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5章 視察(下)
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しおりを挟む鉱山から帰ると、自分に与えられた部屋に戻る。まだ遅い時間ではないが今日は疲れただろうということで、もう休みなったのだ。シントには久しぶりに魔法を使おうよ、と誘われたが断ってしまった。理由は一つ。あの鉱山についてゆっくり考えたかったからだ。
あの鉱山の懐かしい感じ。あれは確かに『ラルヘ』の故郷にあった祭壇のようなものと同じ素材だ。近づいたときの感覚が同じだった。本当に昔の記憶だから、詳しく覚えているわけではないけれど、でもあの感覚は忘れていなかったみたいだ。
じっと見つめる手のなかにあるのはあの鉱山の一部。頼み込んで少し持って帰らせてもらったのだ。かけらとなったこれからは特に吸い取られる感覚はない。あの大きさを保つ必要があるのだろう。
白爛石が発見されたのが今から約150年前。つまり故郷を追いやられて十数年後といったところか。タイミングが良すぎる。そうなるとつい考えてしまうのが、白爛石は本当に初めからあそこにあったのだろうか、ということだ。何となくだが、違う気がする。
あの祭壇のようなもの、本当におぼろげな記憶なので確信はないが、確か吸い取った力を誰か、おそらくメルケリアース神に受け渡していた気がするのだ。だから、毎日訪れなければいけないよ、と。だが、故郷を追われてからはもちろん訪れていない。もしも、あの受け渡していた力が本当に必要なもので、それを僕の故郷が果たせなくなったからここに作ったらなら。
それなら、白爛石はきっと生命力を分けてもらうお礼、そしてあの鉱山に足を運ばせるための案なのだろう。もしこの考えがあっているならば、おそらくあそこにはもともと白爛石はなかったのだろう。そして、白爛石が本当にここだけしか取れないのならばここから集められる力で足りている、ということだろう。今は健康を害することが基本はないということだったから、お互いに利があっていいこと、だよね?
それにしても、本当にあの鉱山は初めからあそこにあったのか少し気になる……。知ったとこで何かできるわけでは決してないのだけれど。
うーん、と頭を悩ませていると扉がノックされる。ヒデシャルテ様がこちらを心配して訪ねてくれたようだ。……、そういえば最近ダブルク様をあまり見かけていない気がする。もちろん視察の時は一緒にいるのだが、それ以外で訪ねてくる頻度が今回は減っている。まあ、慣れてきただろうと、ようやく目を離せるようになったのかもしれないけれど。
「体調は大丈夫ですか?」
「はい!
具合が悪いわけではないので、大丈夫です」
それは良かった、と答えた後に僕の手の中のものに気が付いたようだ。
「それは持ち帰った鉱山の一部、ですか?」
「はい。
……あの鉱山自体も、ほかでは見かけない色ですよね。
あんなに白い鉱山もあるんですね」
「確かに珍しいかもしれないですね」
これはこのまま聞いてみてもいいかもしれない……。今ならそんなに怪しまれない流れで聞ける気がする!
「あそこは初めからあんなに白かったのですか?
外から見ると、そこまではっきり白い、と見えるわけではないかもしれませんがやっぱりほかの山とは見た目が違うので気になって」
「初めから、でしょうか?
さすがにわかりませんが……。
そうだ、確かずっと前の当主が書いたという日記が残されているんです。
その人はこの領を愛して、領内のいろんなことを書き留めていたそうですから、なにかわかるかもしれません」
見ますか? と言ってくる。え、でもそれってかなり重要なものなのでは?
「見ても、いいのですか?」
恐る恐る聞いてみると、ええ、といい笑顔で答えてくれた。本当にいいのかな? という思いは残るけれど、お言葉に甘えてしまおう。
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