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四章 お買い物
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店を出てミハルトさんと別れた後、私たちもそろそろ帰ろうかという話になった。
帰る前に一人で一つ寄りたいところがあると言った兄様を、近くにあった雑貨屋さんで待つことにした。
1人になった私は再び日向さんのことを考えていた。
親戚連中の勧めで半強制的に婚約者になってしまったけど、なかなかうまくいっていたと思う。
日向さんはとても優しく、かっこいい人だった。
まあ、まだ私が幼かったというのもあり、婚約者というよりはお兄ちゃんだったけど……。
今頃は、きっと日向さんが次期院長として頑張っているのだろうな。
そこまで考えて、ふとランスと約束したことを思いだした。
危ない、危ない。
なんだか、雑貨屋に飽きてきてしまった。
ほしいものはもう買ってしまったしね。
そういえば、たしか外にベンチがあったはず!
そこで兄様を待とう。
沈んできた日を眺めながら、少しぼーとしていると、見知らぬおじさんがこちらにやってくるのが見えた。
なにか用かな?
「お嬢ちゃん、こんなところで一人でどうしたんだい?
迷子かい?」
そのおじさんがにた、と笑ってくる。
正直気持ち悪い。
「い、いえ。
お兄様を待っているので、迷子ではありません」
「でも、女の子がこんな時間に1人でいたら危ない。だろう。
おじさんとあっちで待っていないかい?」
あんたが一番危険人物だわ!と思いつつ、なんとか断ろうとするが、なかなかあきらめが悪い。
「ちっ。
いいから、来い!」
無理やり手を捕まれて、立ち上がるしかなかった。
手首が痛い。
このままどこに連れて行かれるのだろう、不安に泣きそうになったとき、おじさんの前に黒い風が通った。
そして、それは瞬きの合間に人の形になる。
「お嬢様の手を離せ。
さもないと、貴様の首が飛ぶことになるぞ」
感情を感じさせない声におじさんは、すぐさま逃げ出した。
誰だろう、この人。
助けてくれた、のかな?
「あ、あの、ありがとうございます。
あなたは一体?」
「ご無事ですか?
申し訳ございません、遅くなってしまいました。
私は今回、お二人の護衛を任されておりました、カジフと申します」
深々と頭を下げてくるカジフにどうしたらいいかわからず、タジタジしていると遠くから兄様の声が聞こえてきた。
「アーネ!
大丈夫かい?」
「あ、はい。
カジフさんが助けてくださったので」
「ああ、よかった。
ありがとう、カジフ」
「い、いえ、お礼など……!
実際、まにあってはおりませんでしたし……。
誠に申し訳ございません、お嬢様」
「あの、そんなに気にしないで?
それより、ずっとついていてくれたのですか?
全く気がつかなかった……」
「まあ、カジフはなんというかこっそりと対象を守るのが仕事だからね。
母様も、僕たちがなるべく自然に買い物を楽しんで欲しかったからカジフしかつけなかったのだろうし」
へー、という返事しかできなかった。
さすが、貴族とでもいうのだろうか?
「僕の用事も終わったし、帰ろうか。
ごめんね、一人にしてしまって」
「いえ、大丈夫です。
帰りましょう」
いつの間にかカジフさんはいなくなっていた。
帰りの馬車で、ふと手首がずきずきと痛む気がした。
恐らくあのおじさんに思いっきり握られたせいだろう。
兄様はこんなときもめざとく、私が手首を気にしていることにすぐに気がついた。
いや~、すごいわ、うちの兄。
おもむろに、私の手首を軽く握ると一瞬、白い光が辺りに溢れた。
すると、手首の痛みは引いている。
兄様はいたずらっぽく笑うと、光魔法だよ、と言った。
少しすると、馬車は屋敷へと着く。
今日はなかなか濃い一日だった……。
帰る前に一人で一つ寄りたいところがあると言った兄様を、近くにあった雑貨屋さんで待つことにした。
1人になった私は再び日向さんのことを考えていた。
親戚連中の勧めで半強制的に婚約者になってしまったけど、なかなかうまくいっていたと思う。
日向さんはとても優しく、かっこいい人だった。
まあ、まだ私が幼かったというのもあり、婚約者というよりはお兄ちゃんだったけど……。
今頃は、きっと日向さんが次期院長として頑張っているのだろうな。
そこまで考えて、ふとランスと約束したことを思いだした。
危ない、危ない。
なんだか、雑貨屋に飽きてきてしまった。
ほしいものはもう買ってしまったしね。
そういえば、たしか外にベンチがあったはず!
そこで兄様を待とう。
沈んできた日を眺めながら、少しぼーとしていると、見知らぬおじさんがこちらにやってくるのが見えた。
なにか用かな?
「お嬢ちゃん、こんなところで一人でどうしたんだい?
迷子かい?」
そのおじさんがにた、と笑ってくる。
正直気持ち悪い。
「い、いえ。
お兄様を待っているので、迷子ではありません」
「でも、女の子がこんな時間に1人でいたら危ない。だろう。
おじさんとあっちで待っていないかい?」
あんたが一番危険人物だわ!と思いつつ、なんとか断ろうとするが、なかなかあきらめが悪い。
「ちっ。
いいから、来い!」
無理やり手を捕まれて、立ち上がるしかなかった。
手首が痛い。
このままどこに連れて行かれるのだろう、不安に泣きそうになったとき、おじさんの前に黒い風が通った。
そして、それは瞬きの合間に人の形になる。
「お嬢様の手を離せ。
さもないと、貴様の首が飛ぶことになるぞ」
感情を感じさせない声におじさんは、すぐさま逃げ出した。
誰だろう、この人。
助けてくれた、のかな?
「あ、あの、ありがとうございます。
あなたは一体?」
「ご無事ですか?
申し訳ございません、遅くなってしまいました。
私は今回、お二人の護衛を任されておりました、カジフと申します」
深々と頭を下げてくるカジフにどうしたらいいかわからず、タジタジしていると遠くから兄様の声が聞こえてきた。
「アーネ!
大丈夫かい?」
「あ、はい。
カジフさんが助けてくださったので」
「ああ、よかった。
ありがとう、カジフ」
「い、いえ、お礼など……!
実際、まにあってはおりませんでしたし……。
誠に申し訳ございません、お嬢様」
「あの、そんなに気にしないで?
それより、ずっとついていてくれたのですか?
全く気がつかなかった……」
「まあ、カジフはなんというかこっそりと対象を守るのが仕事だからね。
母様も、僕たちがなるべく自然に買い物を楽しんで欲しかったからカジフしかつけなかったのだろうし」
へー、という返事しかできなかった。
さすが、貴族とでもいうのだろうか?
「僕の用事も終わったし、帰ろうか。
ごめんね、一人にしてしまって」
「いえ、大丈夫です。
帰りましょう」
いつの間にかカジフさんはいなくなっていた。
帰りの馬車で、ふと手首がずきずきと痛む気がした。
恐らくあのおじさんに思いっきり握られたせいだろう。
兄様はこんなときもめざとく、私が手首を気にしていることにすぐに気がついた。
いや~、すごいわ、うちの兄。
おもむろに、私の手首を軽く握ると一瞬、白い光が辺りに溢れた。
すると、手首の痛みは引いている。
兄様はいたずらっぽく笑うと、光魔法だよ、と言った。
少しすると、馬車は屋敷へと着く。
今日はなかなか濃い一日だった……。
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