
 寮を追い出され厩舎に転がり込んだ僕は、この場所の主である一匹の馬(黒鹿毛という種類だから勝手に黒影と名付けた)と友人になった(気がする)。
 掃除をしているのはお礼のようなものだ。

「よし、どうだ! 綺麗になっただろう?」
 黒影は「まぁまぁだな」とばかりにブルンと鼻を鳴らした。
「七時、か。今頃は皆朝飯食ってるんだろうな……」
 厩舎にコンセントがあったのは不幸中の幸い。充電したスマホで時間を確認する。

 食堂は寮内にあるため、必然的に僕は食事を取ることが出来ない。
 最後に食べたのは昨日の朝だから、丸一日何も食べていない事になるが、貧乏生活で慣れた僕の胃袋は、一日二日では根を上げないように訓練されている。
 こんな所で役立つとは思わなかったけど。

「教室に行くか……。じゃあな黒影」
 誰かが居る場所に入っていくより、先に入ってしまった方が楽なはずだ。
 まぁ冷たい視線を向けられるのには変わらないのだが。
 下がったテンションを上げるように友人に軽く手を振り、厩舎を出た。

 教室の中は心地良い静けさに包まれていた。
 不自然に配置された自分の席に腰掛け、改めて周りを見渡す。
 机の数は二十。
 僕の他に男子はいないから十九人の女子に囲まれているという事だ。
 事実だけを述べると、なんとも羨ましいシチュエーションだが、実際は拷問にも等しい。

 一貫校の全寮制。
 他の皆は大体顔見知りの上、同性だ。
 そんな中に見知らぬ異性が加わり、さらに入学初日とんでもないスピーチをぶちかました。
 とくればもう僕は異物以外の何者でもなく、彼女達の行動は至極当然の気がしないでもない。
 腹をたてる事が筋違いなのかも。
 
 そう考えると、僕のやるべき事は自ずと見えてくる。
 まずは身近なクラスメイトの誤解を解き、次に寮長だ。
 部屋に入れさえすれば、同性のルームメイトを通じて少しずつ地盤を固めていけばいい。

 そんな完璧すぎる作戦を練っていると、教室のドアが開いた。
 視線の先には一人の女子生徒。
 シルバーのメッシュが入ったロングヘアーと鋭い眼。
 シャープな顔立ちは、見ているだけでこっちが照れてしまうほどの美少女だ。

「おっ、おはよう!」
 まずは挨拶だ。そう思った僕はすぐに声を上げる。
 例え罵られてもいい、とりあえず会話のきっかけが欲しかった。
 だが、彼女は一瞥をくれただけ。言葉を放つどころか、表情一つ変えず席に着いた。

 無視。
 予想しうる最悪のパターンだ。
 朝の静けさは一転、重苦しい沈黙に変わる。
 他のクラスメイトが居ない今がチャンスだとは思うが、あの対応を見る限り一筋縄じゃいかないのは明白。
 再チャレンジしようか悩んでいた瞬間、勢い良く教室のドアが開き、女子の集団が入って来た。

「アハハ。本当に~? それって――ちょ、あいつまだ居るよ……」
「うわ……マジ最悪なんだけど。良く来れるよね」
 挨拶ですらない痛烈な言葉を浴びせられて、机に視線を落とす。
 それからも続々と現われるクラスメイトの同じような反応に、心は折れかけていた。


 HRが終わり、授業が始まる。
 成績はそこまで悪くないと思っていたのだが、そのレベルの高さに絶望さえ覚える内容だった。
 クラスでの疎外感などすっかり忘れ、子供先生の話と黒板に全神経を集中させる。
 その時だった。

 コツン――と後頭部に小さな衝撃。
 後ろを振り返ろうと思った時、足元に転がる消しゴムの欠片を見て理解した。
 ああ、良くある嫌がらせか、と。

 名だたる桃華学園のイメージが、理想の天使像がガラガラと音を立てて崩れていく。
 あんなに華やかなお嬢様達も、結局はただの人。
 教師も気づいているはずなのに見て見ぬ振り。
 外の連中がこの現状を知ったらさぞ幻滅する事だろう。

 そして、こんな低俗な挑発にのるほど僕はガキじゃない。
 集めれば消しゴムが二、三個出来るであろう欠片を足元に蓄えながらも、ひたすら授業に集中した。

 三時限目を回った時、それは一瞬の出来事だった。
 今までとは違う衝撃と共に、不快な音が教室に鳴り響いた。
 首筋を伝う不快な感触に手を触れると、粘性のある鮮やかな黄色が糸を引く――生卵だ。

「……誰だよ?」
 椅子から立ち上がり後ろを振り向く。犯人の見当はすぐについた。
 他の女子が驚きや哀れみの表情を浮かべているのに対し、一番後ろの席でそいつは笑っていた。
「何? 黒板見えないから邪魔なんだけど」
 耳が半分隠れるセミロングの女子は、薄笑いを浮べながら言った。
「謝れよ」
「は? 何で私がアンタに謝らないといけないわけ?」
「僕じゃない。ニワトリに謝れ」
「にっ……鶏……?」
 目を丸くした名も知らぬ女子に、僕は尚も続けた。
「お前には分かるのか! どんな思いでニワトリがこの卵を産んだのか! 必死に産み落とした卵が無駄にされたニワトリの気持ちがっ! お前には分かるのかよっ!」

 黄身の鮮やかさ、卵のとろみ、手触り。
 僕にはわかる。これは手間隙をかけ、吟味された質の良い卵だ。
 この卵を熱々のご飯にかけて醤油をちょっと垂らすだけで、最高のご馳走になるだろう。
 そんな卵を無駄にした。
 生んでくれた鶏のため、汗水垂らして働いた養鶏場の方々のため。怒らずにはいられない。
「なっ……!?」
 食べ物を粗末にする。それは非道なる蛮行以外のなにものでもない。
 生きとし生けるもの、その全てを愚弄する行為だ。

「愛染」
 子供先生が僕の背中を叩いた。
 小さくても教師、流石に生徒の粗相に黙っているわけが――。
「授業の邪魔なのだ。出て行け」
 冷めた瞳で、はっきりとそう言った――僕に向かって。

「えっ? ぼっ、僕がですか?」
「お前以外に誰が居るのだ? さっさと出て行け」
「なっ、何を言ってるんですか!? どう考えても悪いのは――」
 彼女の方――と言い終わる前に、子供先生が僕の身体を掴み、そのまま教室のドアに向かって放り投げた。
 扉が外れ、廊下に投げ出される。

「授業中は静かに。中学で習わなかったか? おーい誰か、さっさと扉直すのだ」
 淡々と、それはもう彼女の行為がさも当然の対応かの如く平然と言った。
 頭が混乱して言葉を発することも出来ない。
 外れたドアが再び閉められた時に感じたのは――。
――この学園に、僕の居場所は何処にも無いという事だった。
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