ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます

mio

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 どうしたらいいのかわからないまま、日常を過ごしている。今、アンさんは元気だ。だからすぐ何か起こることはない、と思う。それにあの時のラシェットさんは、今よりも年上に見えた。

 急にアンさんに診断を受けてください、というのもおかしい。それになんの病かはわからない。いつ発症したのかも。一度は行ってくれたとしても、今何もなければきっと
この話は忘れられてしまう。

 やっぱり、一番確実なのは……。

 考え事をしていると、急にガチャッ、と少し乱暴に扉が開けられた。このお店のお客さんにしては珍しい音に、ばっと顔を上げる。リミーシャさんも驚いたように扉の方を見ている。

「あれ、カエリアおば様……?」

 そこに立っていたのは、このお店の常連さん。もちろん、いつもはこんな荒々しく扉を開けることはしない。どうしたのだろう、と2人で目を丸くしていると、カエリアおば様は興奮したように告げた。

「王太子が指名されたよ! 
 とうとう、陛下の後継ぎが決まったんだ」

「王太子殿下が……?」

 きょとん、と反応が遅れてしまうのは仕方ないこと。今までずっと確定しなかった王太子が指名されたのだ。これで少しは安定してくれればいいのだけれど。

「まあ……!
 それで、どちらの王子が?」

「それがね、第一王子であるユースルイベ殿下が王太子になったのよ!」

「第一王子が……、そう」

 そう、なんだ。陛下は結局第一王子を指名したんだ。それならば、なぜ今まで指名しなかったのか、という疑問が残るけれど、そこはいろいろな事情があるのだろう。

「これで治世が安定するといいのだけれど」

「本当よね」

 話がひと段落してふと我に返ったのか、カエリアおば様は荒々しく扉を開けたことを謝ってきた。つい先ほどその話を聞いて、ついつい、とのこと。そんなおば様にリミーシャさんはいいのよ、とほほ笑みかけた。

 はたと、記憶を取り戻したばかりのときに参加した茶会を思い出す。あの時、第二王子として紹介されていた、豪華な服を着て、演技がかった笑みを浮かべていた幼い王子。気の強そうな母親の傍で笑っていたあの子は、結局王太子にはなれなかったのだ。

 今は、どうしているのだろう。

 そんなことを考えている間に、リミーシャさんたちは何やら盛り上がっているよう。実は第一王子の顔を知っている人はほとんど知らない。王太子に就く記念品をつくりたいのだけれど、と悩ましそうにしている。これはセンタリア商会で何かするつもりなのかな。

「陛下も、亡き王妃陛下も顔立ちがとても整ってらしたもの。
 きっと美しい方なのでしょうね」

「ああ、そうだね。
 王太子になられたからには、きっと私たちに顔を見せる機会もあるだろう。
 楽しみだね」

 にこにこと話し合う二人に、お店にいたほかのお客さんも嬉しそうに会話に参加している。その様子を見ると、いかに国民が立太子を望んでいたかがわかる。正直、第一王子も第二王子もあまり噂を聞かない。それはいい噂も、悪い噂もだ。だから、どちらがいいとか判断しようがないのだろう。

 そんな店内の様子を見ていると、お店の扉が開く音がした。出入口を見ると、少し久しぶりに見かけるルイさんの姿があった。ただ、いつもとどこか様子が違う。ゆるっとおろしていた髪を上げて整えているし、服装もいつにもまして高価そうなものを着ている。

 店内はいつの間にか静まりかえっていて、いつもと雰囲気が異なるルイさんに目を奪われているようだった。

「こんにちは」

「こんにちは、ルイさん。
 あの、今日はなんだかいつもと雰囲気が違いますね……?」

 私の言葉にルイさんは少し驚いたように目を開く。しかし、次の瞬間にはいつもと同じ微笑みを見せてくれた。

「似合わないかな?」

「え、いいえ!
 とても似合っていてかっこいいです」

「ありがとう」

 服装以外はいつも通り。最初はそう思っていた。でも、言葉を重ねていると、違和感が強くなってくる。何が、と説明はできないんだけれど……。

「リミーシャさん」

「は、はいっ!」

 これは、大人っぽい? いいえ、なんというか、貴族のようなプレッシャーをかけている気がする。やっぱりいつもと違う。そんなルイさんが、不意にリミーシャさんの名を呼ぶ。リミーシャさんにとっても不意打ちだったみたいで、少し声が上ずっていた。

「フィーアさんを連れてもいいですか?
 お仕事中だとわかってはいるのですが……」

 申し訳なさそうに言うルイさんに、リミーシャさんはこちらを見た。一体何の用だろうか。心当たりがなくて困惑しているが、それはリミーシャさんも同じようだった。

「フィーアがいいと言えば、こちらは大丈夫ですが」

 困ったのであろうリミーシャさんは、結局私に判断を任せてきた。私としては、リミーシャさんがいいと言ってくれるのならば、断る理由はないけれど。今度は私の方を向いた目に、ゆっくりとうなずいた。

「ありがとうございます。
 それじゃあ、行こうか」

 戸惑いながらも、ルイさんが差し出してくれた手を取る。優しく手を握ってくれたルイさんに、心臓が勝手に音を立てる。スキルを使ったときのような、血の気が引くものではない。顔が暑くなって、一気に緊張するようなもの。ふいに、アンさんに尋ねられたことを思い出した。

 ふわふわとした気持ちのまま、お店を出る。迷いなく歩いた先には一台の馬車が止まっていた。馬車は豪華ではあったけれど、家紋は特に入っていない。そんな馬車の隣に立っていた人物、その人が目に入ったとたん、それまでの浮かれた気持ちが一気に落ちた。

「なぜ、ここに聖騎士様が……?」

「それは後で説明するよ。
 まずは馬車に乗って」

「はい……」

 どうして、と問を重ねることもできないまま、ルイさんに促されて馬車へと乗り込む。馬車はルイさんの合図を受けて、静かに動き出した。

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