95 / 193
2章 学園生活
95話 校外学習(12)
しおりを挟む「これで一通り終わりましたね。
一度休憩をしましょう」
ふう、と一息をつく。もう時刻はとっくにお昼を過ぎていた。実は治療をしている最中に最初の女性が一度やってきて昼食と飲み物を置いて行ってくれたのだ。タイミングが付くまで、と後回しにしていたのだが、ようやく食べられるみたいだ。
用意されていたパンはすっかりと冷めていて硬くなってしまっている。間には申し訳程度の野菜と肉が挟まれていた。そして飲み物は淡く色づいたもの。これは飲んだことがないかも。
一角に用意された席に着くと、セイットが火魔法で軽く温めてくれる。
「セイットは火属性も使えたのですね」
「得意ではありませんが一応」
苦笑しながらセイットは教えてくれる。得意ではないというが、パンも飲み物も程よく温められていた。
「あの、なぜ包帯を変える際も治癒魔法をかけていたのですか?」
今なら大丈夫かと、ふと気になってきたことを聞いてみるとセイットはああ、とうなずく。気になることが分かっていたのだろう。
「けがをした直後に包帯を巻くと、傷口と包帯がくっついていることもありますからね。
治癒魔法をかけながらはがすことで痛みを軽減しているのです。
水で洗う時の理由も同じですね」
なるほど……。だから明らかに激痛であろう治療も皆さん暴れなかったのか。いつも以上に魔法を使ったからかお腹がすいていたようですぐにご飯は耐え終わってしまった。
「ここの皆さんはあと一度治癒魔法をかけたら、しばらくは安静にしていたら大丈夫でしょう」
「そうなのですね!
よかったです……」
「命の危機からは一応脱しますがけがを完治できるわけではありません。
この後どうなっていくかはこの方々次第ですね」
少し突き放すようにそういうと、よし! と気合を入れるように席から立ちあがった。
「あの、私は何を手伝えば?」
「そこで見ていてください」
それだけ言うと、セイットは一つ大きく息を吸って吐く。今まで上の集中した様子に私も緊張しつつ見守った。
「エリアハイヒール」
そうつぶやくと当時にセイットからあふれた光が部屋を包む。まぶしくて思わず目を閉じる。そして目を開けると光はもう収まっていた。横には荒く息をつくセイットがいた。
「少し休憩をさせてください……」
「何かもらってきますか?」
「いえ、大丈夫です」
それだけを言うと、また椅子に座ってうつむいてしまった。私はどうしたらいいんだろうか。ずっとセイットの指示をもらって動いていたのでこの状況だと動けない自分が何だか情けなかった。
12
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる