ハルとアキ

花町 シュガー

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夏休み編

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「ミナト、そろそろ部屋へ戻っていいわ。こんな時間までごめんなさいね、お手伝い有難う」

「ううん、別にいいよ。じゃぁ、戻ります」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみ母さん」

まだ宴会は続いていたが、夜も更けって来た為未成年はある程度の時間で解放された。




わいわいとした宴会場から離れ、1人静かに廊下を歩く。

(叔父さんと話したかったけど、居なかったな……)

お忙しいのだろうか…宴会が始まった時は居たのにな……

叔父さんは、このお面ばかり被ってる一族の中で唯一私に優しく接した人。
幼い頃からよく一緒に遊んでくれた。

今回ハル様の親衛隊隊長を務める事にもなったし、小鳥遊の月森である叔父さんには報告しておかねばと思ったけど……

(まぁ、もう既に知ってるだろうけどな)


「ーーミナトかい?」


「っ! え……?」

自室前の暗い廊下に、叔父さんが静かに佇んでいた。

(何で、こんなところに……)

「クスッ、久しぶりだね、ミナト」

「叔父さん? お久しぶりです。 あの、私に何か用が……?」

「ん? ふふ、そうだね。少し話がしたいなと思って待ってたんだ。もう寝てしまうかな?」

「いえ、まだ寝ませんよ。私の部屋でよろしいですか?」

「構わないよ。 有り難う」

(わざわざ私の部屋を訪ねる程、重要な事なのだろうか……)

一体、何だろう。

少し緊張しながらガチャっと自室のドアを開け、叔父さんを招き入れた。





「改めまして、叔父さん、お久しぶりです」

「あぁ、本当に久しぶり。すまないねいきなり」

「いいえ。こちらこそ何もない部屋ですみません。私も昨日帰ってきたばかりで……」

「いいんだよ。さっき宴会の場で沢山食べてきたからね。それにしても、大きくなったなぁミナト」

「ふふふ、高校生ですのでまだまだ背も伸びますよ」

「高校生か…若いなぁ……」

「クスクスッ、叔父さんだってまだまだお若いでしょう?」

「いやぁ、もう全然だよ」

ひとしきり世間話をして、「そう言えば」と叔父さんが切り出す。

「ミナト、我が小鳥遊家のハル様の親衛隊隊長をしているそうだね」

「はい、そうなんです」

「クスッ、何か感じるものがあったのかい?」

「えぇ、とても」

ハル様への興味は、まだまだ尽きない。
実家に帰るまで行われた宿題会も、凄く有意義な時間だった。

(何より、あの龍ヶ崎があそこまで変わっていたのには驚いたな……)

素直に誰かに「有難う」と頭を下げ感謝を述べた事にも驚いたが
何よりビックリしたのはハル様へのあの態度。

驚く程甘くて、表情が見た事もないくらいに柔らかく
そして、心なら楽しいというように笑うのだ。

正直、今の龍ヶ崎に「俺の親衛隊隊長を務めろ」と言われたら、私は頷いていたかもしれない……
それくらいに、龍ヶ崎は面白い人間へと変わっていた。

(まぁ、そのように変えたハル様の方が私にとっては重要だがな)

これから、どのような事が起こるのだろうか。


ーー嗚呼、ワクワクが止まらない。


「ははっ、楽しそうだね」

私の中身を感じ取ったのか、クスクスと叔父さんに笑われる。

「叔父さんも、ハル様のお父様に何か感じるものがあって現在に至るのでしょう?」

「あぁ、そうだねぇ。
私とミナトは、もしかしたら好みが似ているのかもしれないね」

「ふふふ、そうかもしれませんね。他の月森は知りませんが、叔父さんと好みが似るのは嫌じゃないですよ」

「ははっ、ミナトも言う様になったなぁ」

「クスクスッ」


ひとしきり笑ってから、

ーーそれはポツリと、まるで何でもない事のように訊かれた。


「ねぇ、ミナト」


「? 何ですか?」



「ーーーー〝学校でのハル様〟は、元気かい?」



「…………?」


(何だ…?)

今の言葉に、妙な違和感を感じる。
何なのかは分からないけど、何かが引っかかるような…そんな感じ……

〝学校での〟なんて、そんな言葉使うのは当たり前だ。だって叔父さんは屋敷でのハル様しか知らないから。

そう、何もおかしくない問いかけ。
叔父さんは小鳥遊の月森として、ハル様の事を気にかけているだけだ。

だけど、何かーー……


「…はい。とても元気ですよ。
体調を崩す事もなく、信頼できるご友人と一緒に毎日を笑って過ごしてらっしゃいます」


「っ、……そうか、〝笑って〟………」


クシャリと、一瞬叔父さんの顔が歪んだ気がした。

だが、それは本当に一瞬で……
次の瞬間にはいつものニコニコした叔父さんへと戻っていて。

(………?)

「有難うミナト。これからも親衛隊隊長として、学校でのハル様を支えてやってくれ」

「ふふ、勿論ですよ叔父さん」



それからまた少し話をして、「こんな時間にすまないね。じゃあゆっくり休んで。おやすみ」と柔らかく手を振りながら、叔父さんは出ていった。

(……何だろう)

沢山の月森がいる宴会場でなく、わざわざ私の部屋まで来て一対一で話すから余程重要な事だと思っていたのに、結局それらしい話は何も無く終わってしまった。

(いや…今話した中に、何かがある……?) 

そうかもしれない。
現に今、全く違和感のない会話の中に…少しだけ何かが引っかかる様な感覚がしている

これは、一体………?

(…でも、思い返しても特におかしいやり取りはしてないな……気のせいか)

幼い頃から私に接してくれた人だ。
「話をしたくて、つい訪ねてしまったよ」と言っていたし、本当に昔のなごりで会いに来てくれたのだろう。

嗚呼、早く夏休みが終わらないだろうか。
ハル様の話をしたからか、早く会いたいと思ってしまう自分がいる。

(新学期まであと少し。これからも引き続きお仕えし、支えていこう)


ーーそして、龍ヶ崎との距離間も楽しく観察させてもらおう。





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