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第1章 大罪人と救世主
第11話
四日目の朝は、キスで目覚めた。彼は唇を離すと、僕の鼻を突っついていたずらっぽく笑った。
「おはよう、救世主」
「おはようございます……」
まだ頭がぽやぽやしてる。
「体はどうだ」
「ん……筋肉痛っぽいところはあるけど、大丈夫です」
「情けないことに歯止めが利かなかった。許せ」
こんな風に言われて指先にチュッてキスされて、許せないなんて誰が言うもんか。第一、
「情けないとか、不甲斐ないとか、あなたに一番似合わない言葉ですよ」
「だが、事実だ」
僕が体を起こすのに手を貸しながら、言い張った。僕はいつの間にか、パジャマを着ていた。体の感じから言って、眠ってる間にお風呂に入れてくれたのかもしれない。さっぱりしてる。
「ゾイが張り切って作った祝いのジュースだ。うまいぞ」
グラスになみなみと入っているのは、オレンジ色の液体。飲んでみると、みかんとマンゴーと苺をミックスしたような味がした。
「うん、おいしいです。お祝いって?」
ベッドに腰かけている彼は、ばつが悪いといった顔をしている。黒と青を基調とした服をぴしっと来て、マントも付けている。お籠もりの三日間は終わったんだ。
「俺に聞いたな。悪い人ではないのかと」
「はい。そしたら、ラトゥリオ様があんなことを」
――今のところ、類のない大罪人だ。
「あれは、どういう……」
「世界を滅ぼすという意味だ。俺の魔力が暴走してな……。お前のおかげで免れた。ありがとう」
「え。それじゃ、あの地震や……」
景色が歪んで見えたのも、と続けるのは控えた。僕が言葉にすることで、追い打ちをかける気がしたから。
「そっか、それで……ん? 僕は何をしたんですか?」
「お前にしかできないことだ。振り返ってひとつひとつ説明するか? まず唇が」
「わーっ! いえ、説明はなしでっ。いや、詳しく聞きたいのは聞きたいんですけどそういう方向からじゃなくてっ」
ジュースが零れそうなほど動揺した僕を、彼はクククッと実に楽しそうに笑って見ている。心配事がなくなったためか、生来のかっこよさと圧倒的なオーラに、子供みたいなやんちゃな雰囲気が加わった。また胸がキュンと鳴る。
「すべて話すとなると長くなるが……いずれ、必ず」
「ラトゥリオ様……」
「お前がこの三日間、俺にしてくれたことのすべてが、俺の暴走を食い止めた。それがこの世を救った」
「何かした実感は、本当にないけど……でも、よかったです」
してもらったのは僕の方だから。僕も何かできたのなら、嬉しい。
残りのジュースを飲み、ベッドから降りた。顔を洗って着替えると、肩を抱かれた。そうか……もう、お姫様抱っこでくっついていなくてもいいんだ。寂しい、なんて。三日前の僕が聞いたら、何て言うだろう。
「抱えていきたいのは山々だが、今朝は人目がある。かわいらしい姿を誰にでも見せてやるわけにはいかない」
「かっ……。最初の日はいきなり抱えてったじゃないですか」
「緊急事態だった」
「そりゃあそうでしょうけど」
「拗ねるな。二人きりの時にはいくらでもしてやる」
「拗ねてませんっ」
軽口を叩いてくれるのが嬉しくて、つい応じてしまう。じゃれているうちに食堂についた。
「まあまあ、仲のよろしいこと。おはよう、レオ」
「ゾイさん! おはようございます! 皆さん、おはようございます」
ゾイさんと、メイド服姿の、高校生ぐらいの女の子が二人、それにすらりとした給仕の男の人。みんな、明るく、親しみ深く挨拶してくれた。
席は昨日までと同じ、ラトゥリオ様の隣。あ、と思いついて、ゾイさんに声をかけていいかどうか彼に目で尋ねた。頷いてくれたので、彼女がそばに来た時に服のお礼を言った。
「ゾイさん、いろいろ用意してくださってありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう、レオ」
その言葉は、きっと僕が思っている以上に重い。うまく言えないから、頭を下げるしかない。
「サイズはどう?」
「ぴったりです」
「よかったわ。あら、スープが冷めているようね。ちょっと失礼」
ゾイさんが皿に手をかざすと、小さな稲妻が走った。ほかほかと湯気を立てるスープと彼女の顔を見比べて、ああ、と納得した。ここはそういう世界なんだ。彼女はパチンと僕にウインクを寄越した。
「おはよう、救世主」
「おはようございます……」
まだ頭がぽやぽやしてる。
「体はどうだ」
「ん……筋肉痛っぽいところはあるけど、大丈夫です」
「情けないことに歯止めが利かなかった。許せ」
こんな風に言われて指先にチュッてキスされて、許せないなんて誰が言うもんか。第一、
「情けないとか、不甲斐ないとか、あなたに一番似合わない言葉ですよ」
「だが、事実だ」
僕が体を起こすのに手を貸しながら、言い張った。僕はいつの間にか、パジャマを着ていた。体の感じから言って、眠ってる間にお風呂に入れてくれたのかもしれない。さっぱりしてる。
「ゾイが張り切って作った祝いのジュースだ。うまいぞ」
グラスになみなみと入っているのは、オレンジ色の液体。飲んでみると、みかんとマンゴーと苺をミックスしたような味がした。
「うん、おいしいです。お祝いって?」
ベッドに腰かけている彼は、ばつが悪いといった顔をしている。黒と青を基調とした服をぴしっと来て、マントも付けている。お籠もりの三日間は終わったんだ。
「俺に聞いたな。悪い人ではないのかと」
「はい。そしたら、ラトゥリオ様があんなことを」
――今のところ、類のない大罪人だ。
「あれは、どういう……」
「世界を滅ぼすという意味だ。俺の魔力が暴走してな……。お前のおかげで免れた。ありがとう」
「え。それじゃ、あの地震や……」
景色が歪んで見えたのも、と続けるのは控えた。僕が言葉にすることで、追い打ちをかける気がしたから。
「そっか、それで……ん? 僕は何をしたんですか?」
「お前にしかできないことだ。振り返ってひとつひとつ説明するか? まず唇が」
「わーっ! いえ、説明はなしでっ。いや、詳しく聞きたいのは聞きたいんですけどそういう方向からじゃなくてっ」
ジュースが零れそうなほど動揺した僕を、彼はクククッと実に楽しそうに笑って見ている。心配事がなくなったためか、生来のかっこよさと圧倒的なオーラに、子供みたいなやんちゃな雰囲気が加わった。また胸がキュンと鳴る。
「すべて話すとなると長くなるが……いずれ、必ず」
「ラトゥリオ様……」
「お前がこの三日間、俺にしてくれたことのすべてが、俺の暴走を食い止めた。それがこの世を救った」
「何かした実感は、本当にないけど……でも、よかったです」
してもらったのは僕の方だから。僕も何かできたのなら、嬉しい。
残りのジュースを飲み、ベッドから降りた。顔を洗って着替えると、肩を抱かれた。そうか……もう、お姫様抱っこでくっついていなくてもいいんだ。寂しい、なんて。三日前の僕が聞いたら、何て言うだろう。
「抱えていきたいのは山々だが、今朝は人目がある。かわいらしい姿を誰にでも見せてやるわけにはいかない」
「かっ……。最初の日はいきなり抱えてったじゃないですか」
「緊急事態だった」
「そりゃあそうでしょうけど」
「拗ねるな。二人きりの時にはいくらでもしてやる」
「拗ねてませんっ」
軽口を叩いてくれるのが嬉しくて、つい応じてしまう。じゃれているうちに食堂についた。
「まあまあ、仲のよろしいこと。おはよう、レオ」
「ゾイさん! おはようございます! 皆さん、おはようございます」
ゾイさんと、メイド服姿の、高校生ぐらいの女の子が二人、それにすらりとした給仕の男の人。みんな、明るく、親しみ深く挨拶してくれた。
席は昨日までと同じ、ラトゥリオ様の隣。あ、と思いついて、ゾイさんに声をかけていいかどうか彼に目で尋ねた。頷いてくれたので、彼女がそばに来た時に服のお礼を言った。
「ゾイさん、いろいろ用意してくださってありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう、レオ」
その言葉は、きっと僕が思っている以上に重い。うまく言えないから、頭を下げるしかない。
「サイズはどう?」
「ぴったりです」
「よかったわ。あら、スープが冷めているようね。ちょっと失礼」
ゾイさんが皿に手をかざすと、小さな稲妻が走った。ほかほかと湯気を立てるスープと彼女の顔を見比べて、ああ、と納得した。ここはそういう世界なんだ。彼女はパチンと僕にウインクを寄越した。
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