僕は運命から逃れたい

先々ノアル

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運命は選べない

囚われた僕は

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目が覚めると、床はひんやりと冷たくて、辺りは真っ暗だった。
僕は捕らえられてしまったらしい。


微かに人の声が聞こえる。そして目の前に見えるこれは、

鉄格子…。

おそらくここは独房だ。
僕は体を起こそうとして見るが、一向に動かない。手足が拘束されているからか。 

どうしよう。これじゃ何も出来ないじゃないか。どうすればいいんだ。さっきから体も熱いし。

そういえば…みんなは!?

…いや、母も父も西へ向かったのなら大丈夫だろう。
ミューフォリアと親しいカラバンの国が、きっと守ってくれるはず。

だが、ヤンは…。

どうなったんだろう。あの後…ヤンは殺されては無いだろうか、…くそ、そんな事があってはたまるか。



僕は、隣国ガルドザルクへの怒りと、これからの不安で胸が苦しく、体が焼けるように熱い。おかしくなりそうだ。


「…なんだ?この甘いのは。」




__!

さっき微かに聞こえた声の主が近づいてきている。
…これは寝たふりをした方がいいかもしれない。僕はとっさに目をつぶり動くのを止めた。

「…ふんっ。ミューフォリアの坊っちゃんか。…おーい!こいつ起きたらどうするんだっけ?!」

どうやら奥にいる兵士に問いかけているようだった。

「あー?どうするって、皇子に報告すんだよ!これ最優先事項だからな。逃げられたら俺たち打ち首だ。」

「おーおっかねえぜ。…ったく早く起きろよなあ。」



様子を見にきた兵士はまた元の場所へ戻っていく。
もう、嫌だ。はやく逃げたい。ヤンはいつになったら助けてくれるんだ。僕の危険には駆け付けてくれるんじゃないのかよ!


いやでも、敵はなぜ僕をすぐに殺さないんだ。見せしめにするつもりなのか?

そして…ミューフォリアの民は。
Ωはきっと、捉えられて奴婢として残虐な扱いを受けているかもしれない。


ああ…色んな事が渦巻いて、息が苦しい。

それにこの狸寝入りも長くは持たない。きっと数十分もすれば無理にでも起こしに来るだろう。
そろそろ僕は、本当に殺されるかもしれないのに…ヤン、お前はやっぱり…。

僕だけじゃ逃げ出すのは絶望的だ。手足が拘束されている。

どうしよう。どうすればいい!誰か、助けてくれ。助けてくれ…







「おい!!どういう事だ!!!」  



……!?



なんだ。誰だ。…誰が来たんだ。


「「…!…リザルト様!!!」」





はあ!?


なんだと、リザルト様ってもしかして…リザルト・メールテフ?!…ガルドザルクの皇子か!

…なんでだよ。まだ起きてると思われてないはずなのに…。



「あり得ない!!あり得ないぞ!!…こんな独房にいるだと…?……いや、いるわけがない!!!…おい貴様!!この匂いの根源はどこだ!」

その皇子の剣幕は凄まじく、僕はその声を聞いて軽い悲鳴を上げる。でもそれには気づかれなかったようだ。

「ひっ!えっと、に、匂いは…ミューフォリアの皇子からではないかと思われます!!!」

えっ!僕から………なんだって。匂い…?どういう事だよ。



「…何を言っているんだ貴様!斬られたいのか!…ミューフォリアとて王国だ!王家の血が入っているものがΩであるはずが無いだろう!ましてこれは…!………くっ。」




何が、なんだか。
言っている意味がわからない。
どういう事だ。僕が…Ωだって。匂いってまさか、フェロモンの…この体の熱さはヒートしてて。

嘘だろ!!
そんなわけ、そんな訳ない!!

はっ、どうしよう。

足音が近づいて!なんだこの感じ。なんだか体がジンジンして…。

ガチャン__

鉄格子が開いた…?僕は音に反応し、慌てて起き上がった。

しまった!!!

僕は顔の汗を拭い、恐るおそるリザルトの顔を見る。

ドクドクドク、ドクドクドク。

何かが込み上がる。鼓動が早くなって…



「…ば、馬鹿な!…これが、あの。まさか、クソ…っ。」



その瞬間、僕は無理やり唇を奪われた。


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