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5章 視察(下)
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しおりを挟む「急だけれど、明日ここを立つことになりました」
え……? 本当に急だ。本来なら後三日はここに滞在するはずなんだけれど、その間にやる予定だった視察はどうするんだ?
「今日までにすべての視察を終わらせる予定ですので、皆さんは荷物をなるべく早くまとめておいてください」
朝一での朝食の場でのダブルク様の急な発言、かなり衝撃的だと思うんだけれど、特に動揺は見られない。皆さん返事をして、すぐに行動に移った。見たところ動揺しているのは僕とシントくらいだ。たぶんもともとそうなるかも、とさすがに聞いていたのだろう。
「ね、どうして急に予定を変更したんだろう」
「うーん、僕も何も聞いていないからな……」
まあ、察しはつく。でもダブルク様がこちらに隠しているうえに確信はないから、わざわざ口に出す必要はないだろう。
「とにかく、早く片付けちゃおうよ」
「うん。
といってもあまり荷物もないけれどね」
確かに。僕もシントもあまり散らかす方ではないし、そもそも荷物が多くない。もちろんすぐに片付けは終わった。今日は一日休むように、と言われているからこの後暇なんだよね。うーん。
どうやって時間をつぶそうか、と考えているとノックの音が聞こえる。どうやらシントも片付けが終わって暇をしているようだ。うん、そうなるよね。
「次に行くのはラディオ羊で有名なタッライ伯爵領だよね。
僕、ラディオ羊ってお肉食べるの好きだけど実際に見たことないんだよね。
どうしよう、すごくかわいかったら……」
お肉って……。なんか、実際に見たらかわいい、って目いっぱいかわいがって、そのあと出てきた肉を見て号泣しそう。まあ、羊がかわいいかって聞かれたら微妙だけれど。
「ねえ、アラン?
何か言ってってば」
「うーん?
羊がかわいすぎてお肉食べられないっていうシントを想像していた」
「え、やっぱりそう?」
「く、あは、は」
え? なんか笑い声が急に聞こえてきたんだけれど。
「あはは、勝手に聞いてしまってすみません。
なかなか面白い会話をしていますね」
「ヒデシャルテ様!」
「明日ここを立つようですので、様子を見に来ました」
「すみません、こちらから挨拶に行くべきでしたのに」
「気にしないでください。
なかなか楽しい日を過ごさせていただきました」
そう言ってもらえてよかった。
「僕らも、とても楽しい日を過ごさせていただきました」
「ぜひ、またこちらにいらしてくださいね」
そういってもらえるのはありがたい。ぜひまたヒデシャルテ様に会いに来たいな。ということで、二人そろってうなずきました。
「それにもうそろそろお二人も夜会デビューですからね。
そちらでもお会いすることがあるでしょう」
「うっ、また嫌なところをつきますね……」
「まだ夜会に行ったこともないのに、苦手意識を持っているのですか?」
ま、まあ、と視線を逸らすのはシント。シントは前世でとはいえ、夜会に参加したこと数えきれないくらいあるものね。しかも皇帝って妻一人じゃなくてもいいからアピールがうるさい、と。まあ、正妃の権力がほかの妃と比べてとても強いけれど。
「アラミレーテ殿はどうですか?」
「僕ですか?
僕は……あまり楽しみではないですね」
う、参加せざるをえなかった夜会での嫌な思い出がよみがえる……。本当にさ、思い出したくもないよ、あれは。オンナノヒトコワイ。
「あの、なんだか顔色が悪いのですが大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です」
うん、忘れようあれは。いいんだ、僕はもうラルヘではないんだから。
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