誰も知らない御伽話

花町 シュガー

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『お前…その〝声〟を覚えておるのか……!?』


それは、俺の育った村の村長様が言った言葉。


『知ってるのか?
なぁんだやっぱ婆さんは物知りだなぁ!』

幼い頃からずっと覚えてる、その声。
誰のものなのか知らないけど、何故か忘れちゃいけない気がして心の中に大切に閉まってて。
でもどうしても気になるから、成人した18歳の夜、村長様と2人きりになる瞬間を狙い思い切って聞いた。

『その事……これまで誰かに話したか?』

『いや、誰にも。なんか言っちゃいけないような気がしてさ? でも結局気になって、こうして婆さんに聞いたんだけど』

『………ふむ。そうか……』

目を閉じブツブツ何かを呟く村長様。
そして、ゆっくりと開かれたその目には…何故か涙が浮かんでいた。


『きっと……それはきぃっと、女神様が残した〝奇跡の跡〟じゃ。
違いない 違いない。お前、今までよく覚えておったなぁ。よくぞ…忘れず……っ』


『奇跡の跡? 女神…様?
おい、それは一体何の話だy』


『ーーシュヴァルツや』


『っ、はい』


『信じるか信じんかはお前の自由。じゃが、わしはお前に、この世界に伝わるある〝御伽噺〟をする。
一度しか言わぬ。よぉくお聞き』


『おとぎ…ばなし……?』


そうして話されたその御伽噺は、俄かに信じがたいものだった。

この世界は3分の2が砂に覆われているにも関わらず、砂漠の大きさも広がらずこうして何百年何千年とその均衡が保たれている。
オアシスの数も減ることはなく、人々も豊かに暮らせている。それは、何故なのかーー

『それは、この世界を女神様が見守られとるからじゃ』

『あぁ、その話小さい頃絵本とかで読んだな』

『じゃろうな。では、その女神様は一体どの様にしてこの世界を見守っておられると思う?』

『どの様に……って』

そこまでは絵本に載ってなかった。

『女神様はな、〝人〟をお使いになるのじゃ』

『人を……?』

『あぁ。正しくは〝神子〟と呼ぶべきか』

その神子は、無作為にある日突然選ばれる。
空から女神様が舞い降りて『この子だ』と指を差すのらしい。
差された子は神子となり、この世界の監視役として女神様の目になる。
そうして至る所を旅しながら見て回り、少しでも過去とズレが生じていればそれを女神へ報告する役割を任されるという。

『それと同時に、その子は人の理からも外れてしまう』

『ぇ、人のことわり……って』

『並の人間よりも、ずっと長く生きるのじゃ』

『ーーな、』

この世界を監視し続ける為、そして女神の目を続ける為。
選ばれた瞬間から、それは人ではない存在となってしまうのだ。

『これが、お前の知っていた絵本の続きじゃ。そして、何故わしがこれをお前に話したか……

それはな、お前が〝神子の声〟を覚えとるからじゃ』

本来人の理から外れた瞬間、神子となった子とのこれまでの記憶は、関わった全ての人間から消されてしまう。
だから、人々は何の違和感も感じずこの世界で生きている。

だが稀に……その神子となった子の想いが強い時にのみ、女神様はその御心で、その強く想われていた者の心へ〝何か〟を残してさしあげるのだという。
それは古より伝わるものからすると〝奇跡の跡〟と呼ばれ、多くの場合〝声〟が残っていたといわれている。

『声……』

『そう、声じゃ。

お前、忘れられぬ声があるのじゃろう?』



〝ねぇ、シュヴァルツ。

どうか……君だけには、覚えられていたいなぁっ〟



『ーーっ、あぁ、あるっ』

『ならば、お前はきっと過去に女神様とお会いしとるのかもしれん。もしかしたらこの村に降り立たれたのじゃろうか…? そして、神子に選ばれた子とお前は近しい関係だったのだろう』

友人か、兄弟か、はたまた恋人かーー

(はっ、なんだそりゃ)

わからない。そんなの今まで全く身に覚えがない。
友だちなら沢山いるが、恋人? 生まれてこのかた18年出来たことがない。ましてや兄弟?? なんだそれは。

俺は、孤児だ。親なんか知らない。
ただ孤児院の奴らと一緒に育ってきただけ。だから、今更そんなこと言われても全然実感がなくて……


〝ねぇ、シュヴァルツ〟


(あぁ本当、今にも泣き出してしまいそうな声)

泣きそうで、でも決して泣かまいと笑っていて。
そんな……胸の奥がギュッとなるようなーー

『……なぁ、その神子って奴は旅をしてんだよな?』

『そうじゃ。今もどこかを歩いておる』

『なら、俺がそいつを見つけて話をするってのはーー』

『無理じゃ』

『はぁ? 何でだよ』

『神子と会った記憶は、人々の中から全て消される。
消されてしまうんじゃ……』

もし記憶にいる子が、何十年後に変わらない姿でまた目の前に現れたら? 人々はきっと混乱してしまうだろう。
だから、女神様は過去だけでなく現在の記憶までもを消してしまう。

『っ、じゃぁ誰もそいつの事…覚えてねぇのかよ……?』

嘘 だろ。
この世界の誰からも、覚えられてないのかよ。

そんな馬鹿みたいな孤独……あるわけがーー


『太陽じゃ』


『たい、よう……?』


『あぁ。太陽が昇って沈む間だけは、覚えておる』

そして次の日また新たな太陽が昇ると、人々は神子と会ったことを綺麗に忘れているという。

『っ……なぁ、俺には奇跡の跡ってやつが残ってんだろ?
もし俺がその跡を残した神子と出会えたら…どうなるんだ?』

『それはわしにもわからぬ。
この先の話は、誰も知らぬのだ。
当事者でないと…その先の御伽噺はわからん』

どうなるのかは俺自身じゃないとわからない。全ては、己次第。


『さて、話は以上じゃ。 

ーー行くのか?』


『………あぁ、行く』


太陽が昇っている間の僅かな時間だけでも、そいつと話した・見かけた記憶をもってる人間がこの世にいる。
だからそいつらを見つければ、きっとその近くに神子がいるということになるはずだ。
まぁ自分のことを『神子です』って名乗らない限り普通の人間と変わらないっぽいから、絶対わからない可能性の方が高いだろうが……でも、それでも。


〝どうか……君だけには、覚えられていたいなぁっ〟


(忘れねぇよ、絶対)

こんな泣きそうな声残しやがって…どうしてくれんだ。
こっちはもう幼い頃から何度も何度もそれ聞いてんだぞ。

ーーもうずっと……いい加減、お前に会いてぇんだよ。


少しでも可能性があるならば、いつか必ず巡り会えるはずだ。
それに、俺は賭けたい。

こうして、この広い世界で皆に忘れられてしまった独りぼっちのそいつを探す為、当てもない旅が始まったのだ。




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