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そこからは手をつないで屋敷まで帰った。社交場では絶対にしないつなぎ方。恥ずかしいけれど嬉しいような、ふわふわとした気持ちで歩いていると、すぐに屋敷にたどり着いてしまった。
さすがにこのまま帰るわけにはいかないから手を離して屋敷へと入る。すると、すぐにリミーシャさんが出迎えてくれた。
「あら……、あら、そう。
良かったわ」
何も言っていないのに、こちらを見て数回瞬きをすると嬉しそうに笑った。なに、今ので何が分かったの。あわあわしているうちに今度はアンさんたちまで来るし!
「フィーアさん、その花冠!
よかった、本当によかったわ。
幸せにね」
アンさんはそう言って私に抱き着いてきた。そっか、花冠! あー……、でももう隠さなくていいかな。これをもらえたことは本当にうれしかったから。
はい、としっかり答えてアンさんに微笑みかけると、もう一度抱きしめられた。そのうちにアーフィルもやってきて、抱っこ! とせがまれてしまった。抱き上げたときの温かみと重みに少しだけ泣きそうになってしまった。
「ほら、2人とも疲れているのだからそろそろ解放してあげなさい」
ブランスさんのそんな一言にようやく私は解放される。ユースルイベ様はそんな私たちの様子を少し離れたところで見守っていた。
軽い夕食を部屋で食べて、そのあとはずっと2人で話をしていた。今までずっと言いたかったこと、言えなかったこと。すべてを口に出す。それはとても勇気が欲しかったけれど、その力を今日もらうことができたから。
私が『神の目』を通してではなく、自分自身を見てほしいと告げると、力強くうなずいてくれた。ギフトなんて関係ない、と。その言葉に私の中の何かが救われたような、そんな心地がする。
そして、ユースルイベ様が王太子として城へ戻る決心をしたのは、私がいたからだと言われたときには驚いた。私のギフトが思い至って、そんな私の対等になるためには王太子になるしかないと城に戻ったと。
それはつまり、フィーアであった私と一緒になりたいと願ってくれた、ということで。そこでようやくユースルイベ様は、ルイさんははじめから私という個人を見て、そして好きになってくれたのだと理解できた。そう、初めから怖がる必要なんてなかったのだ。
でもそれをこの数年間気が付けなかった。お互いに。ユースルイベ様だって怖がっていたのだ。無理に連れてきてしまった私から、明確な拒絶の言葉を聞くことを。
そうしてきちんと向き合ってこなかった。話し合えと、向き合えと、周りが言っていたことは本当にそうだったのだ。
ひとしきり反省した後は、これからのことを話しあった。何がしたい、どんな国にしたい、子供が欲しい。たくさん話して、そしていつの間にかそのまま眠ってしまった。目が覚めるとすぐそばにユースルイベ様がいて、さすがに悲鳴を上げかけました……。
―――――――――
「なんだか表情が明るくなったわね」
「そう、ですか?」
翌朝、一緒に朝食を食べようと誘ってもらえたので、リミーシャさんたちと一緒に食事の席に着くとすぐにそう声をかけられた。口にしたリミーシャさんもなんだか嬉しそうな表情だ。
「あーあ、せっかくフィーアが帰ってきたのに、結局ゆっくり話すことはできなかったな」
ラシェットさんがそう言って、わざとらしくユースルイベ様の方を見る。ユースルイベ様はそれを受けて謝っているし。
「まあでも、そんな嬉しそうな表情を見せられたらこれでよかったとも思うけれどね。
聞いてよ、フィーア。
この方から急に手紙が送られてきたんだよ。
花祭りの日に君に告白をしたいから、協力してくれって」
「わーーーーー!!!
ちょっと、ラシェットさん!!!」
「え……?
ユースルイベ様が、ですか?」
「フリージア!
君も聞かないで!」
「あはは、そうそう。
だからね、フィーア。
君はもっと自信を持っていいんだよ。
そしてもしこの方と一緒になったことを後悔するようなことがあれば、僕たちのせいにすればいい。
お膳立てした僕たちのせいだって、怒って帰ってくればいい。
いつでも歓迎するから。
ここも君の家だから」
ふざけた様子で笑っていたはずのラシェットさんが、いつの間にかひどく優しい目をしてこちらに微笑んでいた。その言葉にほかの皆もうなずいてくれる。
「ありがとう、ございます」
そう返すことがやっとだったけれど、きっとそこに込めた言葉以上の想いをこの人たちなら受け取ってくれたと思う。
そうしてゆっくりと食事をとったら、もう帰る時間が迫っていた。行きはデビュタントの夜会と花祭りの日が近すぎて強硬手段をとったけれど、帰りはもう少しゆっくりすることになった。だけど、あまり城を空けておくわけにはいかないので、こうしてあまりゆっくりできずに帰ることになったのだ。
帰り支度を整えていると、フェルベルトが部屋に入ってきた。見える場所にいたわけではないけれど、おそらくずっと護衛してくれていたはずだから全部見ていたのだろう。き、気まずい……。
「おめでとうございます、フリージア様」
「ありがとう、フェルベルト」
何と言ったらいいのかわからなくて、それだけを返す。フェルベルトは視線をさまよわせると、まっすぐにこちらを見た。
「どうか、幸せになってください。
そしてそれを傍で見守らせてくださいね」
「フェルベルト……。
うん、そうね。
きっと幸せになるわ。
今度こそは……」
「はい。
それだけが私の願いで、喜びです」
ああ、本当に。私の周りにはどうしてこんなにも優しい人が多いのだろう。この優しい人たちのためにも私はきっと幸せになろう。ユースルイベ様と一緒に。
さすがにこのまま帰るわけにはいかないから手を離して屋敷へと入る。すると、すぐにリミーシャさんが出迎えてくれた。
「あら……、あら、そう。
良かったわ」
何も言っていないのに、こちらを見て数回瞬きをすると嬉しそうに笑った。なに、今ので何が分かったの。あわあわしているうちに今度はアンさんたちまで来るし!
「フィーアさん、その花冠!
よかった、本当によかったわ。
幸せにね」
アンさんはそう言って私に抱き着いてきた。そっか、花冠! あー……、でももう隠さなくていいかな。これをもらえたことは本当にうれしかったから。
はい、としっかり答えてアンさんに微笑みかけると、もう一度抱きしめられた。そのうちにアーフィルもやってきて、抱っこ! とせがまれてしまった。抱き上げたときの温かみと重みに少しだけ泣きそうになってしまった。
「ほら、2人とも疲れているのだからそろそろ解放してあげなさい」
ブランスさんのそんな一言にようやく私は解放される。ユースルイベ様はそんな私たちの様子を少し離れたところで見守っていた。
軽い夕食を部屋で食べて、そのあとはずっと2人で話をしていた。今までずっと言いたかったこと、言えなかったこと。すべてを口に出す。それはとても勇気が欲しかったけれど、その力を今日もらうことができたから。
私が『神の目』を通してではなく、自分自身を見てほしいと告げると、力強くうなずいてくれた。ギフトなんて関係ない、と。その言葉に私の中の何かが救われたような、そんな心地がする。
そして、ユースルイベ様が王太子として城へ戻る決心をしたのは、私がいたからだと言われたときには驚いた。私のギフトが思い至って、そんな私の対等になるためには王太子になるしかないと城に戻ったと。
それはつまり、フィーアであった私と一緒になりたいと願ってくれた、ということで。そこでようやくユースルイベ様は、ルイさんははじめから私という個人を見て、そして好きになってくれたのだと理解できた。そう、初めから怖がる必要なんてなかったのだ。
でもそれをこの数年間気が付けなかった。お互いに。ユースルイベ様だって怖がっていたのだ。無理に連れてきてしまった私から、明確な拒絶の言葉を聞くことを。
そうしてきちんと向き合ってこなかった。話し合えと、向き合えと、周りが言っていたことは本当にそうだったのだ。
ひとしきり反省した後は、これからのことを話しあった。何がしたい、どんな国にしたい、子供が欲しい。たくさん話して、そしていつの間にかそのまま眠ってしまった。目が覚めるとすぐそばにユースルイベ様がいて、さすがに悲鳴を上げかけました……。
―――――――――
「なんだか表情が明るくなったわね」
「そう、ですか?」
翌朝、一緒に朝食を食べようと誘ってもらえたので、リミーシャさんたちと一緒に食事の席に着くとすぐにそう声をかけられた。口にしたリミーシャさんもなんだか嬉しそうな表情だ。
「あーあ、せっかくフィーアが帰ってきたのに、結局ゆっくり話すことはできなかったな」
ラシェットさんがそう言って、わざとらしくユースルイベ様の方を見る。ユースルイベ様はそれを受けて謝っているし。
「まあでも、そんな嬉しそうな表情を見せられたらこれでよかったとも思うけれどね。
聞いてよ、フィーア。
この方から急に手紙が送られてきたんだよ。
花祭りの日に君に告白をしたいから、協力してくれって」
「わーーーーー!!!
ちょっと、ラシェットさん!!!」
「え……?
ユースルイベ様が、ですか?」
「フリージア!
君も聞かないで!」
「あはは、そうそう。
だからね、フィーア。
君はもっと自信を持っていいんだよ。
そしてもしこの方と一緒になったことを後悔するようなことがあれば、僕たちのせいにすればいい。
お膳立てした僕たちのせいだって、怒って帰ってくればいい。
いつでも歓迎するから。
ここも君の家だから」
ふざけた様子で笑っていたはずのラシェットさんが、いつの間にかひどく優しい目をしてこちらに微笑んでいた。その言葉にほかの皆もうなずいてくれる。
「ありがとう、ございます」
そう返すことがやっとだったけれど、きっとそこに込めた言葉以上の想いをこの人たちなら受け取ってくれたと思う。
そうしてゆっくりと食事をとったら、もう帰る時間が迫っていた。行きはデビュタントの夜会と花祭りの日が近すぎて強硬手段をとったけれど、帰りはもう少しゆっくりすることになった。だけど、あまり城を空けておくわけにはいかないので、こうしてあまりゆっくりできずに帰ることになったのだ。
帰り支度を整えていると、フェルベルトが部屋に入ってきた。見える場所にいたわけではないけれど、おそらくずっと護衛してくれていたはずだから全部見ていたのだろう。き、気まずい……。
「おめでとうございます、フリージア様」
「ありがとう、フェルベルト」
何と言ったらいいのかわからなくて、それだけを返す。フェルベルトは視線をさまよわせると、まっすぐにこちらを見た。
「どうか、幸せになってください。
そしてそれを傍で見守らせてくださいね」
「フェルベルト……。
うん、そうね。
きっと幸せになるわ。
今度こそは……」
「はい。
それだけが私の願いで、喜びです」
ああ、本当に。私の周りにはどうしてこんなにも優しい人が多いのだろう。この優しい人たちのためにも私はきっと幸せになろう。ユースルイベ様と一緒に。
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