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彼女のくすんだ瞳の理由
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『第一談話室』
翌朝、職員室を訪れた僕が「相談したい事がある」と子供先生に告げると、通されたのはプライバシーが守られた小さな教室。
顔に張られた絆創膏の下は、多分狼牙との決闘で出来た傷だろう。
ってか教員と決闘って言うのも色々おかしいし、ボロボロの狼牙とのギャップも凄い。
一体どれだけ強いんだこの人。
「で、相談とは何だ? そもそもお前はまだ入院が必要なはずだ。変態のお前がJKの匂いを恋しくなる気持ちも分かるのだ。それとも何だ? 灰名だけでは足りないと言うのか? 全く、食いしん坊万歳にも程があるのだ」
呆れた表情を浮かべながら子供先生が言った。
椅子に座りながら、地面に付かない足をぶらぶらとさせる仕草は一家に一匹欲しい程の愛くるしさ。
ってか一体何歳なんだ?
女性に歳を聞くのは失礼だと分かっているが、その非礼を命で償わされそうな気がする。
変態呼ばわりされているのは――もうどうでもいいや。
「立会人をお願いしたいんですが」
そう告げた瞬間、子供先生の顔が強張った。
「わざわざ言いに来ると言う事は密闘――相手は山棟蛇、か?」
「そのとおりです。僕が直接接触すると周りにバレてしまいますし、出来れば橋渡しもお願いしたいのですが」
「断る」
その眼力から放たれる、えもしれぬ威圧感。思わず息を飲んだ。
「――と言いたいところだが『教員たるもの、生徒から立会いを求められた場合はそれに応じなければならない』そんな規則があるからな」
「じゃあ――」
「うむ。段取りは全て私が請け負うのだ。だがな、今のお前じゃ――いや、仮にお前が無傷だとしても、アイツには絶対に勝てないのだ。今までみたいなふざけた闘い方じゃ尚更だ。決闘が始まってしまえば私は一切手出しできん。もしもお前が殺されそうになろうと――なのだ」
真剣な面持ちで、言い聞かせるように放ったその言葉。
決して脅かしではない事を、僕は痛いほど理解している。
「分かってます。それでも僕は彼女を――助けたい」
「助ける……だと?」
「はい。皆から聞きました。彼女がずっと独りぼっちで居る事、唯一心を開くのが生徒会長だけだと言う事も。どうして心を閉ざすのか僕には分からないけど、このままじゃダメだ、勿体無いって思うんです。生徒会長が卒業したら、彼女は本当の独りぼっちになってしまう。人間は一人で生きていけるほど強くない。僕が皆に支えられてここに居るように、彼女にも支えが必要だと思うんです」
「その支えに、お前がなると言うのか?」
「いや、僕が成れるかどうかは分かりません。だけど、きっかけを作るくらいなら出来ると思います」
あの暗い瞳。
このまま放って置くと彼女は完全に壊れてしまう。
生徒会長の為なら殺人をも厭わない、自分の感情を持たないロボット。
はたして生きていると言えるのだろうか。
そしてなにより、自分を慕う後輩にそんな事をさせる生徒会長が――気に入らなかった。
子供先生は大きく一息吐くと。
「あいつは虐待を受けていたのだ」
顔をしかめ、吐き捨てるように言った。
「虐待……ですか……?」
「ああ。だが暴力を振るわれていたんじゃない。ネグレクト――つまり育児放棄なのだ。あいつはな、親の愛情を知らずに生きてきたらしい。理由など、詳しい事は分からないがな」
「あいつの両親がこの学園に入学させたのも厄介払いの為だ。金さえ払えば文句も言わず預かってくれる。こんなに便利で都合のいい学園はないのだ。この十年間一度も連絡が来ないところをみると、自分の娘がどんな成長をしているのか、まるっきり興味が無いらしいな」
皮肉交じりに笑う。
その瞳の中、隠しきれない怒りを覗かせながら。
「もしあいつが入学したのが違う学校なら、もしかしたら今ほど心を閉ざしてはいなかったかもしれないな」
「それは、どういう事ですか?」
「私達もいろいろと手を尽くしたんだ。独りぼっちなクラスメイトを気にかける、お前みたいに世話好きな奴も居たのだ。だが、あいつは全てを拒絶した。ただ拒絶するだけなら、何度もチャレンジできるんだがな――」
その答えは明らかだった。
「決闘……ですか」
「うむ。あいつは自分に近寄るもの全てに決闘を申し込んだ。『私に関わるな』と。そして周囲を拒絶すると決めたあいつの覚悟は――とても強かった。それこそ命がけで闘うほどの覚悟を持たないと、話しかける事もままならん」
「でも生徒会長は勝った――ですよね?」
「うむ。あれは別格だ。あの美貌といい強さといい頭の出来といい、天は二物を与えないんじゃないのか? 忌々しいのだ」
子供先生の握った拳に力が入る。
生徒に向けてはいけない感情が見えた気がするが――僕は何も見てないし聞いていない。
空気を読むスキルは備わってるつもりだ。
「まぁ――そんな感じだが、お前がやると言うなら止めはしない。骨は理科室の標本にでもしてやるのだ。それで、約定は何だ? 性奴隷にでもするか?」
何だろう。
この学園に来てから、僕の想像してた『女性』という存在が音を立てて崩れていくような気がする。
「『ゾディアックを抜けて、僕の友達に成る事』です」
子供先生は少し驚いた顔をして、すぐに笑って頷いた。
翌朝、職員室を訪れた僕が「相談したい事がある」と子供先生に告げると、通されたのはプライバシーが守られた小さな教室。
顔に張られた絆創膏の下は、多分狼牙との決闘で出来た傷だろう。
ってか教員と決闘って言うのも色々おかしいし、ボロボロの狼牙とのギャップも凄い。
一体どれだけ強いんだこの人。
「で、相談とは何だ? そもそもお前はまだ入院が必要なはずだ。変態のお前がJKの匂いを恋しくなる気持ちも分かるのだ。それとも何だ? 灰名だけでは足りないと言うのか? 全く、食いしん坊万歳にも程があるのだ」
呆れた表情を浮かべながら子供先生が言った。
椅子に座りながら、地面に付かない足をぶらぶらとさせる仕草は一家に一匹欲しい程の愛くるしさ。
ってか一体何歳なんだ?
女性に歳を聞くのは失礼だと分かっているが、その非礼を命で償わされそうな気がする。
変態呼ばわりされているのは――もうどうでもいいや。
「立会人をお願いしたいんですが」
そう告げた瞬間、子供先生の顔が強張った。
「わざわざ言いに来ると言う事は密闘――相手は山棟蛇、か?」
「そのとおりです。僕が直接接触すると周りにバレてしまいますし、出来れば橋渡しもお願いしたいのですが」
「断る」
その眼力から放たれる、えもしれぬ威圧感。思わず息を飲んだ。
「――と言いたいところだが『教員たるもの、生徒から立会いを求められた場合はそれに応じなければならない』そんな規則があるからな」
「じゃあ――」
「うむ。段取りは全て私が請け負うのだ。だがな、今のお前じゃ――いや、仮にお前が無傷だとしても、アイツには絶対に勝てないのだ。今までみたいなふざけた闘い方じゃ尚更だ。決闘が始まってしまえば私は一切手出しできん。もしもお前が殺されそうになろうと――なのだ」
真剣な面持ちで、言い聞かせるように放ったその言葉。
決して脅かしではない事を、僕は痛いほど理解している。
「分かってます。それでも僕は彼女を――助けたい」
「助ける……だと?」
「はい。皆から聞きました。彼女がずっと独りぼっちで居る事、唯一心を開くのが生徒会長だけだと言う事も。どうして心を閉ざすのか僕には分からないけど、このままじゃダメだ、勿体無いって思うんです。生徒会長が卒業したら、彼女は本当の独りぼっちになってしまう。人間は一人で生きていけるほど強くない。僕が皆に支えられてここに居るように、彼女にも支えが必要だと思うんです」
「その支えに、お前がなると言うのか?」
「いや、僕が成れるかどうかは分かりません。だけど、きっかけを作るくらいなら出来ると思います」
あの暗い瞳。
このまま放って置くと彼女は完全に壊れてしまう。
生徒会長の為なら殺人をも厭わない、自分の感情を持たないロボット。
はたして生きていると言えるのだろうか。
そしてなにより、自分を慕う後輩にそんな事をさせる生徒会長が――気に入らなかった。
子供先生は大きく一息吐くと。
「あいつは虐待を受けていたのだ」
顔をしかめ、吐き捨てるように言った。
「虐待……ですか……?」
「ああ。だが暴力を振るわれていたんじゃない。ネグレクト――つまり育児放棄なのだ。あいつはな、親の愛情を知らずに生きてきたらしい。理由など、詳しい事は分からないがな」
「あいつの両親がこの学園に入学させたのも厄介払いの為だ。金さえ払えば文句も言わず預かってくれる。こんなに便利で都合のいい学園はないのだ。この十年間一度も連絡が来ないところをみると、自分の娘がどんな成長をしているのか、まるっきり興味が無いらしいな」
皮肉交じりに笑う。
その瞳の中、隠しきれない怒りを覗かせながら。
「もしあいつが入学したのが違う学校なら、もしかしたら今ほど心を閉ざしてはいなかったかもしれないな」
「それは、どういう事ですか?」
「私達もいろいろと手を尽くしたんだ。独りぼっちなクラスメイトを気にかける、お前みたいに世話好きな奴も居たのだ。だが、あいつは全てを拒絶した。ただ拒絶するだけなら、何度もチャレンジできるんだがな――」
その答えは明らかだった。
「決闘……ですか」
「うむ。あいつは自分に近寄るもの全てに決闘を申し込んだ。『私に関わるな』と。そして周囲を拒絶すると決めたあいつの覚悟は――とても強かった。それこそ命がけで闘うほどの覚悟を持たないと、話しかける事もままならん」
「でも生徒会長は勝った――ですよね?」
「うむ。あれは別格だ。あの美貌といい強さといい頭の出来といい、天は二物を与えないんじゃないのか? 忌々しいのだ」
子供先生の握った拳に力が入る。
生徒に向けてはいけない感情が見えた気がするが――僕は何も見てないし聞いていない。
空気を読むスキルは備わってるつもりだ。
「まぁ――そんな感じだが、お前がやると言うなら止めはしない。骨は理科室の標本にでもしてやるのだ。それで、約定は何だ? 性奴隷にでもするか?」
何だろう。
この学園に来てから、僕の想像してた『女性』という存在が音を立てて崩れていくような気がする。
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子供先生は少し驚いた顔をして、すぐに笑って頷いた。
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