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30:バニエルタ国王の視点
しおりを挟む「なぜ、見つからない!」
王の執務室に叫び声が響く。そこではバニエルタ王国国王が頭を抱えていた。執務室には王が信頼している人達しかいないゆえの姿だった。
「『聖騎士』は現れています。
彼の年齢を考えるとどこかにはいるはずです、『神の目』を持つ少女が」
「まだ10歳に満たないのかもしれませんよ」
「だが、もう見つかってもよいはずだ。
本当に10歳に達していなのならば、まだよい。
だが、見逃していたら……」
騎士団長たちがなだめる中、言い出しづらそうに宰相が口を開く。
「ここ数年、王妃陛下やパルシルク殿下のお茶会という名目で幼い令嬢を含めてたいていのご令嬢を王宮に招待いたしました。
そのたびに『聖騎士』に確認してもらいましたが、いまだ出会えていないそうです」
その言葉に場は再び沈黙が支配した。『聖騎士』と『神の目』を持つ少女の年齢差は通常5歳ほど。だが、今世の『聖騎士』はすでに20歳になっていた。今まで最大でも10歳差までしか確認できていなかったが、これはどういうことなのだろうかと、さすがに王宮でも焦りの声が聞こえてきていた。
「『神の目』を持つ少女はこの国にとって重要な人物。
このまま、いずれ現れるだろうと放置するには時間が経ちすぎている。
『聖騎士』すら現れていないのであれば、今はまだ時期ではないとあきらめがつくものの……」
「陛下……」
これについて各所から様々な意見が上がっていることを知っている王の旧友たちは同情のまなざしを向ける。後継者問題もいまだくすぶっているこの状況。王が頭を抱えるのも当然と言えた。
はー、と深いため息をつくと、王は国中に散らばる騎士団や貴族家に一つの命令を下すことに決めた。大々的な『神の目』を持つ少女の捜索、それに伴う『聖騎士』の派遣と受け入れ準備だ。同時に神殿にも協力してもらうこととなる。これで見つかればいいが……。そうは思うものの、心配は尽きない。
先代の『神の目』を持つ少女に何が起きたのか、比較的詳細に示された書が王家のみが入れる書庫の奥深くにしまわれている。王位を継ぐ際にそれを見た身としては、このまま少女が王家に関わらずに生きることを選んでしまうのではないかと考えてしまう。それを許容できないことが心苦しいが……。
「パルシルクはどうしている」
「相変わらず、ですね。
まじめに授業を受けてはくださいますが、周りがうるさいようで。
特に王妃陛下が」
「ああ、あやつも変わらないよな……。
ユースルイベは」
「ユースルイベ殿下はギフトのほうが落ち着いてきたようです。
マリアンナ殿下についても、体調が安定してきたようでして」
「それは何よりだな。
そろそろ、ユースルイベを戻さねばな。
あやつが考えていることはわからぬではないが、あらゆる能力、何よりもギフトからして決着はすでについているというのに」
「それでもあがきたいものなのでしょう」
はぁ、と部屋にいる人たちのため息が重なる。果たして平和に王太子指名を行えるのか、不安は尽きない。第一王子たるユースルイベ殿下のギフトが安定しないと行えないことであり、王城に強い後ろ盾がいないことが災いして第二王子の勢力が伸びてきている。
「ああ、そうだ。
妻に聞いたのですが、マリアンナ殿下が自身の針子候補を決めたようですよ」
「針子候補、か。
マリアンナももうそのような歳か」
「子どもが育つのはあっという間ですよ、陛下」
「そうだな」
実感がこもった声に苦笑が漏れる。子供たちとあまり一緒にいられない自分と違い、騎士団長は自ら時間をとって子と接している。その分実感しているのだろう。
「いずれにしても、『神の目』を持つ少女を早急に見つけなければいけませんね」
「ああ、そうだな」
ずれてしまった話をもとに戻してくれた宰相にうなずく。次世代の安定した治世のためにも必要なことだ。そして、少女自身のためにも。
「まずは用意を整え、『聖騎士』に話を通そう」
「はい、すぐに」
束の間の旧友たちの語らいも終わりにしなければ、とため息をつく。もうすぐ次の会議が始まってしまう。そして出ていこうとしたところで、あ、と宰相が足を止めた。
「そういえば、もうすぐユースルイベ殿下が戻ってくるようですよ。
自ら」
「……は⁉
それは先ほど話が出たときに言うべきではないか⁉」
忘れていました、としれっと言った宰相はそのまま部屋を出ていく。固まっている王を置いて。ほかの人たちもそれに倣って部屋を出ていったことで、王は部屋に一人になった。
「そうか、ようやく決心したか」
その声には王というよりも父親としての安堵がにじんでいた。
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