空回りばかりの思い、その先は

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番外編: 麻木の気持ち(後) (麻木視点)

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    初めはこれで僕らの長年の夢へ大きく近づく、と僕もわくわくとしていた。
    だが、実験の度に大きな叫び声をあげて気絶している鷹華に僕はだんだんと耐えられなくなっていった。

    これは本当に正しいやり方だったのか、本当にこのまま続けていくきか、連日立川に問いかけるも、これが正しい、このままやる、の一点張り。
     とうとう鷹華は一日のほとんどをぼーっと過ごすようになってしまった。

「ねぇ、鷹華?
    ずっと不思議だったんだ。
    どうして君はこんな実験の被験者をしているんだい?」 

    ある日、思わず僕は鷹華に問いかけていた。
    鷹華はゆっくりと虚ろな瞳を窓の外からこちらへと向けると、じっと僕の顔を見つめた。

「親が、立川さんに借金をしたそうです。
    それが返せなくなり、それで無理やり......」

    その言葉を聞いて、僕は目を見開いた。
    僕はあくまで実験の内容をある程度は把握して、同意の上、この実験を行っていると思っていたのだ。
    それまでギリギリに保っていた、この実験への思いがここで完全に途切れたのを確かに感じだ。

「鷹華、待っていて。
    必ず助けるから」

    彼女を助けるには実力派行使しかない。
    そんな決意を胸に思わずつぶやいたその言葉に、鷹華はキョトンとこちらを見ていた。

   その日からはかなり忙しくなった。
   まず、立川にバレないところに家を借りなければいけない。
    そして、お手伝いと料理人という最低限の使用人も欲しい。
    
     とある人に連絡をとると、まず乳兄弟の奏子、そして知り合いの息子を紹介してくれた。
    新居も決まり、ようやく鷹華が安心できる場を提供することができるようになり、僕は鷹華をあそこから連れ出した。
 
     そして、今の屋敷に連れてきたのだ。

「今日からここで一緒に暮らそう。
    ここではあの実験をしなくていいんだよ」

     家に着き、お茶を入れてもらって。
     一息ついた時にそう伝えると、鷹華はその瞳から涙をこぼした。

「本当、ですか......?
    本当にもうあの実験を受けなくていいのですか......?」

「......ああ。
    ここで僕と奏子と悠斗、ゆっくりと暮らそう」

    鷹華は泣き疲れてしまったのか、そのまま眠ってしまった。
    そんな無防備な姿を見たのはもしかして初めてかもしれなかった。


「あ、あの......」

   どこか気まずそうに鷹華が僕のことを尋ねてきたのは、次の日のことだった。

「どうしたんだい?」

 「その、何か麻木さんのお役に立ちたくて。 
    ......そうだ!
    こちらで働かせてはくれませんか? 」

     いいことを思いついた!と言いたげに鷹華がそう言ってくる。
     どうして彼女は酷いことをした僕にそうやって接せるのだろうか?

「これは僕の罪滅ぼしみたいなものだ。
    もちろんこんなことでできるとは思ってはいないが......。
    だから、何もしなくて大丈夫だよ」

「罪滅ぼし......?
    でもそんな訳にはいきません!
    お願いします、ここでメイドをさせてください」

   必死な理由はわからないが、譲らない彼女に折れたのは僕の方だった。

「わかったら、そこまで言うなら任せるよ」 

   そういうと、一気に彼女は顔色を明るくさせた。

「はい、よろしくお願いします!
   えっと、ご主人様!」

「ご、ご主人様......!?
   それはやめてくれ」

   そう訴えてもなぜかそれだけは聞いてもらえず、結局鷹華はずっとそう呼んでくる。
    それでも今はそれもすっかりと慣れてしまった。
    この、穏やかで優しい時間がいつまでも続いてくれれぱいいのに。

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