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緋薔薇の場合
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しおりを挟む「ーでさ、それで~……」
「……?」
学校終わり
寮に帰ろうとして忘れ物を思い出し戻ると、教室から声が漏れていた。
そろりと覗くと、残って話をしてる男子グループ。
流石に中へ入れず扉の前で立ち尽くす。
どうしようかな、今日やめる?
けどあれ無いと宿題できないし…朝早く来てするとか。
いやでも早起き苦手だし……
「ってかさ、七井最近昼休みどこ行ってんの?」
「っ、」
聞こえてきた声に、思考が止まった。
「えー別に何処だっていいじゃん。お前彼氏かよ、俺のこと束縛したいの?」
「やめろって想像するだけで吐くわ!
いや、前は一緒に飯食ってたのに最近いねぇから何してんのかなって。彼女でもできた?」
「あ、俺実は知ってんだよね~たまたま見ちゃってさ。
これ言ってもいいやつ?」
「え!なになにちょっと気になるんだけど!言え!!」
なんで違うクラスの七井がここ居るんだよ。顔広すぎてまじで意味わかんない。
というか、なにこれ。
もしかしてあの場所のこと見られてた? いつ? 何処から??
背中に変な汗がツゥ…と伝うのを感じながら、中の様子を伺う。
「ちょ、おい言うなって」と止める七井の声にかぶる「言え言え」コールが、うるさくて。
ニヤニヤしながら勿体ぶってたそいつの口が、ついに動き出した。
「いやさー? こないだ昼休みたまたま校舎裏のほう歩いてたら七井がいてさ。
七井ー!って声かけようとしたら、なんとそこに小里ちゃんがいたわけ!」
「まじ!? 小里が!?」
「おい七井どういうことだよ、抜け駆けか?」
「もしかして最近いなかったのも、ふたりでいたから的な?」
「はー??」
元々大声で喋ってたのが、更に大きくなる。
「でも七井特定の女子に興味持つことなかったじゃん。今までも適当だし」
「全然付き合わなかったしな。
なになに、やっぱ小里ちゃんは違った? あぁいう奥ゆかしい可愛い子が良かったんだ?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「ってか、待てよ……
いや待て待て、こいつ運命の奴じゃんそう言えば」
「そうだった!え? ってことは…もしかして………」
「「「お前の運命の相手って、小里ちゃん……??」」」
「ーーっ!」
思わず、首から下げてる指輪を服の上から握りしめた。
「待って待って、ちょっとは俺にも喋らせて。
お前らまじで話突拍子すぎ。ビビるって」
「いや突拍子にもなるわ!どうなの七井合ってる!?」
「俺らの…というか2年全員敵に回す気!?
小里掻っ攫ってくのか!?」
「やめてまじで!お願いだから!なぁ!!」
「はははうーざ、離れろ離れろっ」
ケラケラ笑いながら戯れ合って、「まぁ」と七井がひと呼吸おく。
「そうかもなぁ程度には思ってる、かな?」
「まじ!?!?」
「はい来た俺らの敗北ーお疲れさまでーす」
「みんなの小里ちゃんが、遂に1人のものに………」
「でもまぁ、これまでの七井見てると予想つくよな。
誰にも執着しなかったのに、そんな毎日会ってたらね」
「確かに…そうだな……お前も遂にその指輪返すときが来たのか」
「いや、まだ決まったわけじゃないから」
「けどほぼ確なんだろ? さっさと伝えろよ。
そんで毎日俺らと過ごせ」
「そっか、そしたら俺ら毎日小里ちゃんと飯食えんのか!? 天国じゃん」
「それだったら別に七井とくっ付くのはありだな。許す許す」
「はよ言え七井~腹括れ~~」
「まーじでなんなのお前ら、ウケるんだけど。
ってかくっ付いたらふたりで過ごさせて。空気読めよ」
「きたきた独占欲!
駄目だぞそういうのはーずるいぞお前!」
「ははははっ!」
仲の良さそうなグループ。
もし七井と付き合ったら、自分もここに…入るのだろうか……?
友だちなんて、って。
七井にも「知り合いで」ってお願いした。
けど、あの顔の広い七井があんな楽しそうに笑ってる。
それなりに観察してたけど、あれは仲いい人にしか見せない笑顔だ。
しかも、多分まだ誰にも言ってない本音を語った。
「僕が運命の人なのかも」って、まだ可能性の段階のことを言った。
(そんなに七井が信用してる人たち…なら……)
七井のことを応援してるような、まぁ自分たちのためかもしれないけど、背中を押してくれてるような人たちなら……
もしかしたら僕も……信用できr
「それで? 七井。
小里が自分の運命かもって思った時の感想は?」
「んー……正直、
ーー女でよかったなぁって」
(…………ぁ、)
「あぁー確かに。
ここまでの薔薇見てると結構男同士多いもんな」
「緑と黄色以外そうじゃね?
まぁでも、自力で見つけ合えるのが難しい運命を校長先生が手伝いますよって感じだっけ。
ならそうなるよなー寧ろ男女のほうが珍しいかも」
「確かに男は俺も想像できねぇんだよなぁ……よかったな七井、稀なほうで」
「やっぱ嫌悪感? 七井ってどっちもいけんのかと思ってた」
「いや、まぁ考えた事ないだけで本当はどっちもいけるかもだけど。
男のヤり方知らないしそっから調べるのがまず大変じゃん? それに初めてって実質童貞と一緒だし、なんか恥ずいなって」
「そうか女とヤってても童貞なのか、そりゃやばいわ。
積み上げてきたステータスが死ぬ」
「成る程なぁ」
みんなが同意する中、重い足を一本後ろに下げた。
待って、待って駄目だ。
駄目だどうしよう、これじゃ。
さっきまでのふわふわした感情は跡形もなく消え去って、身体が震える。
こんなのは駄目だ。
これ以上聞いたら、僕は。
(……というか僕、なんで女の格好してるんだっけ)
「え、それなら逆に男しか経験のない奴どうなるんだ? ステータスない?」
「ゲイの世界ではあるんじゃね? 『何人とヤった』っていうのは同じようにステータスだろ。
ーーまぁ、普通の世界では〝ノーカン〟だろうけど」
「ノーカンなぁ確かに。
住む世界が違ったら通用しないってことか、所詮」
「っ…ぁ、ぁ……」
『前から興味あったんだよな。
お前顔可愛いし、全然イケるわ』
駄目だ待って、違う。
『いいじゃん別に減るもんじゃねぇだろ、男同士。
ってか、俺ら友だちじゃん』
違う違う。
これは前のことで、今のことじゃなくて
だから
『は? なに言ってんだお前。
ーーノーカンだろ、こんなこと』
僕はーーーー
「彩ちゃん?」
「っ、」
振り向くと、同じクラスの女の子。
「どうしたの? 具合悪い?」
「ぁ…は……っ」
「え、ちょ、貧血? 吐きそう?
私今から寮帰るけど一緒帰る? それとも保健室がいい?」
「りょう…が……っ」
「わかった、じゃあゆっくり歩こうね」
静かに話しかけてくれ、肩を支えられ一歩踏み出す。
バクバクする心臓、グニャリと曲がる視界。
罪悪感と緊張と恐怖と、それから絶望と。
いっぱいいっぱいの中、頭ではさっき聞こえた会話がずっと木霊していて。
大丈夫、あんなの男特有の会話だ。
僕だって小中学生の時たくさんしてきた。だから別になにも思わない、普通だ。知ってる。
でも だけどーー
「っ、ふ、うぇぇ……」
ぶわりと溢れる涙で、視界が別の意味で歪みだしてきて。
「苦しいね、もうちょっとだよ」とさすってくれる手の温度を感じながら
「お前ならいけるだろ、行け!」「それでさっさと俺らのとこ連れてこい!」とヒートアップしている会話を、無理やり遮断した。
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