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56話

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 「さて、どう動いてきますかね?」

 「ふむ、少々やりすぎたからなセイの周りには気を付けさせなければならんな」

 「そうですね。とりあえず一人にさせるのは一番危険ですね」

 「ああ、それで今はどうしておる?」

 「くっくっく…今は大丈夫ですよ」

 食事を終え応接室でハスクとハンスがセイジュに無駄な接触や引き抜き、さらには拉致や誘拐まで視野に入れはなしていたがセイジュの今を聞かれたハンスが苦笑しながらあたふたするセイジュを想像していた。

 「セイちゃん!先ほどのあれはなんですの?」

 「お母様やお姉さまにだけ渡して酷いわ!」

 「お母様!アメリアお姉さま!セイが怖がっておりますわ!!」

 「ですが!向こうにだけ…ん?アンジェちゃんの髪からさきほどのアレと同じ香りがしますわね?」

 「うぇ!?」

 「え?まさかアンジェちゃん…あなただけ…」

 セイジュの部屋にそのまま勢いよく乗り込んだカリーナとアメリアを必死にとめていたアンジェリーナだったが秘密がばれたかのように蒼い顔をし視線をそらした。

 「わ、私はセイの作ったものが大丈夫なのか試しただけで…」

 「ふ~ん…」

 「あ、あの…お母様、アメリアお姉さま…」

 「なにかしら?」

 「ひぃ!」

 ごにょごにょと言い訳をするアンジェリーナに二人が怒りをともした冷たい笑顔をうかべるとさしものアンジェリーナも短い悲鳴をあげ後ずさりしセイジュへと助けを求める目線を送った。

 「あ、あの…」

 「なにかしら?セイちゃん」

 「ひぃ!…あ、あのですね…あれは今ある材料で精いっぱい作った品なのですが」

 「ええ、そのようですわね」

 「お二人とアンジェリーナ様の分は帰ってから工房でちゃんとしたものを作ってお渡ししようと…」

 「え?ちゃんとしたもの?」

 「あれで完成品ではないのですか?」

 「ええっとですね、こちらの髪につけていただく物はあれで完成しておりますのでお二人の分もこちらに用意してあるのですが…湯あみの際に顔に塗るものは完全に納得したものをお三方にさしあげたくって…そのすみません」

 申し訳なさそうに瓶をひとつづつそれぞれカリーナとアメリアに差し出すセイジュに二人は驚きの表情を浮かべた後、満面の笑みでそれを受け取った。

 「いいえ!こちらこそ勘違いをしてしまってごめんないさいね!」

 「そうですわね!」

 「ええ!セイちゃんが私たちを除け者にするはずがありませんものね!」

 「ええ!お義理母様セイちゃんに限ってそのようなことあるはずがなかったのですわ!私たちつい焦ってしまってそのことを忘れておりましたわね!」

 「お三方にはこちらに来る前に日焼け止めが強いものをお渡ししてあったので帰るまではそれでと思っておりましたが…申し訳ありません」

 すこし取り乱しすぎたことを恥じながらも嬉しそうに謝罪する二人にセイジュが深々と頭をさげた。

 「いいのよ!帰ってからちゃんとしたものをくださるのよね?」

 「はい!それはこちらで作れる分はつくってあるので持ち帰って工房にある材料と混ぜるだけですから」

 「そうなのですね!流石セイちゃんだわ!私楽しみにしておりますわ!」

 「ありがとうございます!あ、代わりにとは言いませんがこちらを」

 「ん?これはなんですの?」

 「羽根扇子ですの?」

 「はい、この扇子の留め金部分にこの小瓶の液体をいれていただくとじわっと羽に浸透していきまして」

 「それでどうなりますの?」

 「失礼します、このように仰いでいただくと」

 「!!す、涼しいですわ!!」

 「ひんやりした風が!それにとても爽やかな香りも!すごいですわ!!」

 「細かい水分が蒸発するときに周りの熱を奪うので涼しく感じるので多少でも暑さを抑えれればと、それと乾燥も多少は防ぎハーブも入れてあるので」

 「セイちゃん!とても!とーっても素敵だわ!」

 「あ、ありがとうございます!たまたまお店で見つけた羽が非常に水分をため込む羽だったので、お気に召していただければ嬉しいです」

 「セイちゃん最高ですわ!ありがとうございます!!」

 「うわっぷ!」

 「アメリアお姉さま!!」

 感極まったアメリアがセイジュに抱き着くとアンジェリーナが我に返って必死に引き離そうとした。

 「こちらでつくれた香りが5種類だけですが、お三方分をつくれましたのでそれぞれお持ちくだされば嬉しいです」

 「まぁ!まぁ!まぁ!」

 「帰りましたらもう少し装飾などをした扇子とさらにいくつかの香りをご用意いたしますので」

 「んー!!セイちゃん!完璧ですわ!!」

 「で!ですから!お離れくださいぃぃぃぃ!!」

 嬉しそうにだきつくアメリアを渾身の力でアンジェリーナは引き離そうとした。

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 「そ、そうか、よくそのようなものを工房もないのにつくれたものだな」
 
 「あ、それは私の馬車に簡易式で持ち運びができる道具をもってきおりましたので馬車内でつくりました」

 「なぬ!そうであったか」

 「お父様、心配にはおよびませんわ。ちゃんと見張りの者と私がついておりましたので」

 「そうか…それならば安心だ」

 「セイ、明日にはここを立つが今日いまこの場からこの国をでるまで絶対に一人になってはいけないよ?」

 「え?わかりました。荷物もまとめ終わっておりますしあとは部屋で寝るだけですので」

 「部屋の前に兵をつけさせるが…」

 「セイ、今日は私と同室しよう。アンジェリーナはアメリアと一緒にいてくれ」

 「え!?」

 「アメリアがこちらにいるからアンジェリーナまでは手を出してこないとは思うが、一応用心のためだ」

 「どういう意味ですの?」

 「んー…」

 「セイちゃんがあまりに凄すぎたのであれこれと手を尽くしセイちゃんを手に入れてくる可能性があるという事…ですわよね」

 「アメリアには申し訳ないがその危険性がないとも言いきれないのが本音だね」

 「そんな!…でもそれで私になにが関係あるのですか?」

 「アンジェリーナをどうにかしたらセイに言うことを利かせられる可能性があるということだ」

 「なっ!」

 「まぁそれは考えすぎだとは思うがセイを手に入れたいというのは確実だろうね」

 「そうですわね」

 「色々驚きですが、まぁセイを手に入れたいと思う気持ちはわかります。ですがアメリアお姉さまは何故そのように冷静にご判断できるのですか?」

 「え?私はもうホルマトロ家の人間ですもの。この国からでてハンス様の元に嫁ぐと決まった時に覚悟をきめておりますしね、ですから王国とこちらの国が争いになった際は敵同士ですわ」

 「お姉さま…そこまでのご覚悟を…」

 「異国に嫁ぐとはそういうことですわ、それにホルマトロ家が私を蔑ろにしているなら裏切るやもしれませんが…相手が見知らぬ異国の地の公爵としか知らされていなかった時点でこちらの方々は話し合いもせず私をさしだした方々ですからね」

 「ああ、当初の予定ではエヴァ殿が相手の予定だったのだがアメリアをと強くおしてこられてな」

 「そういうことですので…こちらの家族よりむしろホルマトロ家のほうが私をずっとずーーっと大事にしてくださってるのですわ、ですから今はこちらの家族には感謝はしておりますがこちらを裏切り向こうにつくなどみじんもありませんわ」

 「アメリアお姉さま…」

 「アメリア様はお強いのですね」

 「強くなどありませんわ、正直ここで何かの問題がおき国同士の争いにならないかと不安でいっぱいですわ」

 「その時は私が必ず守るさ」

 「ハンス様…」

 「偉いわハンス…必ずアメリアちゃんをお守りするのよ?」

 「命に代えても!」

 「私もせっかくできた優しいお姉さまを悲しませたりなどしたくありませんわ!ね?セイ!」

 「そうですね、もしアメリア様になにかあれば必ずハンス様とともに僕もできるかぎりのことをさせていただくと思います」

 「アンジェちゃん、セイちゃんもありがとうございます」

 「こっほん!き、きめましたわ!」

 感動するアメリアを見て顔を真っ赤に染め覚悟を決めたかのようにアンジェリーナが立ち上がった。

 「どうしたのだ?」

 「お姉さまにはお兄さまがついてさしあげてください!」

 「ほー?では一応きくがセイのそばには誰がつくんだい?」

 「そ、それは!わ、わた、私が今日は一緒におりますわ!」

 「えぇぇ!?」

 恥ずかしがりながらもドンと胸をたたきアンジェリーナが宣言した。

 「アンジェ!嫁入り前の娘がなにを!」

 「よろしいんじゃなくって?」

 「カリーナ!」

 「アンジェちゃんも狙われる可能性があるのであれば一緒にまとまっていた方が守りやすいですし、手荒な真似をせずセイちゃんを落とすつもりなら色仕掛けしかありませんものアンジェちゃんがいるほうが安心ですわ」

 「そ、それはそうだが!」

 「お父様!いざとなったらセイが守ってくれますから大丈夫ですわ!」

 「い、いや何かあれば命に代えてでも必ずお守りはいたしますが、さすがに同室は!」

 「私と同室が嫌なのですか?」

 「いえ!そういうことではなくてですね!」

 「嫌でないのなら問題はありませんわ!」

 結局カリーナも味方になりおしきるようにセイジュとアンジェリーナが一夜を共にすることに決まった。
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