ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます

mio

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 馬車の行先は特に告げられなかったけれど、だんだんと見慣れた場所に向かっていることに気が付いた。

「もしかして、騎士団に?」

「正確には違うかな。
 目的地はその敷地内にあるけれど」

「敷地内に、ですか?」

 騎士団の敷地内に、騎士団以外のものがあるのだろうか? ただそれ以上は答えるつもりがないらしく、重たく感じる空気の中、馬車は順調に目的地に着いたようだった。

 目的地は確かに騎士団の敷地の中にあった。今まで越えたことがなかった門を抜けて、そのまま進んだ馬車はとある豪華な屋敷の前で止まった。その屋敷の前にはマリーさんが不安そうな表情で待っている。

「ここはもしかして……」

 お二人が暮らしている屋敷? どうして急に? それにどうして屋敷が騎士団の中に? 疑問は次々とわいてくるけれど、ルイさんはさっさと馬車を降りてしまう。そしてすぐにこちらに手を差し出した。エスコートを受けて馬車を降りると、すぐにマリーさんが近寄ってきた。

「何を考えていらっしゃるの、お兄様!
 急に帰ってきて、フィーアさんを迎える準備を、なんて」

「すまなかった、マリー。
 出迎えてくれてありがとう」

「んんん、聞きたいのはそうではないのですが。
 ひとまず中へ。
 応接室の準備は整っています」

「ありがとう」

 付いてくるように言われて、素直にルイさんの後に続くとマリーさんも共にやってきた。この状況はいまだに理解できていないけれど、どうやらマリーさんも一緒に来てくれるようでほっとする。今日のルイさんは知らない人みたいでなんだか怖かったから。

 やがて応接室にたどり着くと、席へと案内される。ようやく一息付けそうだった。

「あの、それで急にどうしたのですか?」

「そうですよ、お兄様。
 フィーアさんを急に連れてきたことだって、あの事だって……」

「それについては本当に申し訳ない。
 どうしても今日しか時間がとれなさそうだったから、急いでいてね。
 それでも、絶対に自分であなたを迎えに行きたかったから」

 そういって、ルイさんはまっすぐに私を見た。この「あなた」というのは、間違えなく私のことだろう。私を、迎えに?

「どういうこと、ですか?」

「それは今から説明しよう。
 そうだ、マリー。
 君も明後日戻ることになるから、準備をしておいで」

「明後日、ですって⁉ 
 そんな急に準備できるわけないわ。
 それに、私もここでの話し合いを聞きます」

 そう言い切ったマリーさんに、ルイさんは困ったような笑みを向けた。それでもマリーさんの決心は変わらないらしい。結局ルイさんは使用人にマリーさんの準備を言い渡し、マリーさん本人はここに残ることを許した。

 目の前には紅茶も準備されて、ようやく落ち着いた空気になる。やっと今日の行動の理由が聞けそうだった。

「そうだね、どこから話をしたらいいのか……。
 うーん……、まずは私のことから、かな。
 あなたに呼んでもらっているルイ、というのはいわゆる愛称みたいなものでね。
 正式な名ではないんだ。
 私の正式な名は、ユースルイベ・クアルゼット・バニエルタ。
 この国の第一王子であり、王太子だ」

 この国の、王太子……。ルイさんが? 私みたいな平民の相手をしてくれて、『ことりの庭』でいつもマリーさんへの贈り物に頭を悩ませていたルイさんが、王太子? どういうことか理解が追い付かない。どうして、王太子が、第一王子がこんなところにいる?

「マリー」

 静かにマリーさんに話しかける。横に座っていたマリーさんを見ると、マリーさんも驚いた表情をしている。その顔色は悪い。少しして、はっとした表情でこちらを見る。

「バニエルタ王国第一王女である、マリアンナ・クアルゼット・バニエルタ、と申します」

 立ち上がったマリーさんはきれいに礼をする。その肩はかすかに震えている気がする。一瞬置いた後、ばっとマリーさんは顔を上げる。その瞳は涙でぬれていた。

「決して、だまそうとしていたわけではないの!
 フィーアさんとの時間は本当に楽しくて、それで」

 マリーさんの言葉を聞いて、ようやく涙の意味が分かった。でも、彼女はそんなことを気にする必要はないのに。そもそも、私は怒っていないし。だから、私は大丈夫ですよ、とだけ答えた。

 マリーさんから視線を外すと、再びルイさんを見る。その表情は硬くて、何を考えているのかはわからなかった。

「君がどこまで知っているかわからないから、できるだけ丁寧に説明をしよう。
 私は第一王子として生を受けたが、まあ後ろ盾が不安定でね。
 母上は私が幼かった頃に亡くなり、そのあとに来た王妃には目の敵にされるし。
 あの方はあまり歳の離れていない弟を産んだから、余計に居心地が悪かった。
 すぐに立太子されなかったのが幸運だったのか、不運だったのか、それはわからない。
 だが、私が立太子されなかった理由はそれではない。
 この国の王には、とあるギフトを持っていることがよしとされた。
 私はそのギフトをもって生まれることとなったが、うまく制御ができなくてね。
 何度も苦しむこととなった。
 それを哀れに思ったのか、父がこの離宮で過ごす許可をくれたのだ。
 体が弱く、静かなところでの休養が必要と判断された妹と共にね。
 そうして、君と出会った」

 一度言葉を切り、私の方を見る。王に必要とされる、ギフト。その制御ができなかったという。そのギフトには心当たりがある。だが、私は一度もルイさんがそのギフトを暴走させているのを見たことがなかった。だから、気が付かなかった。

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