ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます

mio

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 次の日、あまり眠れなかったこともあって少し腫れぼったくなった瞼を心配されながら、私は軽くメイクをしてもらっていた。今日はラシェットさんの婚約者さんと会う日だ。屋敷の人たちも実際に会うのは初めてのようで、全体的にどこか浮かれた雰囲気が漂っていた。

 約束の時間になって、サロンへと向かう。まだラシェットさんたちは来ていないみたい。良かった。さすがに待たせるわけにはいかないものね。それから少しして、ラシェットさんたちがやってきた。

 ラシェットさんが連れている女性は線の細い、儚げな見た目の方だった。ぱっちりと開いた大きな目に、色素の薄い髪がかわいらしい方。この方がラシェットさんの婚約者の方。

「紹介するね。
 この方はアンフェルタ、婚約者だ。
 そして彼女はフィーア、妹のような存在だ」

「はじめまして、フィーアさん。
 アンフェルタと申します」

「は、はじめまして。 
 フィーアです」

 ちょっとぎこちないながらも、何とか挨拶を終える。三人とも席に着いたところで、お茶とお菓子が運ばれてきた。

「アンは体が弱くてね。
 今まで紹介できなくてすまなかった」

「いいえ!
 とても可愛らしい方で驚きました」

 にこ、と笑ってそういうと、アンフェルタさんはまあ、と嬉しそうにほほ笑む。その仕草一つとっても上品で、貴族令嬢と言われたら疑われないだろう。姓は名乗らなかったから、おそらく平民ではあるだろうけれど。

「私、フィーアさんのお話は聞いていたのです。
 ぜひお会いしてみたいと思っておりました」

「私の話、ですか?」

「ええ。
 ラシェットが楽しそうに話すのですもの。
 少し嫉妬してしまいました」

 嫉妬、という言葉に少し反応してしまったけれど、そう言ったアンフェルタさんはくすくすと笑っている。きっと本気の言葉ではないのだろう。けれど、ラシェットさんは気まずげにアンフェルタさんの名前を呼んだ。2人の間に流れる空気はとても柔らかいもので、2人はとてもお似合いに見えた。

「フィーアはこの屋敷で暮らしているから、アンがこちらに来たら仲良くしてくれ。
 男には話ずらい内容でも、女性同士なら話やすいこともあるだろう」

「あら、フィーアさんは今後もこの屋敷に?」

 ラシェットさんの言葉に、アンフェルタさんは少し驚いたような顔でそう答える。ラシェットさんはそんなアンフェルタさんにうなずいた。その様子に、やっぱり部外者の私がこの屋敷に居続けるのは迷惑なんじゃないか、なんて考えがよぎる。アンフェルタさんはラシェットさんの答えを聞いて、こちらに手を差し出してきた。

「嬉しいわ。
 私、妹が欲しいと思っていたの。
 これからよろしくね、フィーアさん」

 にこりとほほ笑んで、そうアンフェルタさんが言ってくれる。その様子に嫌な空気は感じない。それにどこかほっとしながら、私はその手を取った。

「よろしくお願いいたします、アンフェルタさん」

「あら、これから一緒に暮らすのだから、アンと呼んで? 
 親しいものは皆そう呼んでいるのよ」

「あ、アン、さん?」

「まあ、かわいらしい!」

 そう言ってアンさんはにこりとほほ笑む。疎ましく思われても仕方がないのに、心から歓迎してくれている様子が嬉しくて、そして申し訳なくなってしまった。

 少し会話をした後、アンさんはラシェットさんと共に部屋を出ていった。アンさんの部屋になる予定の部屋を確認して、住み始めるまでに必要なことの最終確認をした後にアンさんの屋敷まで送るんだそう。アンさんの背中に手を沿わせてエスコートするラシェットさんはとてもかっこよくて、そしてアンさんのことをいかに大切に想っているかが伝わってきた。

 部屋に戻るとさっそく、2人へのお祝いを考える。体が弱いと話していたから、ショールなんかがいいかもしれない。軽い糸で刺繍すればそこまで重くはならないはずだし。ラシェットさんにはスカーフとか。うん、後は2人の色をイメージして、色はお揃いで、刺繍は変えよう。デザインは……。

「フィーア様?
 昼食のお時間ですが……。
 って、何をやってらっしゃるのですか⁉」

 ついつい熱中してデザインを書き込んでいると、部屋に入ってきたメイドが驚いた声を上げる。あれ、もうそんなに時間が経ったの?

「あれほど仕事はしないで下さいと言ったのに!
 さあ、昼食を食べに行きますよ」

 ぷんぷんと起こったメイドがデザインを書き込んだ紙を片付けていってしまう。待って、それはまだ広げておいてほしいのに!

「これは仕事じゃないのよ!
 ラシェットさんとアンさんに何かお祝いを渡したくて、それで……」

「ラシェット様とアンフェルタ様に、ですか?」

 きょとん、と動きを止めたメイドにうなずく。これは決して仕事ではないから、今のうちにデザインを終わらせておきたかったのだ。今だったら時間が取れるから。

「そうでしたか……」
 
 そう呟いて、メイドは取り上げた紙を見つめる。そして優しい瞳でこちらを向いた。

「とても素敵なものができあがりそうですね。
 でも、まだ病み上がりなのです。
 無理してはいけませんよ」

「ええ、もちろん」

 しっかりとうなずくと満足したようで、デザインを返してくれる。ひとまずは昼食をちゃんと食べて、そうしたらまた続きを書こう。これがラシェットさんにできる唯一の恩返しだと思うから。

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