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運命は選べない
一国の王子ユーリテスト
しおりを挟むこの国は穏やかで、自然豊かな美しい国。その名もミューフォリア。この国は学力と武力で地位が決まる実力重視なので、αだから、Ωだからと差別はない。
そして僕はユーリテスト・ザファル。
この国の第一皇子として生を受けた。優しい母と父は、威厳ある人なのにも関わらずとても僕には甘かった。
オアシスの国。ミューフォリア。僕はこんな幸せな国で、愛されながら生きていく。
それは、当たり前のように思っていた。
「ユーリテスト様。検査の時間でございます。お急ぎ下さい。ほら、起きろ。」
護衛のヤンがほっぺをつつく。16の春。今日は僕の性検査だ。つまりΩなのかαなのかβなのかはっきりさせるというもの。それなのに僕は面倒くさそうに自室のベッドから動かないのだ。
「はあ。どうせαだよ。王家の血を引く奴は大体αって決まってるんだし…。そもそもミューフォリアの国では差別は無いんだ。検査なんて意味ないし怖いし嫌だよ。ガルドザルクじゃないんだから気にする必要は無いさ。後、僕を敬うのを忘れるな。」
「何を言っているんですか?いいから早く行きましょう。」と、無理やり僕を抱き上げる。
「いってて、やめろよ。おい、もっと優しくしろ!僕は皇子だぞ!」
面倒くさそうに僕の髪を整えているヤンは僕にため息をついてきた。
「なぁお前って何なの?やっぱβ?あんま気にした事ないけど、Ωでは無いんだろ?」
「それは検査行ってくれたらお教えしますよ。」
「なんだよっ…!」と僕は反抗的な態度をとる。
呑気に屁理屈を言っているように見えて、実は知るのが怖い。幼少期にも受けた事があるが、あまりはっきりした結果が出なかったらしい。本当に僕はαなんだろうか。
用意が終わってヤンと検査室へ向かった。検査を終えると、どうなんだろ…とドキドキしながら自室へ戻る。
その途中、最初は結果の事で頭がいっぱいだったが、外が騒がしい事に気付いた。
城の者達の様子が変だな。
「………っ敵襲だ!!!急げ!!市民を避難させろ!王妃と王様を安全な場所に!!!」
___!?
僕とヤンは血相を変えて窓の外を見る。さっきまで穏やかだった町からみるみる煙が上がっていた。するとヤンが、叫んでいた兵士に歩み寄る。
「…何事だ!敵は一体なんだ。」
「ヤン様!…敵は、あのガルドザルクでございます!!王妃様も王様も西へ向かいました!ユーリテスト様もお急ぎ下さい!!」
僕は恐怖に足がすくんだ。平和ボケしてたとは言え、こんなにも急に。なんて残酷な…。そんな僕を見てヤンが強引に僕を担ぐ。
「…ヤン。ぼ、ぼくはこれから…」
「落ち着いて下さい。それにしても、全く予兆すらなく攻め込まれるなんて…何者かの裏切りか…。わからない以上下手に動けない。…私は最善を尽くすので大人しくしてて下さいよ。」
城の外へと向かって走り出す。この国は戦争や紛争とは無縁だった。なぜ、こんな事に、ミューフォリアは穏やかで自然豊かで、こんな事になるなんておかしい!!
ミューフォリアの地に攻め込み、殺し、奪い陥れて…くそッ!!なんでだよ!
城から出ると、敵はもう塀を越えて城内に侵入してきていた。
嘘だ、だってこんな人数。勝てるわけない。ヤンだけなら逃げ切れるかもしれないけど、僕は武術なんてからっきしダメだし。
ふぅ。と、覚悟を決めたのかヤンは僕を見つめて言う。
「……ユーリテスト様。よく聞いて下さい。どんな事があっても、絶対に自分を信じて、諦めないで下さい。あなたが苦しんでいるときは、必ず助けに参ります。ですから、どうか、諦めないで下さい!」
待たせてくれる事もなく、僕とヤンはあっという間に敵兵に囲まれた。
こんなに早く攻められるなんて。5、6人を相手にヤンが死闘を繰り広げていると、
敵兵は僕だけを捕まえて、取り押さえた。それに動揺したヤンに、残りの兵士は一斉に攻撃を仕掛けた。
駄目だ!お前だけは!!
「ヤン!!駄目だ!そんな、死ぬな!絶対にやられるんじゃ無いぞ!!……ヤン!!」
ヤンは敵兵と対峙しながらも必死で僕の方へ行こうとしている。
「…くっ、ユーリテスト様!!…このっ!……必ず!!助け出してみせます!!」
僕はそのまま拘束され目隠しされた。そして湿った布を口元にあてがわれ、意識を失った。
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