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「うわぁぁ!」
エントランスに入ると目の前に広がる本棚! すごい、こんなに広いなんて! 王宮の書庫も十分広いけれど、街にもこんなに大きな図書館があるなんて知らなかったわ。
「あはは、すごい瞳が輝いているよ。
さあ、フィーアが見たがっていたのはこっちのほうかな」
慣れたように案内してくれたラシェットさんの後ろをついていく。そこはずいぶんと人気が少なかった。そうよね、一般市民にとって貴族の家紋は領主様のものを知っていれば、あまり困らないものね。
「ありがとうございます」
お礼を言って、さっそく手当たり次第に見てみる。そこには様々な家紋とざっとした説明が書かれている。違う……これも違う。これも。
……あった、これ。これだ……! 本当に見つかった。えーっと、スリベリト家。短くついている説明に目を向ける。今はもうない家門、だ。
ほーーーと息を吐きだす。息と共に力も抜けていく。もうない家門、つまりあれは過去のことだ。つまり、私にできることは何もない。
いつの間にかだいぶ時間が経っていたようで、体は固まっていた。それにおなかがすいてきてしまった。案内をしてくれた後に別の場所に移動したラシェットさんをひとまず探そう。
いた場所を出て、図書館の中をうろうろとしてみる。でも、ここ広すぎるよ……。どこにいるのだろう。
「あ……」
適当に探しても見つけるのは難しそう。司書さんに政治関連の本が置いている場所を教えてもらおうかな。そう考えていた時だった。目の前の男の子から小さな声が上がった。私より少し年上くらいの子だろうか。
「それ……」
おずおずといった様子で、私が身に着けているポシェットを示す。それって、ポシェットのこと? 何が言いたいのかいまいちわからない。そのまま男の子の様子をうかがっていると、あの、その、と言い淀んでいる。そんな男の子に、周りにいる大人が困った様子を見せていた。
「そ、それ、どこに売っているの?
その、妹にあげたくて」
妹さん? えっと、つまりこの子はポシェットが売っているお店が知りたいってことよね。
「ことりの庭ってお店に売っているよ。
このピンもそのお店のものなの。
ミールフィ領の、ダゼリア通りにあるのよ」
気になってくれているのならしっかり宣伝しないと。にこり、と笑顔で答えると、その子はありがとう、とまた小さな声で答えた。そしてそのまま図書館を後にする。これはお店に来てくれる気がする。結局その子は私の顔をしっかりと見ることはなくて、一度も目が合わないことが小さな声の次に印象的だった。
「フィーア?
用事は終わったの?」
「あ、ラシェットさん。
はい、終わりました」
その子が去った後を見ていると、ラシェットさんが声をかけてくれた。よかった、入れ違いにならずに済んだようだ。
「出口の方を見てどうしたの?」
「さっき、このポシェットのことを聞いた方がいて。
お客さんになってくれそうだったのです」
「ふふ、フィーアは仕事熱心だね。
そろそろおなかすかない?」
「実はすいています」
「じゃあ、食べに行こうか」
言われて、先ほどよりもおなかがすいていることに気が付く。まだ小説のところを見られていないな、と出口の方を向いていた視線を後ろに向けると、食べたらまた戻ろう、と言ってくれた。それを聞いて安心して図書館の外に出た。
図書館をでて少し歩いた先には大通りがある。その中のカフェに入ると好きに頼んでいいよ、と言われて迷ってしまう。真剣にメニューとにらめっこして、グラタンを頼む。本当はイチゴをたくさん使ったケーキも食べてみたかったけれど、グラタンと一緒に食べるには量が多いもの。
「後はこれとこのケーキと紅茶、コーヒーも食後に」
私の注文の後にラシェットさんはそう付け足す。ケーキが2つに、飲み物も2つ? たくさん食べるんだな。
「ねえ、フィーア。
一つお願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
「そう。
フィーアが頼んだグラタン、おいしそうだから少しもらってもいいかな?
代わりにイチゴのケーキを食べてほしいな」
ラシェットさんの提案に思わず目を瞬かせる。え、でもそのケーキはラシェットさんが食べるために頼んだものだよね。……もしかして。
「ば、ばれていました?
私がケーキ食べたがっていること」
ちらっとラシェットさんのほうを見ると、ラシェットさんは優しく微笑んで何のことかな、と口にする。ああ、これ完全にばれていましたね。貴族として生きてきた記憶が濃くあるから、相手に感情を読み取らせないようにするのはそれなりに得意なはずなんだけれど。きっとそれほどラシェットさんに気を許しているということだし、ラシェットさんが私をよく見てくれているということ。なんだか恥ずかしいかも……。
だけど、ラシェットさんの気遣いのおかげで食べることができたケーキはとてもおいしくて、何度もお礼を言ってしまった。
そのあとはもう一度図書館に戻り、気になっていた小説を借りることができて、今日はラシェットさんのおかげでとても充実した休日を過ごすことができた。
エントランスに入ると目の前に広がる本棚! すごい、こんなに広いなんて! 王宮の書庫も十分広いけれど、街にもこんなに大きな図書館があるなんて知らなかったわ。
「あはは、すごい瞳が輝いているよ。
さあ、フィーアが見たがっていたのはこっちのほうかな」
慣れたように案内してくれたラシェットさんの後ろをついていく。そこはずいぶんと人気が少なかった。そうよね、一般市民にとって貴族の家紋は領主様のものを知っていれば、あまり困らないものね。
「ありがとうございます」
お礼を言って、さっそく手当たり次第に見てみる。そこには様々な家紋とざっとした説明が書かれている。違う……これも違う。これも。
……あった、これ。これだ……! 本当に見つかった。えーっと、スリベリト家。短くついている説明に目を向ける。今はもうない家門、だ。
ほーーーと息を吐きだす。息と共に力も抜けていく。もうない家門、つまりあれは過去のことだ。つまり、私にできることは何もない。
いつの間にかだいぶ時間が経っていたようで、体は固まっていた。それにおなかがすいてきてしまった。案内をしてくれた後に別の場所に移動したラシェットさんをひとまず探そう。
いた場所を出て、図書館の中をうろうろとしてみる。でも、ここ広すぎるよ……。どこにいるのだろう。
「あ……」
適当に探しても見つけるのは難しそう。司書さんに政治関連の本が置いている場所を教えてもらおうかな。そう考えていた時だった。目の前の男の子から小さな声が上がった。私より少し年上くらいの子だろうか。
「それ……」
おずおずといった様子で、私が身に着けているポシェットを示す。それって、ポシェットのこと? 何が言いたいのかいまいちわからない。そのまま男の子の様子をうかがっていると、あの、その、と言い淀んでいる。そんな男の子に、周りにいる大人が困った様子を見せていた。
「そ、それ、どこに売っているの?
その、妹にあげたくて」
妹さん? えっと、つまりこの子はポシェットが売っているお店が知りたいってことよね。
「ことりの庭ってお店に売っているよ。
このピンもそのお店のものなの。
ミールフィ領の、ダゼリア通りにあるのよ」
気になってくれているのならしっかり宣伝しないと。にこり、と笑顔で答えると、その子はありがとう、とまた小さな声で答えた。そしてそのまま図書館を後にする。これはお店に来てくれる気がする。結局その子は私の顔をしっかりと見ることはなくて、一度も目が合わないことが小さな声の次に印象的だった。
「フィーア?
用事は終わったの?」
「あ、ラシェットさん。
はい、終わりました」
その子が去った後を見ていると、ラシェットさんが声をかけてくれた。よかった、入れ違いにならずに済んだようだ。
「出口の方を見てどうしたの?」
「さっき、このポシェットのことを聞いた方がいて。
お客さんになってくれそうだったのです」
「ふふ、フィーアは仕事熱心だね。
そろそろおなかすかない?」
「実はすいています」
「じゃあ、食べに行こうか」
言われて、先ほどよりもおなかがすいていることに気が付く。まだ小説のところを見られていないな、と出口の方を向いていた視線を後ろに向けると、食べたらまた戻ろう、と言ってくれた。それを聞いて安心して図書館の外に出た。
図書館をでて少し歩いた先には大通りがある。その中のカフェに入ると好きに頼んでいいよ、と言われて迷ってしまう。真剣にメニューとにらめっこして、グラタンを頼む。本当はイチゴをたくさん使ったケーキも食べてみたかったけれど、グラタンと一緒に食べるには量が多いもの。
「後はこれとこのケーキと紅茶、コーヒーも食後に」
私の注文の後にラシェットさんはそう付け足す。ケーキが2つに、飲み物も2つ? たくさん食べるんだな。
「ねえ、フィーア。
一つお願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
「そう。
フィーアが頼んだグラタン、おいしそうだから少しもらってもいいかな?
代わりにイチゴのケーキを食べてほしいな」
ラシェットさんの提案に思わず目を瞬かせる。え、でもそのケーキはラシェットさんが食べるために頼んだものだよね。……もしかして。
「ば、ばれていました?
私がケーキ食べたがっていること」
ちらっとラシェットさんのほうを見ると、ラシェットさんは優しく微笑んで何のことかな、と口にする。ああ、これ完全にばれていましたね。貴族として生きてきた記憶が濃くあるから、相手に感情を読み取らせないようにするのはそれなりに得意なはずなんだけれど。きっとそれほどラシェットさんに気を許しているということだし、ラシェットさんが私をよく見てくれているということ。なんだか恥ずかしいかも……。
だけど、ラシェットさんの気遣いのおかげで食べることができたケーキはとてもおいしくて、何度もお礼を言ってしまった。
そのあとはもう一度図書館に戻り、気になっていた小説を借りることができて、今日はラシェットさんのおかげでとても充実した休日を過ごすことができた。
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