Christmas Present.

花町 シュガー

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Christmas Present.

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「ゴホッ、コホコホッ」

12月25日。
待ちに待ったクリスマスの日。

(それなのに、丁度風邪引くとかあるっ!?)

今日は平日だから、学校でみんなからプレゼントが貰える予定だった。
その後は帰りがけお気に入りたちと会って、美味しいもの奢ってもらってまたプレゼント貰って……
そんな日にするはずだったのに。

(ぇ、嘘でしょ?)

ピピッと鳴った体温計を見ると、外なんて出てる場合じゃない温度。

「ほん、とに……?」

掠れた声は、誰もいない家の中で消えていった。

お母さんはこういうイベントの時は絶対お店に出る。
だから、お正月とか七夕とかを家でやったことは一度もない。
クリスマスだって、12月分のお小遣いが多いくらいで何もなくて……
24日のイブから帰ってきてないのを見ると、多分仕事帰りは今の男と一緒にクリスマスをしてるんだと思う。

(っ、やだ)

1人は、嫌だ。
高校入るまではどうにかやってこられたけど、外の世界を知った今、寂しくて寒くてどうにかなりそう。

僕だって楽しいクリスマスがしたい。
誰か……誰か、僕と一緒にいてくれる人ーー


Prrrrr……


「っ!」

震えたスマホを見ると、ツッチーの文字。

「もしもしっ?」

『おー飴井ちゃん大丈夫? 風邪引いたんだって? 学校休んでんじゃん』

「そ、なの…熱がでちゃって、咳、も……」

『そかそか。安静にしときなよ~』

「ぁ、あのねツッチー? 今日学校終わっtーー」

『あーごめん飴井ちゃんっ!俺さ、もう辞めるわ』

「………ぇ」

そんな事、今まで一言も言ってなかったのに……
何でいきなり、

『実は前々から狙ってた子と上手くいきそうでさ!今日クリスマスデートなんだよな。だからこの後はパス~』

「そ、それなら、また明日とかでも」

『いや実はさー

俺、やっぱ女の子がいいなぁって思い始めて』


「っ、」


(ぁ……)

『飴井ちゃんといんの確かに楽しいんだよねぇ~、けどさ、やっぱ女がいっかなって。あぁ、別に今後一切口聞かないとかじゃねぇよ?
ただ、まぁ仲のいい友だちに戻りましょって』

ジクリ…ジクリと痛む心臓。
ぎゅぅぅっとパジャマを握り締め、なんとか声を出す。

「……ん、そっかぁ分かった。今までありがとね!
あ、でも飴はまた欲しいなぁ」

『あははおーけーおーけー!それじゃぁな!!』

プツリと切れた、電話。


(あぁ、まただ)


いつもいつもこう。
僕のお気に入りは、女の子に取られていく。

どんなに可愛くたって…どんなにキラキラしてたって

ーー結局、女の子には敵わなくて。


「………っ!」


必死にお気に入りたちに連絡するけど、こんなクリスマスにわざわざ風邪っ引きの処へ来てくれる人はいない。

「あーもう……っ」

大体、何で風邪なんか引いちゃってるの?


〝心が、寂しそう……で………〟


(あぁそう、あいつだ)

言った通り僕に付きまとわなくなったもさ男にかけられた、あの言葉。
あれに反抗するように、連日休む事なく遅くまで遊んでたからだ。
でも、その反動がまさかクリスマスにやってくるなんて……

「ーーっ」

あいつに告白されてから、本当にいい事がない。
ストーカーみたいなことされるし、変な男引っ掛けちゃうし、こうして風邪なんか引いちゃうし。

最悪、本当最悪。
ひとつもいい事ない、ひとつも

ひとつ…もーー



「っ、うぇぇ……」



(そうだよ、僕の心は1人だ)


初めて男を知ったのは、中学1年の時。
女の子と間違って僕を引っ掛けた知らないおじさんに、「でも君ならいけそう」と抱かれたのが始まり。
年上で包容力のある人で、たくさん甘えさせてくれて。
けど何回か会った後、『家族にバレた』と別の男を紹介して去っていった。

それからは取っ替え引っ替え、とにかくいろんな男を知って、段々自分の好みを理解してきて。
恋だって数え切れないほどした。『俺に一途になってくれる?』って言葉にいつも肯いて、けど裏切るのは結局向こうで。

『ごめんな? やっぱ女の方が抱き心地いいっていうか気持ちいんだよね。世間体もあるしさ。
君も、本気じゃなかっただろう?』

身体は誰かと一緒でも、心はいつも1人。
その隙間を埋めるようどんどんお気に入りを作っては、遊んで…遊んで……

ーーでも結局、1人のまま。

童貞は嫌いだ。
だって自分が気持ち良くなるので精一杯になるから。
心が通じ合わないから。
どうせ夢を見るなら、幸せな方がいい。
後でどん底に落とされても、落とされるまでは暖かいものに包まれていたい。
ねぇ、それっていけないことなの?

新しく作っても、どうせ暫くするとお気に入りは離れていってしまう。
お母さんだって僕より今の男の方が大事。
あぁ本当、まるで大好きな飴みたいだ。
大切なものは直ぐに溶けて無くなっていく。
キラキラするものは、いつか輝きを失って光らなくなる。
可愛いものだって、他の可愛いができれば捨てられる。

あの時ムーちゃんに会いに行かなかったのだって、きっと捨てられてたあの子の幸せそうな姿を見ると…嫉妬してしまうからで。

嗚呼本当、いつだってそう。


ーー僕は、誰かの1番には なれない。


「ゃ…だ……」

そんなの嫌、認めたくない。

ねぇお母さん、何で僕のこと女の子に産んでくれなかったの?
男に産むなら、可愛いじゃなくてかっこいい顔が良かった。そしたら女の子にも恋愛対象に見られて、1人じゃなかったかもしれないのに……

「うぇぇ…ヒック、っ」

熱のせいもあってか、思考はどんどんマイナスになっていく。
涙だって、もう止まってはくれなくtーー



ピンポーン



「っ、え……?」


ピンポーン ピンポーン


(な、なに?)

全然使われてないうちの家のインターホン。
幻聴かと思ったけど、聞き間違いじゃなくて。

「だ…れ……」

ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン

「わ、分かった!出る、出るからぁっ!」

連打やめて!何なの一体!?

熱でクラリとする頭を抑えながら何とか玄関まで行って、ガチャリと扉を開ける ーーと


「だ、大丈夫っ!? 倒れたり、し、してなかった!?」


「………は?」


目の前には、ぐしゃぐしゃ頭の瓶底眼鏡。

「こ、こんにちは…いきなりごめん、ね? 何度か鳴らしたんだけど、な、中々出てこなかったから……心配、で」

(ぇ、これ…まぼろし?)

何でもさ男がうちいるの?
学校は? まだ授業中だよね……?

「熱…高そうだね、ぼぉっとしてる……ぁあの、上がっても…いいかな……

ーーっわ!」


頭が追いつかなくて、グワングワン世界が回ってしまって。

ガクリと力が抜ける前、大きな腕に支えられたような気がした。









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