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一致団結
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「よし。どうだ黒影! めちゃくちゃ綺麗になっただろう?」
いつもより入念に掃除をしたのは、黒影のご機嫌をとろうとしたわけではなく、緊張を紛らわせるため。
今日という日が、僕の学園生活を左右するほど重要な一日になりそうだから。
もしクラスメイトが僕に賛同してくれなかったら、背水の陣どころではない。
気付かぬうちに行方不明者として処理される可能性だってある。
「はぁ……気が重いけど行ってくるよ」
黒影をさすり、いつもより少しだけ遅く厩舎を出た。
『1ーA』
ドアの前でため息を一つ。『審判乃時』だ。
まぁ、どんな結果になろうとも僕の意思は変わらない。
そう自分に言い聞かせてドアを開けた。
――やばい! 間違った!
慌ててドアを閉める。
あれ? 間違った?
いや、プレートは僕の教室だし、位置的に間違えようが無い。
もう一度、改めてゆっくりとドアを開ける。窓際に見覚えのある顔。
間違いない、僕のクラスだ。
でも、昨日とはまるで様子が違う。何が違うって一目で分かる。違和感が半端ない。
『机が普通に並んでいる』んだ。
呆然とする僕を、目の前のクラスメイトが複雑な顔で見つめる。
「……おはよ」
「えっ!?」
慌てて後ろを振り向く。もしかしたら後ろに居る誰かに向けた言葉で、返事をしたら恥をかくパターンかもしれない。でも、誰も居なかった。
「お前に言ってるんだよ」
声を発したのは、狼牙蓮。
「A組は全員、お前のとんでもない野望に乗るそうだ」
そう言って、薄っすらと口元を緩めた。
クラスを見渡すと、皆が僕に向ける視線は今までとはまるで違う優しいモノだった。
「な、なんでいきなり……?」
これは罠なのか? 何故に突然?
「どうせ、反対されようモノなら決闘でもちらつかせようと思っていたんだろ?」
「うっ……」
狼牙の指摘はズバリだった。
僕はなんとしても、クラス長の座を手に入れようと決めていたから。
「大切なモノは、失ってから気づく。お前の想いが、それを気づかせたという事だ」
ゾディアックのせいで、大切なクラスメイトをなくした。
昨日今日来た人物じゃない。ずっと一緒に歩んできた友人。
その後悔は、多分僕が思ってるより深い。
「ほら、挨拶しろよクラス長」
「っ……! あっ、愛染です! 宜しくお願いします!」
まさかの展開にテンパった僕は、今更どうでもいい自己紹介をして頭を下げる。
「そんなの知ってるよー!」
「これからよろしくね!」
「一緒に頑張ろうね!」
優しい言葉と温かい拍手。
――この前泣き尽くしておいて良かった。
グッとこみ上げるものを感じ、そう思った。
「なんやなんや。えらい賑やかやん。新しいお友達でもできたんか?」
聞きなれぬ関西弁に顔を上げると、開け放たれたドアに寄りかかるように一人の女子が立っていた。
赤茶けたセミロング。制服の両袖を巻くったその姿からスポーティーな印象を受けるが、唇の隙間から覗く八重歯がちょっとだけセクシーな美人。
そして気付いたのは、クラスの雰囲気が一瞬で変わった事。
「おっ。君が噂の新入生やな! ウチは二年の針金円や、よろしく」
「あっ、愛染武です。よろしくお願いします」
差し出された手を握る。
言われて気付いた。彼女の制服、同級生のよりラインが一本多い。
だがクラスの雰囲気が変わったのは、彼女が上級生だからではない。
「蓮ちゃん久しぶりやなぁ。元気やったか?」
針金と名のったその上級生は、窓際の狼牙の席へ。
一見フレンドリーだが、当の本人は興味がなさそうにすましている。
次の瞬間、針金さんが放った一言に、教室中が息を飲んだ。
「で、ゾディアックの話考えてくれたん?」
彼女の言動とクラスの雰囲気から導き出される答えは一つしかない。
この女は生徒会――ゾディアックの一人だ。
「何度聞いても答えは同じだ。私は『そんなもの』に興味はない」
狼牙の一言に、張り詰めた空気が流れる。
「ははっ。相変わらずやな。ほな誰にしようか? 一山いくらのゴミばっかやけど――ゾディアックに成りたい人ー?」
クラスを見渡して、針金が挙手を促す。
誰一人手を挙げないその光景に、少し驚いた顔を見せた。
「お? なんや、生徒会に入れるんやで? クラス長はまだ決まってへんのやろ?」
「クラス長は僕です」
手を挙げた僕を見て「へぇ」と口元を緩めた。
その笑顔はどこか冷たく、八重歯が鋭さを増した錯覚さえ覚える。
「それが1ーAの総意ちゅうわけか――雌犬ども」
怒気を含んだ言葉で周囲を威嚇する。
その迫力は凄まじく、生徒会の強大さを物語っているようだった。
「おい。鐘が鳴るのだ。早く自分のクラスに戻れ」
子供先生の一言が、張り詰めた空気を一蹴する。
「おっ、恵っちやん。もうそんな時間かー。ほな戻るわー」
手をひらひらとさせながら教室を出て行く針金の姿に、クラス中が安堵する。
鐘の音が鳴り響いた後、子供先生がクラスを見渡して笑みを浮かべた。
「私達教員は、基本的に生徒の問題には関与しないのだ。たとえ目の前で公然とイジメが起きていても、だ。全ては生徒の自主性を育むため。これからも変わらず、私はお前らの問題には関与しないだろう。だが――」
そう言って何かを取り出すと、身長差をカバーするためのお立ち台から降り、右にちょっと動かしてまた乗った。お立ち台を移動させたのだ。
シュールな光景だが非常に萌える。そんな事を言ったらぶっとばされそうだが。
「お前らは、今までで一番良い顔をしているのだ」
――バン! と黒板の脇にたたきつけたソレは、
『クラス長 愛染武』
と書かれたプレートだった。
湧き上がる拍手に感じる、照れくささに負けず手を挙げた。
「どうしたのだ愛染?」
「えっと。僕はまだこの学園に来て間もないので、色々分からない事だらけです。それで、副クラス長みたいな、サポートをしてくれる人が居てくれれば力強いなって」
「まぁ、別に構わないだろう」
「そうですか。じゃあ、副クラス長に狼牙さんを指名します」
窓際からガタガタっと机が音を立てる。
驚いた表情の狼牙が声を上げた。
「なっ!? 私はそんな事聞いてないぞ! 断る! 却下だ!」
「ふむ。だが指名されてしまったのだ。意思を通したければ――」
子供先生の言葉に「やられた」といった表情で僕を睨む。
そう、文句があるなら力で示すしかない。
だけどそんな下らない事にいちいち手袋を投げつけるほど、僕達は子供でもないんだ。
「勝手にしろ……」
腕を組んで不機嫌そうに彼女は言った。
「ありがとう。じゃあそういう事だから、何かあったら狼牙さんに相談して下さい。僕には相談し辛い事もあると思うし」
いつも一人でいる彼女。
一人が好きなんだろうし、余計なお世話なのは分かってるけど、これで自然にクラスに溶け込めるはずだ。
「これから一体何が起こるのか僕には分からない。僕の所為で、皆が辛い思いをしたり、悩む事もあると思う。決して大人数のクラスじゃないけど、全員の小さな変化に気付けるほど人は優れちゃいない。だからせめて手が届く範囲、隣に座る友人の事は守って欲しい。そうすれば、きっと僕達は繋がっていく。もう――空席は作りたくないから」
今日初めて、クラスの心が一つになったような気がした。
いつもより入念に掃除をしたのは、黒影のご機嫌をとろうとしたわけではなく、緊張を紛らわせるため。
今日という日が、僕の学園生活を左右するほど重要な一日になりそうだから。
もしクラスメイトが僕に賛同してくれなかったら、背水の陣どころではない。
気付かぬうちに行方不明者として処理される可能性だってある。
「はぁ……気が重いけど行ってくるよ」
黒影をさすり、いつもより少しだけ遅く厩舎を出た。
『1ーA』
ドアの前でため息を一つ。『審判乃時』だ。
まぁ、どんな結果になろうとも僕の意思は変わらない。
そう自分に言い聞かせてドアを開けた。
――やばい! 間違った!
慌ててドアを閉める。
あれ? 間違った?
いや、プレートは僕の教室だし、位置的に間違えようが無い。
もう一度、改めてゆっくりとドアを開ける。窓際に見覚えのある顔。
間違いない、僕のクラスだ。
でも、昨日とはまるで様子が違う。何が違うって一目で分かる。違和感が半端ない。
『机が普通に並んでいる』んだ。
呆然とする僕を、目の前のクラスメイトが複雑な顔で見つめる。
「……おはよ」
「えっ!?」
慌てて後ろを振り向く。もしかしたら後ろに居る誰かに向けた言葉で、返事をしたら恥をかくパターンかもしれない。でも、誰も居なかった。
「お前に言ってるんだよ」
声を発したのは、狼牙蓮。
「A組は全員、お前のとんでもない野望に乗るそうだ」
そう言って、薄っすらと口元を緩めた。
クラスを見渡すと、皆が僕に向ける視線は今までとはまるで違う優しいモノだった。
「な、なんでいきなり……?」
これは罠なのか? 何故に突然?
「どうせ、反対されようモノなら決闘でもちらつかせようと思っていたんだろ?」
「うっ……」
狼牙の指摘はズバリだった。
僕はなんとしても、クラス長の座を手に入れようと決めていたから。
「大切なモノは、失ってから気づく。お前の想いが、それを気づかせたという事だ」
ゾディアックのせいで、大切なクラスメイトをなくした。
昨日今日来た人物じゃない。ずっと一緒に歩んできた友人。
その後悔は、多分僕が思ってるより深い。
「ほら、挨拶しろよクラス長」
「っ……! あっ、愛染です! 宜しくお願いします!」
まさかの展開にテンパった僕は、今更どうでもいい自己紹介をして頭を下げる。
「そんなの知ってるよー!」
「これからよろしくね!」
「一緒に頑張ろうね!」
優しい言葉と温かい拍手。
――この前泣き尽くしておいて良かった。
グッとこみ上げるものを感じ、そう思った。
「なんやなんや。えらい賑やかやん。新しいお友達でもできたんか?」
聞きなれぬ関西弁に顔を上げると、開け放たれたドアに寄りかかるように一人の女子が立っていた。
赤茶けたセミロング。制服の両袖を巻くったその姿からスポーティーな印象を受けるが、唇の隙間から覗く八重歯がちょっとだけセクシーな美人。
そして気付いたのは、クラスの雰囲気が一瞬で変わった事。
「おっ。君が噂の新入生やな! ウチは二年の針金円や、よろしく」
「あっ、愛染武です。よろしくお願いします」
差し出された手を握る。
言われて気付いた。彼女の制服、同級生のよりラインが一本多い。
だがクラスの雰囲気が変わったのは、彼女が上級生だからではない。
「蓮ちゃん久しぶりやなぁ。元気やったか?」
針金と名のったその上級生は、窓際の狼牙の席へ。
一見フレンドリーだが、当の本人は興味がなさそうにすましている。
次の瞬間、針金さんが放った一言に、教室中が息を飲んだ。
「で、ゾディアックの話考えてくれたん?」
彼女の言動とクラスの雰囲気から導き出される答えは一つしかない。
この女は生徒会――ゾディアックの一人だ。
「何度聞いても答えは同じだ。私は『そんなもの』に興味はない」
狼牙の一言に、張り詰めた空気が流れる。
「ははっ。相変わらずやな。ほな誰にしようか? 一山いくらのゴミばっかやけど――ゾディアックに成りたい人ー?」
クラスを見渡して、針金が挙手を促す。
誰一人手を挙げないその光景に、少し驚いた顔を見せた。
「お? なんや、生徒会に入れるんやで? クラス長はまだ決まってへんのやろ?」
「クラス長は僕です」
手を挙げた僕を見て「へぇ」と口元を緩めた。
その笑顔はどこか冷たく、八重歯が鋭さを増した錯覚さえ覚える。
「それが1ーAの総意ちゅうわけか――雌犬ども」
怒気を含んだ言葉で周囲を威嚇する。
その迫力は凄まじく、生徒会の強大さを物語っているようだった。
「おい。鐘が鳴るのだ。早く自分のクラスに戻れ」
子供先生の一言が、張り詰めた空気を一蹴する。
「おっ、恵っちやん。もうそんな時間かー。ほな戻るわー」
手をひらひらとさせながら教室を出て行く針金の姿に、クラス中が安堵する。
鐘の音が鳴り響いた後、子供先生がクラスを見渡して笑みを浮かべた。
「私達教員は、基本的に生徒の問題には関与しないのだ。たとえ目の前で公然とイジメが起きていても、だ。全ては生徒の自主性を育むため。これからも変わらず、私はお前らの問題には関与しないだろう。だが――」
そう言って何かを取り出すと、身長差をカバーするためのお立ち台から降り、右にちょっと動かしてまた乗った。お立ち台を移動させたのだ。
シュールな光景だが非常に萌える。そんな事を言ったらぶっとばされそうだが。
「お前らは、今までで一番良い顔をしているのだ」
――バン! と黒板の脇にたたきつけたソレは、
『クラス長 愛染武』
と書かれたプレートだった。
湧き上がる拍手に感じる、照れくささに負けず手を挙げた。
「どうしたのだ愛染?」
「えっと。僕はまだこの学園に来て間もないので、色々分からない事だらけです。それで、副クラス長みたいな、サポートをしてくれる人が居てくれれば力強いなって」
「まぁ、別に構わないだろう」
「そうですか。じゃあ、副クラス長に狼牙さんを指名します」
窓際からガタガタっと机が音を立てる。
驚いた表情の狼牙が声を上げた。
「なっ!? 私はそんな事聞いてないぞ! 断る! 却下だ!」
「ふむ。だが指名されてしまったのだ。意思を通したければ――」
子供先生の言葉に「やられた」といった表情で僕を睨む。
そう、文句があるなら力で示すしかない。
だけどそんな下らない事にいちいち手袋を投げつけるほど、僕達は子供でもないんだ。
「勝手にしろ……」
腕を組んで不機嫌そうに彼女は言った。
「ありがとう。じゃあそういう事だから、何かあったら狼牙さんに相談して下さい。僕には相談し辛い事もあると思うし」
いつも一人でいる彼女。
一人が好きなんだろうし、余計なお世話なのは分かってるけど、これで自然にクラスに溶け込めるはずだ。
「これから一体何が起こるのか僕には分からない。僕の所為で、皆が辛い思いをしたり、悩む事もあると思う。決して大人数のクラスじゃないけど、全員の小さな変化に気付けるほど人は優れちゃいない。だからせめて手が届く範囲、隣に座る友人の事は守って欲しい。そうすれば、きっと僕達は繋がっていく。もう――空席は作りたくないから」
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