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第3章 王子
第1話
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「香原さん?」
「榊さん……この方は、あの、何て言ったらいいか」
「学生時代の友人だ。会えて嬉しいよ」
あくまでもスマート。人前で私を困らせるようなことはしない。あんたまだ学生じゃないのと喉から出かかった。我慢、我慢。
挨拶を済ませ、榊さんが、私がカリーダカンパニーの担当に加わることを話してくれた。
「彼女なら安心だ。僕の仕事上の人間関係も大方把握しているから、話が早くてこちらも助かる」
「そうでしたか」
榊さんは私に軽く頷いた。助かるよ、と言ってくれているみたい。役に立ててよかった。
王子との再会も、このタイミングでなければ素直に嬉しい。昨日からもう、怒涛の出来事で、最後に爆弾が落ちた感じ。もっと、お互いに年を取ってからの再会になると思ってた。
四十分ばかり話したところで、王子に頼まれて資料を持ってきたのは、正に私が「把握している」範囲の人物だった。
「橋本さん、お久しぶりです」
「香原さん、元気そうだね。今日はびっくりしたでしょう」
「ええ、それはもう。橋本さんもこちらにいらしたなんて」
「僕は去年からここへ来たんだ。いわば先発隊としてね」
私より一歳、王子より二歳年上の橋本さんは、王子の補佐役として一生を過ごすのだと早くから決めていた。その関係が続いていることに安心した。
「橋本さんとも知り合いだったとは。香原さんには驚かされてばかりだな」
「彼女は逸材ですよ。ところで、先日の案件でいくつか確認しておきたいことがあるんですが」
「行ってやってくれ。その間、彼女は僕がお相手しよう」
「分かりました。では」
榊さんは「すまないね」と言って部屋を出て行った。パタンと、かすかな音を立ててドアが閉まった。橋本さんに、意図的に二人きりにされたのは明らかだった。
「……」
「……えーと……コーヒー淹れようか?」
「いいのか!?」
「そんなに身を乗り出さなくても。この辺、触っても大丈夫?」
「ああ、自由にやってくれ。僕の妻になるはずだった、今もその可能性が十分にある君だ。遠慮はいらない」
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
心臓に悪い言葉は、全然悪気がない。彼にとっては何もおかしくなくて、何なら百パーセント私を気遣っての言葉。
いつかいい仕事を一緒にしようね、と約束した、ひとつ年下のかわいい元カレ。出会いは大学二年の秋だった。
「榊さん……この方は、あの、何て言ったらいいか」
「学生時代の友人だ。会えて嬉しいよ」
あくまでもスマート。人前で私を困らせるようなことはしない。あんたまだ学生じゃないのと喉から出かかった。我慢、我慢。
挨拶を済ませ、榊さんが、私がカリーダカンパニーの担当に加わることを話してくれた。
「彼女なら安心だ。僕の仕事上の人間関係も大方把握しているから、話が早くてこちらも助かる」
「そうでしたか」
榊さんは私に軽く頷いた。助かるよ、と言ってくれているみたい。役に立ててよかった。
王子との再会も、このタイミングでなければ素直に嬉しい。昨日からもう、怒涛の出来事で、最後に爆弾が落ちた感じ。もっと、お互いに年を取ってからの再会になると思ってた。
四十分ばかり話したところで、王子に頼まれて資料を持ってきたのは、正に私が「把握している」範囲の人物だった。
「橋本さん、お久しぶりです」
「香原さん、元気そうだね。今日はびっくりしたでしょう」
「ええ、それはもう。橋本さんもこちらにいらしたなんて」
「僕は去年からここへ来たんだ。いわば先発隊としてね」
私より一歳、王子より二歳年上の橋本さんは、王子の補佐役として一生を過ごすのだと早くから決めていた。その関係が続いていることに安心した。
「橋本さんとも知り合いだったとは。香原さんには驚かされてばかりだな」
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「行ってやってくれ。その間、彼女は僕がお相手しよう」
「分かりました。では」
榊さんは「すまないね」と言って部屋を出て行った。パタンと、かすかな音を立ててドアが閉まった。橋本さんに、意図的に二人きりにされたのは明らかだった。
「……」
「……えーと……コーヒー淹れようか?」
「いいのか!?」
「そんなに身を乗り出さなくても。この辺、触っても大丈夫?」
「ああ、自由にやってくれ。僕の妻になるはずだった、今もその可能性が十分にある君だ。遠慮はいらない」
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
心臓に悪い言葉は、全然悪気がない。彼にとっては何もおかしくなくて、何なら百パーセント私を気遣っての言葉。
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