言葉を忘れる

花町 シュガー

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(そんなこんなで、今なんだけど……)

あれから、もう半年。
いろんな薬を飲んだり、いろんな事を試したりしてるけど何の効果も得られなくて。

高校は休学してるから、正文さんとの二人暮らしはどんどん遠くなるばかり。
早く…早く治したいのに、一向にその兆しは見えない。

今日も、起きたら枕元に宝石が3つ落ちていた。

(ということは、今日も3つの言葉を忘れてしまってる)

宝石を入れる瓶の数は、もう100を超えた。
今日は一体、なんの言葉を忘れたんだろうか?
どうか、どうか正文さんとのことじゃありませんように。

不安でドクドク鳴る胸を、ぎゅぅっと抑える。


コンコンッ

「こんにちは。起きてる?」


いつものように声をかけてくれ、いつものようにカラリと正文さんが入ってきてくれた。
その顔を見て、ほぉっと息を吐く。

(大丈夫。ちゃんと覚えてる)



優しくて、暖かくて、大好きで


ーー世界で一番大切な……僕の〝       〟。



(あ、れ?)


思ってた言葉が、出てこない。


「ぁ、うそ……」

喉元を抑える僕に、正文さんは悟ったようにすぐ駆け寄ってくれた。

「詩音、詩音こっちを向いて」

「まさふみ、さん……っ」


ねぇ。あなたは僕の〝何〟だった?


(僕は、あなたの〝何〟だっけ?)


とても大事で、とても暖かなその言葉。

「っ、ふ……」

何度考えても、まったく浮かんでこない。

(いや、だ…嘘、嘘だよ……こんな)

「詩音、泣かないで」

目から溢れ落ちる〝それ〟を、変わらぬ体温が拭ってくれる…けれど。

(〝それ〟……なんて名前だったっけ)

目から落ちてくる〝それ〟の、名前が分からない。

鼻の奥がツンとして、目が潤んで視界が歪んできて、しょっぱくて切なくなる〝それ〟はーー


「っ、うぇ…ふ、ぅあぁぁっ!」


(あぁ。

僕は今日、いくつ言葉を忘れたんだっけ)


枕元で光る宝石をキツく握り締めながら

抱きしめてくれる肩を借りて、ただひたすらに〝       〟を流したーー








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