私立桃華学園! ~性春謳歌の公式認可《フリーパス》~

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異物対象は突然に移行して

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 決闘から一週間。僕は驚くほど平穏な生活を送っていた。
 いまだに厩舎暮らしだけど、慣れてしまえばどうって事無い。
 不便と言えば食事と風呂。
 前者は黒影のおこぼれで。
 後者は馬シャンプーを使っての水浴びだけど、まぁ何とかやっていた。

 クラスでも、もう僕にちょっかいを出してくる人はいない。
 決闘から二、三日は異様な殺気を背中に浴びていたが、それももう止んだらしい。
 流石に会話をする仲には至らないが、これで満足。
 後は時間が解決してくれるはずだ。そう思っていた。



 だけど、この日はいつもとクラスの雰囲気が違った。
 まずクラスに入って最初に気付いたのが机の位置。
 このクラスでは、教卓の前にある僕の席を中心に、コの字型で囲うように配置されている。
 他のクラスは普通に並べてられているから、これは僕を避けるための配置なのだが、今日は何故か僕の後ろに席がもう一つ置かれている。
「なにこれ?」と聞ける相手もいないので、とりあえず席に着く。
 その席が誰の物なのか分かったのはしばらく経ってからだった。

 子供先生(仔友と言う苗字だと知ったのは最近)がHR三十秒前にクラスに入る。
 毎回そうなので扉の前で計ってるのかと思ったがそうではない。
 見た目に似合わず、と言ったら失礼だろうが、結構きっちりした先生なのだ。
 僅かな沈黙を経て鐘の音が鳴り響く。
 その時、突然ドアが開いた。

「……すいません。遅れました」
 現われたのは、僕と死闘? を繰り広げた灰名京子。
 遅刻してくるのを見るのも初めてだが、思いつめたような、どこか浮かない表情を見るのも初めてだった。
 そして僕の横を通り過ぎ、後ろの真後ろの席に。
 振り返りさえしなかったものの、すぐ後ろで聞こえる物音はそれが彼女の席である事を語っていた。
 一体どうなっているんだ? 
 何で彼女が真後ろに――もしかして刺されるのか!? 
 そりゃああんな辱めを受けたんだ。可能性は0じゃない!

 たまに聞こえる椅子の音にビクビク震えながらも、時間は淡々と流れ三時限目。
 突然後ろから飛んできた消しゴムの欠片が僕の肩をかすめ机に転がった。

『二度と僕にちょっかいを出さない』

 灰名がその約束を反故にした事を怒る気はさらさらなく、むしろ嬉しくもあった。
――おい、僕にちょっかいを出さないと約束しただろう?
――好きな男の子に、ちょっかいを出して何がいけないの?
 うん……そんな展開は無い。
 でもでも、拳を交えた間柄――と言えるのかどうか分からないけど、子供先生も言っていた。
『決闘は性差を超える』と。

 小さな友情が芽生えている可能性もなきにしもあらず。
 いささか楽天的過ぎる考えではあるが、これが何か、会話のきっかけになればと思い、教員が黒板を向いた瞬間に振り返る。
 だが、僕が目にしたのはあまりにも予想外の光景だった。

 拳を握り、唇を噛み俯く彼女。
 その周囲には、大量のゴミが散らばっている。
 それは、一週間前の僕と同じ状況だった。
 思考が追いつかない。
 何故こうなっているのか、僕には理解出来なかった。
 ただ、彼女の頭部目掛けて飛んでくる卵に、身体が自然と反応した。
 教員の声を、机が倒れた音がかき消す。
 間一髪。投げられた卵は僕の手の中に納まっていた。ホッとすると同時に怒りが沸きあがる。
「おま――」
 叫び声を止めたのは、彼女が目を伏せたまま、僕の袖を強く握ったから。

「どうした愛染?」
「とっ、突然具合が悪くなりました! 灰名さん保健室までよろしく!」
「えっ? ちょ、ちょっと!」
 そう言って、灰名の手を掴み教室を出た。



「いつまで手握ってるつもり?」
 教室を出てしばらく歩いた時、彼女の言葉に我に返った。
 正確には手ではなくて手首なのだが、あの強烈な攻撃を繰り出していたモノとは思えない程細く、そして女の子らしかった。 
「あっ、ご、ごめん……」
「余計な事してくれて迷惑なんだけど」
 そっぽを向いたまま、吐き捨てるように彼女は言った。
 その目は赤く、表情は暗いまま。

「――僕はお礼を言わなきゃいけないかも」
 顔を上げた彼女に、僕は笑って卵を見せる。
「おかげで貴重なたんぱく質を手に入れたから」
「はっ。頭おかしいんじゃないの」
 ソレが間違いじゃないと思ったのは、彼女の苦笑を見られたから。

「……本当に厩舎に住んでるのね」 
『一緒に居るところを見られたくない』
 そう言った彼女を案内したのは、やはりマイスイートホーム『厩舎』だ。

「住めば都って言葉があるくらいだからね。来客は想定して無いから何も出せないけど」
 流石に水道の水を飲ませるわけにもいかず、椅子を引いてあげる事しか出来ない。
 腰掛けた彼女に、僕は深々と頭を下げた。
「ずっと謝りたかった。決闘にかこつけてあんな酷い事をして、本当にゴメン」
「別に謝ってもらう必要ないし。そういうもんだから」
「でも――」

『でも僕の所為で』そう言いかけて飲み込んだ。
 彼女が置かれている状況は、彼女が僕に負けてしまったから。
 確固たる事実足りえるモノは何も無いが、状況から判断すればまず間違いないだろう。
 分かっているからこそ、口には出せなかった。
 ソレを言ってしまうのは、本気で戦った相手を侮辱する行為のような気がしたから――。
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