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五章 学園生活 1‐1

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 熱を出した日の深夜、熱はなかなかひいてくれなかった。
 体内に渦巻くものは少しずつ体外に出していったため、薄くなってきている。
 ベンネが持ってきておいてくれた飲み水をベッドのサイドテーブルからコップに注ぎ一口飲む。
 もう冷たくはなかったが、それでもおいしかった。
 なんだか久しぶりに何かを口にした気がする。
 まだまだボーっとする頭を抱えて、もう一度ベッドにもぐりこみ、きらきらとしたものを手に目をつむった時だった。
 ずっと手に持っていたそれが甲高い音を立てて割れたのは。

 パリンッ

 その音はかすかなもので、茫然としてしまったが、すぐに手に痛みを感じる。
 どうやら、破片で手が切れてしまったようだ。
 確かに、なんだか熱を持っているような、とは思っていたが、まさか割れるとは……。
 これ、どうしたらいいんだろう?
 手もどうにかしないとだし、ああ、頭が働かない。
 もうあきらめて寝てしまおうか、そう思っていると扉をノックする音が聞こえてきた。

「アーネ、入るわよ」

「おかあ、さま」

 すっかりかすれてしまった声で母様のことを呼ぶ。
 本当にひどい声だと自分でも苦笑してしまう。
 電気をつけるわね、と声をかける母様にうなずく。

「ああ、やはり割れてしまったのね。
 手もこんなに切れて……。
 今治すわ」

 そっと破片をどかして、血まみれになってしまった私の手を軽く握るとそこだけが光に包まれた。
 すると、徐々に痛みが引いていく。

 大体の治療が済むと母様は一度、部屋から出ていった。
 戻ってきたときには、母様の手には包帯などがあった。
 手早くそれを私の手に巻いていく。

「魔法で治ったように見えてもね、実はそうではないのよ。
 魔法はあくまでも治療の助けをしてくれるだけなの。
 まあ、母様の魔法は少しほかの人とは違って、実際に治療もできるのだけど……。
 今のアーネには少し怖いかな」

 そういって困ったように母様は笑った。
 そういうもの? と思うが、何か話す気にはなれない。

 ひととおりの治療が終わると、再び扉をノックする音が聞こえてきた。
 
「失礼いたします」

 入ってきたのはベンネ。
 手のお盆には、新しい水とか、例のものとかが乗っている。
 そして、タオルと変えてもらったり、着替えをしたりした。

「何か召し上がりますか?
 朝から何も口にされていないので……」

 心配そうにこちらを見るベンネに少し申し訳なくなりながらも首を横に振った。
 今はそんな気にはならない。

「では、何かありましたら遠慮なくおよびください」

 そして、母様とベンネはともに部屋を出て行った。
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