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5章 視察(下)
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しおりを挟む「あの、アシュート領には何があるのですか?」
恐る恐る聞いてみる。連れていくことを迷った、とかそんなことを言われるような土地なんでしょう? 少し怖いというか。
「白爛石、というものをご存じですか?」
白爛石……。聞いたことがあるような、ないような? シントもあまりわからなかったようで、隣で首をかしげている。なんだっけな、白爛石。
「白爛石とは、その名の通り白く煌めく石のことです。
宝石とはまた違った輝きを持つこちらは、他国からも注目を集めています」
いいながらダブルク様が何かを取り出す。これが白爛石……。確かに、とてもきれいだ。石に薄い膜でも張っているかのようで、虹色に輝いている。でもこれ、どこかで見たことがあるような?
「あの、これがどうしてそんなに警戒されているのですか?」
思わず口をはさむ。すると、ダブルク様は順番に説明しますから、といった。その言葉に僕もシントも口を閉ざした。
「もうお察しかとは思いますが、今から行くアシュート領はこの白爛石の産地です。
国として、他国にも優位に立てるほど上質な白爛石がそこではとれる。
もちろん、一大事業として、白爛石の採掘が進められてきました。
そして、白爛石がアシュート領を超えて、アルフェスラン王国の名産として知られてきたころ、ある問題が発生したのです」
そこで一度話を区切る。アルフェスラン王国の名産、白爛石……。あ、わかった、どこで聞いたのか。ラルヘの時だ。隣国で何やら新しい特産ができて、それに他大陸の王たちも注目しているとあって、皇国内では警戒の対象だったのだ。それに一度だけ、見たことがある。本当にたまたまだったけれど、皇家に献上されたのをみたのだ。よかった、見たことがあるって口にしなくて。
「あの、その問題とは?」
「目には見えないため認識が遅れたのですが、これを採掘するときにほかの鉱石にはない何か、が発生するようなのです。
それが何かはいまだに解明はされていませんが。
それにより、急に体調不良を訴えるものが続出しました」
体調不良。その発生したという目に見えない何かは、毒のようなものということ?
「それまでは健康だった人が、ある日いきなり激しい咳をし、そして血を吐くようになるのです。
白爛石採掘に深く関わっていたものは例外なく、この病に倒れたと言います」
血を? なんだか思っていたよりも、悲惨な話なのでは……。まさかこんなにもきれいな石の裏にそんな過去があったなんて。
「それで、どうなったのですか?」
「これは、人から人に移る病ではない、と言われています。
そして、ある一定以上体内に入れなければ発症することもない。
問題は、いつ、どれくらい体内に入っているのかを認識できないという点ですが。
そのため、生涯における採掘時間を定め、それに従ってほそぼそと今でも採掘が続いています。
そのため、異様に高価になっているのですが……」
「採掘が続いているのですか!?
そんな事件が起きた場所なのに!」
「採掘時間を厳密に設けてから、その病に倒れるものは居なくなったと言いますから、そこは安心してください。
それで、ですね。
今回、お二人にはこの白爛石の採掘場にもついてきていただこうと考えております。
ですから、何か体調に異変が起きたら、すぐに言ってください」
なるほど、これはダブルク様が警戒するわけだ。僕たちをそこに連れて行かなくてはいけないなんて、ダブルク様にとっては嫌な話だろう。でも、せっかく見てもいいと言われたのだ。きっと今回を逃したら一生見ることはないだろうし……。
「わかりました。
機会を下さり、ありがとうございます」
そういうと、いいえ、という。下げていた頭を上げると、ずっと固い顔をしていたダブルク様がようやく微笑んでくれていた。
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