ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます

mio

文字の大きさ
32 / 69

31

しおりを挟む
 いつもはお店にいる時間、心の赴くままに出歩いてみる。買い物にもあまり出かけないけれど、センタリア商会の居候として、『ことりの庭』の店員としてこの辺りでかなり有名なようで。歩いているだけで次々に声をかけてもらえる事態になっていた。

「あら、フィーアちゃん!
 こんな時間に珍しいわね。
 というよりもこんなところに珍しいわね?」

「こんにちは、カエリアおば様。
 お休みをもらったので歩いてみようかなと」

「そうなのね。
 そうだ、これぜひ食べて行って」

 さあさあ、と手渡されたのはカエリアおば様のお店に飾られていた商品。カリッと揚げられた甘い生地に砂糖がまぶされたものだった。ありがたく受け取って代金を払おうとするとやんわりと断られてしまった。

「フィーアちゃんがおいしそうに食べてくれるだけで宣伝になるからね」

 にこりと笑ったおば様のたくましさに思わず笑ってしまう。それで役に立てるなら喜んで、とその場で口にしてみる。

「あつっ」

「そりゃそうよ。
 揚げたてだもの。
 やけどには気を付けてね」

おかしそうに笑うおば様をついじろりと見てしまう。やけどのことは口にする前に言ってもらわないと。ああでも、おいしい。おば様はこれをよく差し入れしてくれて大好きだけれど、揚げたてはまた違ったおいしさがある。

「おいしいです」

「だろう?」

 少しの間おば様と談笑してほかのお店にも顔を出してみると、なんだかみんなして私に食べ物を渡そうとしてくる。もうこれ以上食べられない! ってなってからようやく引いてくれたけれど。皆商売なのに……。

 ほかにもいろいろと見て回った私はすっかりとリフレッシュができていた。市場を抜けて、あの人と会うまでは。

「フィーア様、少しよろしいでしょうか」

「聖騎士様……」

 声に振り返る。そこにいたのは私は今日集中できなかった原因である聖騎士。ただ、今は象徴ともいえる鎧を脱いでいて、普通では気が付かないだろう。その目は、今まで見てきたような自信に満ち溢れたものではなく、こちらをうかがうような、自信がないような、揺れた瞳をしていた。

 どこに行くのだろうと不安になりながらも先を歩く聖騎士についていく。こちらを振り返ると困ったように笑った。

「そんな不安そうにしなくても大丈夫ですよ。
 私にとって、あなたの安全を守り、あなたの願いを叶えることが最上の喜びなのです。
 あなたの意に沿わないことはしません。
 それでも……、どうしても話をしたかった」

「そう、ですか……。
 でも何も話せないと思います」

「それでも、です。
 カフェに入っても?」

「はい」

 変なところに連れていかれるよりも、カフェのほうが人目があっていいよね。うなずくと、聖騎士は評判のカフェへと入っていく。いつもはかなり混んでいるのに、今日はスムーズにお店に入ることができた。中へ入るとじろじろと見られているような感じがしたけれど、気のせいだろう。

「何を頼みますか?」

「私は何も。
 ……ではこれを」

 断ってから、さすがに何も頼まないのはお店に失礼かと思い、目に入ったものを示す。それにほほ笑むとすぐに店員さんを呼んで頼んでくれた。

「まずは自己紹介を。
 私はフェルベルト・ランパークと申します。
 今代の『聖騎士』のギフトを授かっております」

「そうですか。
 私はフィーアと言います」

「……センタリア商会の奥方がそう呼んでいらっしゃいましたね。
 ですが、『神の目』は貴族のご令嬢しか持たないはず。
 あなたの本当の名を教えていただくわけにはいかないでしょうか」

「本当の名なんてありません。
 私はフィーア。
 家を出て、センタリア商会にお世話になっている平民です」

 変に期待しないように、わざときっぱりと言葉を紡ぐ。私はただの平民で、それ以上でもそれ以下でもない。私の様子にはっとした後に、口をつぐむ。それでも目は何かを言いたそうだけれど。

「ねえ、本当に言わないでいてくれるのですか。
 私のこと、国に」

「それがあなたの望みならば」

「そう、それが私の望みです。
 もうギフトに縛られたくない……」

 漏れた本音に慌てて口をつぐむ。これはこの人に言っていい言葉ではなかった。この人こそ、ギフトに縛られていると言っても過言ではないから。ギフトによって得られる力もだけれど、何よりも精神に、想いに作用している。

「そのような顔をしないでください。
 私は幸せだと感じているのですよ。
 人を守るための力を持ち、唯一の主と定める方がいるのですから。 
 『聖騎士』というギフトに縛られているとは感じていません」

「そうですか……」

 そう話した聖騎士の目は前世での聖騎士と同じように、私を敬愛の目で見てきている。何も関係性がなく、人となりすらわからないというのに。この人にとっては、やっぱり私は『神の目』のギフトを持つ人、にしかならないのだろう。

 この人は悪くない、それでも久しぶりに触れた感覚にどうしようもない気持ちになる。ああ、私はそれが嫌だったのだ。わかってはいたけれど、それを感じたのは今世ではこれが初めてだ。

「とにかく、私のことは放っておいてください。
 もう関わることはありませんから」

「そ、それは!
 難しいです……。
 だって私は」

 そのあとに続く言葉はわかる気がした。でも、だからこそ聞くわけにはいかない。帰る、と口にしようとしたとき、ちょうどテーブルに頼んだものが運ばれてきた。そのウエイトレスは私が知っている人で、料理を置きながらこちらを心配そうに見ている。

「何かあったら大声で叫んで」

 知らない男性に警戒してか、ウエイトレスはそう耳打ちしてくれた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...