運命の見つけ方

花町 シュガー

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緋薔薇の場合

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「あ、彩ちゃんやっほ~」

「………」

昼休み。
いつものように裏庭へ行くと、既に猫と遊んでる人影。
たまたまミケと見つかった日から、毎日足を運ばれてしまっている。

(くそう僕のオアシスが、なんてこった!)

しかも七井だと!? これも運命!? え、運命怖すぎない!?
ミケもミケだ、なんでそんなポッと出の奴に懐いてるんだよ。僕というものがありながら……


「ほら彩ちゃん、ミケがご飯待ってるよ。

こっちおいで~」


「………っ、」


僕、動物じゃないんだけど。
手招きされるのにイラッとしながら、一定の距離を空け地面に座る。
餌を出してやるとすぐ小さな体がすり寄ってきてくれた。ほんっと厳禁な奴め……

七井 丹太(ニタ)。2年の間じゃ有名な人物。
柔らかい話し声と穏やかな雰囲気で友好関係は広く、正に歩くコミュ力。おまけに顔もいい、謂わゆるイケメンの部類。
そんな彼は、緋色の運命の人だ。いつも指輪をはめてるし薔薇探しにも積極的。「運命の相手が見つかるまででいいから付き合って」と女子たちに詰め寄られても、全てお断りしてるらしい。
ふわふわしてるくせに締める所はちゃんと締めてる、多分いい人。人として何も問題無い。

ーーあるとすれば、それは…僕のほうだ……


「ね、彩ちゃん今日髪ハーフアップなんだ。いつも変えてるの? 器用だね~俺家この辺だから家から通ってるんだけど、毎朝姉ちゃんに洗面所占領されててー……って、

彩ちゃん髪 葉っぱ付いてる」


「?」


「あーっとね、右のほう。もうちょい上、そうそう」

鏡のように動作してくれ、自分で絡まってるのを見つけられた。

……正直、こういうのが七井のすごいとこだと思う。
勿論性格もだけど、僕が触られるの嫌なことを言わなくても察してるとこ。
そして、それをなにも聞いてこないとこ。

普通、こういうのは気になると思うんだけどな。
絶対聞いてこないし、隙間を開けて座っても詰められることはない。

ほんと、人間ができてるっていうかーー


「? どうしたの?」


「ぁ、いや……っ」


じぃーと見てるのがバレ、慌ててミケのほうを向く。

「…ふふ。あーやば、癒される~~」

「?」

「もうこのまま午後サボっちゃわない?」

「? っ?」

「あははうそうそ。
それより明日はどんな髪型にするの? 今度結ぶの教えてよ、姉ちゃんにしてやったら喜びそう。
あとさーー」

体育大会が終わり、ほっとした様子の学園内。
そんな昼休み。
木漏れ日の下、別に聞き流してもいいよというように次から次へ話をする 優しげな隣人。


ポツリ

「…これって、なんなんだろう」


「ん?」


「ぁ…この関係って、なんなのかな…って……」


まずい、変なこと聞いた。
関係とか意味わからない。なんで突然そんなこと言ったんだ僕は。
ほら、向こうも固まってんじゃん。

早いとこ「なんでもない」って、言わなきゃーー


「友だち」


「っ、」


「か、知り合い…的な……?」



〝友だち〟



『なぁ彩、俺ら友だちじゃん』




「ーーっ!し、知り合い」


「え」


「知り合い、で…お願いします……っ」


思わず蘇った記憶を、ぎゅっと目をつむり掻き消す。
友だちは嫌だ、もう要らない。なんのために女装してると思ってるんだ。

友だちは…友だち、なんて……


「分かった。じゃあそうしよう」


「……ぇ」


パン!と変な空気を消すように手を叩かれ、微笑まれた。

「いや、正直彩ちゃんがこんなに話してるの見たことなかったから驚いちゃって。固まってごめんね。
でも確かに不思議な関係だよね~俺ら。
今まで話しかけられて嫌だった?」

「ゃ、じゃない…です」


……あれ。


「本当に?
なら、これからも知り合いとしてここ来てもいい?」

「………ん」

え、嘘だろなに頷いちゃってんの僕。

「やった~ありがと彩ちゃん!
ねーミケってなにが好きなの? 俺も持ってきたい。
それと、遊び道具とかもーー」

(あ…っと……)

僕とミケの2人だけの空間に、いきなり入ってきたこいつ。
関係性は〝知り合い〟。
緊張はまだ解けないけど、名前が付いただけで大分落ち着けて。

なんだ、こんなことならもっと早く質問しとくんだった。
そしたら会話も もっとーー

(って、話をしたかったのか僕は!?)


「あーやちゃん、また百面相してるよ?」


「ゃ、ぇ…と……」


「…っ、ははは、あー可愛い~」


ふわふわ笑う顔は、本当に楽しそうで

もしかして、少し安心してもいいのかなと 力を抜いた。




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