21 / 69
20
しおりを挟む次の日目が覚めると、まだ体が痛い。まあ当たり前だよね。少しぼーっとした後、ベッドを抜け出す。痛いとはいえ、昨日よりはだいぶ大丈夫そう。
昨日のクリスさんの様子を思い出すと少し緊張……。でも、今朝食を食べに行ったら皆に会えると思うんだよね。いそいそとクローゼットから服を取り出していると、扉をノックする音が聞こえてきた。まだ服を脱ぐ前だったこともあり、はーいと返事をすると部屋によく見かけるメイドが入ってきた。
「まあ、ベッドから出られていたのですか⁉
お体は?」
「まだ痛いところはあるけれど、平気です。
今朝食を食べに行ったら皆に会えますか?」
「ええ、今でしたら。
それでしたら身支度を整えてしまいましょうか」
「はい」
私が服を持っていることに気が付いたメイドは、それを着ましょうと言って服に合うリボンを選んでくれる。さっさと服を着替えて髪も整えてもらい終わったころ、侍従が部屋にやってきた。少し前にメイドが呼んでくれた人だよね。まさか……。
「僭越ながら、私が運ばせていただきます」
にこりと笑みを向けてきた侍従は軽々と私を抱き上げた。は、恥ずかしい……。私もう10歳だし軽くないと思うんだけどな。さすがに私よりも一歩が大きいこともあり、いつもよりも早く目的の場所に到着した。
「おや。
おはよう、フィーア」
「おはよう、目が覚めてよかったわ」
「おはよう、よく眠れたかい?」
「おはようございます、ブランスさん、リミーシャさん、ラシェットさん。
ご心配おかけしました」
侍従の人に椅子に下ろしてもらうと、朝食を食べる手を止めて3人が挨拶をしてきてくれる。それが嬉しくて挨拶を返していると、目の前に朝食が置かれていく。皆と別メニューで食べやすいものを用意してくれたみたい。
「本当に心配したよ、フィーア。
もうあのような無茶をしてはだめだ」
「そうよ。
一週間は安静にしているのよ」
「でも、お店が……」
「気にしなくていいのよ。
もともと私一人で回していたのだから」
「そう、ですか」
「そうだ。
それに、どうしても人手が足りないようだったら、ラシェットでも手伝いに行かせるからね」
「ええ、ええ。
喜んで手伝わせていただきますよ」
私が過度に気にしないようにだろう、そう言って気軽な雰囲気を作ってくれる。その優しさが嬉しくて、私も笑顔になる。
「お言葉に甘えてゆっくり休みます」
「……フィーア?
どうしたんだい」
「え……?」
「フィーア?
どうして泣いているの?」
近づいてきたリミーシャさんが私のほほに触れる。そこでようやく私は自分が泣いていることに気が付いた。あれ、私なんで泣いているんだろう。こんなにも皆温かくて、優しくて、幸せなのに。……、ああ、だからかもしれない。皆、私自身のことをこんなにも心配してくれているから。
「フィーア?」
「なんでも、ありません。
ありがとうございます、心配していただいて」
「そんなこと、当たり前だろう?」
当たり前、じゃないんだよ。それは。私、フリージアにとって、『神の目』というギフトを持った私たちにとって。ああ、最近この方たちにはこうやって泣かされてばっかり。
「もう、泣きながら笑って変な子。
さあご飯を食べてしまいましょう」
「はい」
愛情と気遣いが詰まった食事もとてもおいしかった。そのあと3人を見送って、そのあとは部屋に戻ってきた。私がご飯を食べている間に、退屈しのぎ用にたくさんの本が用意されていて、さすがに驚いた。
特に何も用事がなかったこともあり、本を手に取る。テーブルには自由に飲めるようにと飲み物も用意してくれている。ぱらり、と本をめくりながらたまに飲み物に口をつける。そうして本に集中していたはずなのに、いつの間にか本をめくる手が止まっていた。
頭の中をしめるのは、このギフトとどう向き合っていくのか、ということ。ギフトを隠したから、今私はここにいる。そして、幸せを享受している。ここでの生活はずっと、本当にずっと望んでいたことだ。でも、でも。私がギフトから逃げたことで傷ついた人がいる。亡くなった人がいる。この幸せは、その人たちを犠牲にしてまで手に入れていいものなの?
ギフトは神からの贈り物と言われている。それを受け入れないのは神への冒涜にあたるとも。だから、たとえ代々続いている家業があり、その嫡男に生まれたとしても、それがギフトを生かせないものであるならば難色を示されることはよくある。
アンナのようなギフトであれば、あまり何も言われないようだけれど。特に私のようなギフトは、逃げていることが知られたら問答無用で連れていかれる。何度考えても……それは嫌だ。やっぱり隠し続けるしかない? でも……。
だめ、思考が堂々巡りになっている。
ふぅーとため息をついて、用意してくれていた飲み物を手に取る。うん、おいしい。
少し不安なのは『鑑定』そして、『聖騎士』のギフト。その人たちにギフトを使われたら、私が『神の目』のギフトを持っていることが明らかになってしまう。とはいえ、それを避ける方法はないのだけれど。
今考えてもいい案は出なさそう。もう一度本に目を向ける。今度こそちゃんと読めそうだった。
4
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる