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しおりを挟むいまだルイさんの目は私からそらされない。マリーさんはルイさんの、あるいは私の言葉を静かに待っているようだった。
「ギフト……」
「そうだ。
あなたなら、心当たりがあるのではないかな。
それは『魅了』のギフト。
使いかたを間違えると、大惨事を引き起こすものだ」
やっぱり、と口にしそうになって慌てて口を閉じる。平民である私はその情報を知っているわけがない。でもまって。今、彼は心当たりがあるのでは、と言った。嫌な予感がする。だって、そもそもルイさんが私に正体を明かし、こうして話をしていること自体がおかしいのだ。私が、ただの平民ならば。
「どうして、私に心当たりがあると……?」
もう口の中が乾ききっていて、うまく口を動かせない。それでもゆっくりと言葉を紡ぐ。そんな私に、ルイさんはゆっくりと決定的な言葉を告げた。
「君は、『神の目』のギフトを持っているね。
フィーアさん。
いいや、フリージア・シュベルティー子爵令嬢。
2年ほど前、ギフトが分かる前にシュベルティー子爵家から消えてしまった令嬢。
それがあなただね」
どうして、という言葉は音になったのだろうか。もしかしたらギフトのことは知られてしまったかもしれないと、途中から、もしかしたら聖騎士様を見かけたときから予感がしていた。でも、まさか捨てたはずの名を告げられるなんて。そんなの予想すらしていなかった。
「フィーアさんが、『神の目』を……?
それに子爵令嬢って」
隣で、マリーさんのささやくような声が聞こえる。彼女は何も知らなかったのだ。そのことにどこか安堵する自分がいる。何も知らず、平民だと思って。それでも仲良くして、笑顔を見せてくれていたと信じられたから。
「いつから」
深呼吸をして、少しだけ落ち着いて。やっと音になったのはその言葉だった。
「疑問を抱いたのはいつからだったろうか……。
君がこの騎士団に手紙を届けるようになった頃かな?
どこかで見覚えのある字だと思ったんだ。
それから日を重ねていくごとに、私の中で結論が出て、最後は彼に確認した」
そういってルイさんが見たのは、壁際に控えていた聖騎士様。どこか気まずげな顔をしている。でも、王太子に問われてしまえばそれに逆らうことは難しいだろう。それはわかる。まだ、『神の目』を持つのが誰か聞かれていたのならば、ごまかせたかもしれないけれど、ルイさんはほとんど確信したうえで聖騎士様に私の名を出したのだろうから。
「そう、ですか」
覚悟は決めていたはずだった。屋敷に置いているあの作品を完成させたら、自分の足で向かうつもりだってあった。でも、でも、それは今ではなかった。今はまだ覚悟できていなかった。それに、こんなのって……。よりにもよって、ルイさんが王太子だったなんて。
言葉にできない感情に涙がぼろぼろとこぼれていく。この方たちとは、少しおこがましいかもしれないけれど、友人だと思っていた。最後まで友人でいたかった。ギフトとか、そんなのは関係のないところで結ばれた友人に。表情の裏を探らずに済むような関係になれると思っていたのに。
言葉を重ねられない私の前に、ルイさんは膝をつく。そして、やっぱりまっすぐに私の瞳を見つめた。
「フィーアさん……、いいや、フリージア嬢。
私と共に王城に来てほしい。
私の、婚約者として」
ルイさんの、いいえ、ユースルイベ殿下の婚約者。私はまた、王家の婚約者となるのか。また、私のギフトだけを必要とするあの場所に戻るのか。
「君のことを、何よりも大切にする。
過去のような思いはさせないから」
「過去の、ような……」
まさか、とユースルイベ殿下の顔を見る。その表情は相変わらず。この方はマゼリアとサラシェルト様とのことを知っていると……? いったい、どういう風に? 何も、分からない。でも、私の返事は初めから選択肢なんてない。断って、リミーシャさんたちに迷惑をかけるなんて、そんなことできるはずがない。
「私に拒否権はありませんよね。
わかりました、ユースルイベ殿下と共に王城へ行きます」
「フィーアさん!
どうして、どうしてこうなってしまうの⁉
だって、お兄様は……」
マリーさんの、マリアンナ殿下の悲鳴のような叫びが聞こえる。どうして、そんなに取り乱しているのだろう。もう、何もわからない。何も、考えたくなかった。だって、考えても変わらないから。
「フィーアさん!」
焦ったようなマリアンナ殿下の声が聞こえる。ユースルイベ殿下もこちらにやってくる。どうして、と思った後、理由が分かった。私は自分の体を支えられていなかったのだ。いつの間にかソファに全身を預けていた。そのまま、意識が遠のいていくのが分かる。
意識が閉じる最後、見えたのは今まで見てきたのと変わらないルイさんの顔。それは、もしかしたら私の願望がつくり出した幻想だったのかもしれない。
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