2 / 14
運命は選べない
囚われた僕は
しおりを挟む目が覚めると、床はひんやりと冷たくて、辺りは真っ暗だった。
僕は捕らえられてしまったらしい。
微かに人の声が聞こえる。そして目の前に見えるこれは、
鉄格子…。
おそらくここは独房だ。
僕は体を起こそうとして見るが、一向に動かない。手足が拘束されているからか。
どうしよう。これじゃ何も出来ないじゃないか。どうすればいいんだ。さっきから体も熱いし。
そういえば…みんなは!?
…いや、母も父も西へ向かったのなら大丈夫だろう。
ミューフォリアと親しいカラバンの国が、きっと守ってくれるはず。
だが、ヤンは…。
どうなったんだろう。あの後…ヤンは殺されては無いだろうか、…くそ、そんな事があってはたまるか。
僕は、隣国ガルドザルクへの怒りと、これからの不安で胸が苦しく、体が焼けるように熱い。おかしくなりそうだ。
「…なんだ?この甘いのは。」
__!
さっき微かに聞こえた声の主が近づいてきている。
…これは寝たふりをした方がいいかもしれない。僕はとっさに目をつぶり動くのを止めた。
「…ふんっ。ミューフォリアの坊っちゃんか。…おーい!こいつ起きたらどうするんだっけ?!」
どうやら奥にいる兵士に問いかけているようだった。
「あー?どうするって、皇子に報告すんだよ!これ最優先事項だからな。逃げられたら俺たち打ち首だ。」
「おーおっかねえぜ。…ったく早く起きろよなあ。」
様子を見にきた兵士はまた元の場所へ戻っていく。
もう、嫌だ。はやく逃げたい。ヤンはいつになったら助けてくれるんだ。僕の危険には駆け付けてくれるんじゃないのかよ!
いやでも、敵はなぜ僕をすぐに殺さないんだ。見せしめにするつもりなのか?
そして…ミューフォリアの民は。
Ωはきっと、捉えられて奴婢として残虐な扱いを受けているかもしれない。
ああ…色んな事が渦巻いて、息が苦しい。
それにこの狸寝入りも長くは持たない。きっと数十分もすれば無理にでも起こしに来るだろう。
そろそろ僕は、本当に殺されるかもしれないのに…ヤン、お前はやっぱり…。
僕だけじゃ逃げ出すのは絶望的だ。手足が拘束されている。
どうしよう。どうすればいい!誰か、助けてくれ。助けてくれ…
「おい!!どういう事だ!!!」
……!?
なんだ。誰だ。…誰が来たんだ。
「「…!…リザルト様!!!」」
はあ!?
なんだと、リザルト様ってもしかして…リザルト・メールテフ?!…ガルドザルクの皇子か!
…なんでだよ。まだ起きてると思われてないはずなのに…。
「あり得ない!!あり得ないぞ!!…こんな独房にいるだと…?……いや、いるわけがない!!!…おい貴様!!この匂いの根源はどこだ!」
その皇子の剣幕は凄まじく、僕はその声を聞いて軽い悲鳴を上げる。でもそれには気づかれなかったようだ。
「ひっ!えっと、に、匂いは…ミューフォリアの皇子からではないかと思われます!!!」
えっ!僕から………なんだって。匂い…?どういう事だよ。
「…何を言っているんだ貴様!斬られたいのか!…ミューフォリアとて王国だ!王家の血が入っているものがΩであるはずが無いだろう!ましてこれは…!………くっ。」
何が、なんだか。
言っている意味がわからない。
どういう事だ。僕が…Ωだって。匂いってまさか、フェロモンの…この体の熱さはヒートしてて。
嘘だろ!!
そんなわけ、そんな訳ない!!
はっ、どうしよう。
足音が近づいて!なんだこの感じ。なんだか体がジンジンして…。
ガチャン__
鉄格子が開いた…?僕は音に反応し、慌てて起き上がった。
しまった!!!
僕は顔の汗を拭い、恐るおそるリザルトの顔を見る。
ドクドクドク、ドクドクドク。
何かが込み上がる。鼓動が早くなって…
「…ば、馬鹿な!…これが、あの。まさか、クソ…っ。」
その瞬間、僕は無理やり唇を奪われた。
0
あなたにおすすめの小説
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
愛させてよΩ様
ななな
BL
帝国の王子[α]×公爵家の長男[Ω]
この国の貴族は大体がαかΩ。
商人上がりの貴族はβもいるけど。
でも、αばかりじゃ優秀なαが産まれることはない。
だから、Ωだけの一族が一定数いる。
僕はαの両親の元に生まれ、αだと信じてやまなかったのにΩだった。
長男なのに家を継げないから婿入りしないといけないんだけど、公爵家にΩが生まれること自体滅多にない。
しかも、僕の一家はこの国の三大公爵家。
王族は現在αしかいないため、身分が一番高いΩは僕ということになる。
つまり、自動的に王族の王太子殿下の婚約者になってしまうのだ...。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる